周辺の探索

 アルバートは護衛に仲間を引き連れて行った。僕はチコの助言を聞きながら、都市に住む人々に仕事を割り振る。

 そんなさなか、僕は声をかけられ振り返った。


 そこにいたのは商隊で見張りなどを担当していたコンランドだった。冒険者ほどじゃないが剣と弓を使える、用心棒的な立ち回りをしていた。

 魔物との戦いで重傷を負っていたが、まとめて治癒魔法のおかげで命を拾ったと言っていた。


「えーと、クロノのだんな?」

「どうしたの?」

「へい、実は手すきがいたら周辺の探索をしてみたいんですよ」

「ん―……危険はない?」

「あっし一人だとさすがに厳しいですが、相棒のヘンリックと、あともう二人ほどいれば……」

 コンランドは元冒険者だった。彼らは最小単位は一人だが、探索などを行うときは4人を最小単位で行動する。

 それなりに用心はしているということか。


「わかった。許可する。ただし、危険を感じたらすぐ撤収すること。治癒魔法があるからとか思わない様に。あれは切り札なんだ」

「へい、わかっております。アルバートの旦那にもきつく言われてますんで」

「うん、ならばいい。気を付けてね」

「へい」


 コンランドはあらかじめ目をつけていた仲間を引き連れ、意気揚々と城門を出て行った。


『マスター、彼らの様子を見ますか?』

「そんなことできるの?」

『可能です。使い魔を放てばよいのです』

「僕には魔法の素養がないんだけど……」

『そのための私です。万能型支援デバイス、チコの名前は伊達ではありません』

「わかった。じゃあ、やり方を教えてくれるかな?」

『はい、ではマスターのエーテルをぐぬぬっと手のひらに集めてください』

「ぐぬぬ……?」

『気合です』

 どうしろと? 

 口から出ていたらしい。チコの口調が若干剣呑なものになる。

『……では、マスターの体には血が流れています。それと同じように体の中を流れる魔力を感じるんです。心臓の鼓動を意識してみてください』

 意識を内面に沈める。呼吸を意識する。そうすると心臓が脈打つ感覚がわかる。

「あ……」

 体の中にあったぼんやりとしていた感覚が徐々に明確になってくる。

『さすがマイマスター。素晴らしい素質です』

 あとで聞いたけど、体内の魔力を感じるには人によってひと月はかかるそうで、数分でそれを成し遂げたのは伝説になるとかなんとか。


『ではそうですね、小鳥をイメージしてください。そして掌の上に載っている姿を思い浮かべるのです』

 昔、まだ家があったころ、パンくずを手のひらに乗せて待つと、小鳥が飛んできてパンくずをついばんでいた。

 そして目を開くと、あの頃のように小鳥が僕を見上げている。

「ごめん、パンくずはないんだ」

『マスター、何を言ってるんですか? その鳥はマスターのエーテルで編まれた魔法生物です。普通の生き物のように食事はしません』

「あ、ああ」

 小鳥は重さがなく、普通に手の上で僕を見上げている。クイッと首をかしげるしぐさが可愛い。

『まず、鳥に少し飛んでもらってください』

 頭の中で飛べと念じた。するとこ小鳥はパタパタと翼を動かし、そのまま飛び上がった。

『鳥と手のひらに糸でつながってる状態をイメージしてください』

「んー……こうか!」

『そう、そして彼らのことを思い浮かべてください』

 僕はコンランドのことを思い浮かべた。すると小鳥は、彼らが向かった方向に飛び去って行った。

『あとは小鳥のことを思い浮かべてください』

 いうとおりに小鳥のことをイメージすると、指輪から操作窓が開いた。

 そこに映るのは、空を飛ぶ鳥の目線から見た景色と、草原を隊列を組んで歩くコンランドたちの姿だ。

「へえ、ちゃんと陣列を組んで歩いてる」

 コンランドは弓を手に、先頭を歩いている。その後ろには剣と盾を構えた男が一人。さらに両脇には少し間隔をあけて一人づつ歩いている。

 どの方向から攻撃されても、すぐにほかのメンバーが救援に入れる状態だ。


 彼らが歩いているのはまだシールドの中で、魔物が入ってくることはない。それでも万が一を想定して行動していた。

 よほど無茶な魔獣でも出ない限り彼らの探索は成功するだろう。そう考えて、使い魔との同期を切った。


『……なんという才能。古の魔導王に匹敵するかもしれません。あのエーテル量や、私と同期できる魔力波長。まさか……?』


「そうだ」

 僕は思いついたころを実行に移してみた。さっきの小鳥を出した時のように、エーテルを編み上げ動物を創り出す。そしてそのまま動物たちを領内に放った。


『……普通は1体の使い魔を創り出して制御するのが精いっぱいのはずなんですけどねえ。なんで10以上も小動物を創り出して展開しやがってますかね。人外すぎるんですが』

 上記のコメントは数日後、放った使い魔の視界から情報を得ていた時にあきれ返った口調でチコに言われたのだった。


 探索はいくつかの成果を上げていた。少し開けた土地がいくつかと、湖。あと、森が二つ。

 石切り場に使えそうな岩山と、コンランドが持ち帰った石には鉄や銅が含まれているそうだ。


「採集とかしなくてもマナを変換すれば資材はそろうよね?」

『それは最終手段にしておいた方がいいですね。彼らにも仕事を与えないといけません。与えられることに慣れてしまうと人は働かなくなります』

「んー、たしかに。ただ何かあったときは遠慮なく手を差し伸べるよ」

『そうですね、そのための備えはしっかりとすべきです』


 次にコンランドは湖周辺を探索してきた。成果は丸々とした魚だった。周辺にはハーブとして使える野草があったそうだ。

 同じく、森ではけもの道をたどると、洞窟の中で岩塩を見つけたとの報告が上がった。後日、人を派遣してさらに収穫を試みる話になった。

 思った以上に多い自然の恵みに少し先行きが見えてくる。


 そうこうしているうちにアルバートが帰還した。帰って来た時には女性や子供なども連れてきている。


「殿、ただいま戻りました」

「お疲れ様、アルバート」

「はっ。こちらの都市に移住を希望する者です。あと物資も買い付けてきましたので、倉庫に収納させています」

「うん、目録は……なるほど」

 アルバートにここ数日あったことをを伝え、新規の住民の仕事の割り振りなどを行った。

 商隊はしばらくこちらと隣村を往復してくれるそうだ。商売上の交流ができれば人の往来も増える。

 人に余剰ができたらまずは道の整備からだろうか。


 いろいろとやることが増えてきて、どんどん増えていく建物に僕は何とも言えない充足感を感じるのだった。

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