初めての
門が開いた後、城壁をくぐって彼らが入ってきた。門はそのまま、開いたときと同じように閉じていく。
そして、僕は商隊の方へ向かって歩いて行って……向こうが僕のことに気付いた。
「え? クロノ?」
アルバートさんは僕の顔を見て目を見開いていた。
少し間をおいて彼の目から涙があふれ出す。
「ちょ、アルバートさん!?」
「良かったああああああああああああ!」
叫んだ。僕が生きていてよかったと涙を流して喜んでくれた。
「あーあー、アルバート、仕方ねえなあ」
彼の仲間がアルバートさんのの顔にハンカチを押し付け、涙をぬぐっている。
あとで聞いたところによると、彼の故郷の村は魔物に滅ぼされ、その時行方知れずになった弟がいたらしい。そして、僕がその弟さんと同じくらいの年だということも聞かされた。
「いや、すまん。恥ずかしいところを見せた」
「いいえ。事情はお仲間の方から聞きました」
はははと笑いながら頭をガシガシかいている。少し顔が赤い気がした。
「それはいいとして、ここは一体?」
「ここは古代都市ガルニアです。で、どうも僕……領主になっちゃったようで」
「は?」
アルバートさんはぽかんとした顔で僕の方を見ている。
しばらくして立ち上がると膝をついて僕の方に頭を下げた。
「ちょ!? アルバートさん!?」
「クロノ殿。俺は貴方に一命を救っていただいた。命の礼は一命をもってするべきだと俺は思う」
「いや、そんな大げさな」
「あれほどの強さの魔獣を退けた結界は相当の魔力を使ったのではないか?」
「どうなんでしょう……?」
「その後の治癒魔法もだ。俺をはじめ、致命傷を負っていた者が完全に回復した。相当量の魔石を使ったのではないか?」
魔石は文字通り、魔力を含んだ石だ。その大きさや純度にもよるが、魔法の補助や増幅に使われる。湯水のように消費すれば蘇生魔法すら可能とするとされる。
そういう事情もあって、魔石は非常に高価だ。人の頭ほどの大きさで王都に屋敷が建つと言われる。
その大きさでも蘇生魔法には不足するとかなんとか。
「えーっと……そこらへんまだよくわかってないんですよ。それで、ですね。今ここに住んでるのって僕だけらしいんですよ。よかったらここに住んでくれませんか?」
「それは……願ってもない。というか話をそらさないでいただきたい」
「ほえっ!?」
アルバートさんは真面目な顔でこちらを見ている。
『マスター、結界の効果が切れるまでに軍備を整えないといけません。都市が起動した今、コアに備蓄されているマナは魔物から見たら最高のごちそうです』
指輪からチコの声が聞こえてきた。
「え? ということは……?」
『彼には戦士長になってもらいましょう』
「ええ……いいのかな?」
『断られたらその時です。ただ、喜んでお受けしてくれそうな感じですけどね』
アルバートさんはきょとんとこちらを見ていた。チコの声は僕にしか聞こえていない。周りから見れば僕がいきなり独り言を始めたようにしか見えないだろう。
「アルバートさん。お話の続きをうかがっても?」
「お、おお。なんか雰囲気がガラッと変わりましたな。では……俺の剣をあなたに捧げさせてほしい」
「わかりました。僕の望みもあなたと同じです。この都市を守る戦士長を引き受けてもらいたいのです」
「承知いたしましたぞ。殿!」
「うぇ!? との!?」
「貴方は俺の主君になったのですからな。殿と呼んでも問題ないでしょうが。わっはっはっはっは!」
そのあとはなし崩しに宴会になった。居住区と名付けた区画には、長屋が一軒と、倉庫ができている。彼らを案内する間に指輪を使って指示したものだ。
というか、目の前にいきなり窓が現れて、執務室と同じように操作ができたのは驚いた。
マテリアルだと数時間かかるようなので、マナで即時建設をしてみた。画面上で一瞬空間が揺らいだと思うと、即座に建物ができていたのは驚いた。
商隊の面々は、ここに残る人や、行商を続ける人、いろいろだった。全員が残ると計算していたのは少し早計だったようだ。
「命を救われた恩は忘れていません。さらに図々しいお願いですが、一部のものをここにおいていただきたい」
「もちろんです。人がいないと都市の運営もままなりません。良かったら移住希望の人がいたらここのことを教えていただきたいと思います」
「もちろんです。我々は商人ですので、まず今ある商品を約束通り届けなければいけないのです」
「ええ、そこはよく理解しています。……アルバートさん」
「殿、俺のことは呼び捨てで結構です」
「あの、えと……アルバート。頼みがあるんだ」
「殿、俺は貴方の家来なのです。頼みなどと言わず命じてください」
「……うん、わかった。じゃあアルバートに命じます。彼らの目的地まで護衛を」
「……承服しかねます。殿の安全はどうなさるおつもりか?」
「僕は大丈夫。そうだね、アルバート。全力で僕に斬りつけて」
その一言に何かを感じ取ったのだろう。しかし、指輪の力が言う通りじゃなかったら僕は真っ二つだな。
アルバートはさすがに真剣は出さず、練習用の木剣を振り下ろした。
歴戦の冒険者の気合はすさまじく、僕は身体をこわばらせ、目を閉じてしまう。
「はあっ!」
僕の体を覆うように結界が張られ、木剣は跳ね返されてアルバートの手からすっ飛んでいった。
「殿、その結界の効果時間は?」
しびれた手を押さえながらアルバートが聞いてくる。
『マスターのエーテルが持つ限りです。さらに都市内ならマナから自動変換されます。事実上永続、ですね』
「都市の中にいる限りはずっと使える」
「……承知しました」
不承不承といった感じでアルバートがうなずく。
都市に残る人たちには、長屋の部屋を割り振った。そこで一晩休んでもらって、明日以降の仕事を割り振るという段取りだ。
こうして翌朝、僕の初めての家臣であるアルバートは、初めての命令に従って商隊の護衛に付き、都市を出立した。
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