答え合わせ。
居間に集められた四人と刑事達。この時点で犯人は母、父、妹、友人のモーリーに絞られる。
「さて早速ですが、リスさん。
被害者は部屋の掃除をしてますか?」
「はい?
突然何をおっしゃるの?」
支離滅裂な質問に聞こえるが、探偵の顔は真剣そのもの。ふざけてはいない
「普段彼は、部屋の掃除をご自分で行っていますよね?」
「..えぇ、部屋の掃除は勝手にするなと言われてましたから。長い間自分でやっていました」
「それと事件に何の関係がある?」
「まぁまぁお父さん落ち着いて
誰だっけ名前忘れた、まぁいいや。」
「お前、失礼だな..」
被害者はきっちりとし綺麗好きの傾向が伺えた。身内ですらも部屋へ入れず秘密でもあるかのように。
「部屋の本棚にはぎっしりと本がしき積まれ種類、番号等の順番に区分けされ無駄なく収納されていました。更にその上から布を被され埃や汚れがつかないようにもケアされています。」
綺麗好きと細やかな性質が混同した人物であり、部屋はそれをはっきりと表現して見せていた。
「ちょっと待てよ
だとしたらおかしいんだよな。」
「はい?」
「ライムさん、さっき言ってたよな。
モーリー君が部屋に入ったのを見たって。あれはどういうことなんだ?」
「モーリーさん、本当ですか」
「……アイツとは一応親友と呼べる仲だったから、家族とはまた少し勝手が違かったのかも。」
「熱い友情ですか、美しい。
しかし確かにおかしいですね、ならば何故貴方が彼を殺すのか。」
「...え?」「何、殺した!?」
「ええ、彼が犯人ですよ。」
重要な事をさらりと言ってのけるのはそれが彼にとって大事な事でなく既に当たり前の事だから。
「再び聞きますリスさん、長男さんは亡くなる前に一度外に出掛けませんでしたか?」
「ああ、そういえば出掛けました。慌てた様子で外に飛び出したので急用なのだなと思いましたね。」
「そしてお父さん気付きましたか?
帰宅した息子さんは身体を濡らしていました、何故ならその日は大降りの雨だったからです。」
「そういえば..雨が降っていたな」
「なんでわかるんだよ?」
「玄関の傘立てに閉じていない傘がしまわれていました。」
「何で濡れてるってわかる?」
「勘です。
傘をさしても多少は濡れるでしょ。」
死ぬ間際に綺麗好きの長男が急いで外に飛び出して態々濡れる理由。
「外に出て会っていたのは貴方ですよね?
モーリーさん!」
「僕に会う?
汚れるのを嫌うあいつがどしゃ降りの中どうして会ってくれるんだよ。」
「本ですよ」「本?」
「予め本を頼み込んで一冊借りておく、それを返したいと雨の日に外を歩いていれば二択のリスクがうまれます。」
自分が濡れるリスク
自分の大切なものが汚れるリスク
それを秤にかけたとき、被害者の場合は自分が濡れるより、私物の状態を保つ事が上回った。
「貴方の事は一応親友という認識だ、綺麗好きといっても本くらいは借りれる筈です。」
「はっ、バカバカしい。憶測でしょ?
犯人にしたいからってそれっぽくさ。確かに会ったけど、それは元々家に遊びに行く予定があってのついでだよ」
「だ、そうですが妹のライムさん。
いかがですか」
「ライムちゃん?」
閉ざされた真の口が、紐の緩んだ現実の下漸く徐々に開いていく。
「その男、兄の部屋にノックもせず入ってった。身体を透かして」
「身体を透かして?
確かに変なものを見たな..」
「インビシブルを使ったのでしょう、撹乱魔術の一つです。何度か家に上がったのも下見を兼ねての確認です。」
姿を消すインビシブルは直接的な攻撃性は無いが、咄嗟の危険を避ける際や逃走をはかるときに最適の魔術。物理的にも透明になるので、壁を擦り抜け部屋に侵入する事も容易に出来る。
「明るい光の下とかなら、薄く影くらいは見えるからさ。本当に違和感あったよ、壁を抜けてくんだもん。」
「何だよソレッ…!
百歩譲って侵入したとして、アレは凄く魔力を使う術だ。その後フレイムを撃って殺すなんて無理、それに扱いが難しいらしいし、からっきしの僕じゃ一発では絶対決まらないだろ!?」
「だからこれを使ったんです。」
「..何だよそれ?」
懐から徐に取り出したのはコルクの付いた小さな赤い瓶。中ではフラフラと何かが飛び回っている。
「妖精の瓶・
「あの破片..それだったのか!」
蓋を開けたら直線的に妖精が炎を噴き上げる。使い捨てなので使用後は瓶が弾け中の妖精は消滅する。
「
「普通ならね、リスさん。息子さんは帰宅後身体を清めましたね?」
「ええ、直ぐにお風呂に入ったわ。」
「それがどうしたっ!!」
「彼の体質を知っていますか?
正確には〝彼等〟の体質ですが。刑事さんに調べて頂きました。皆様の体質について。」
着用していたコートのポケットから、畳まれた紙を取り出し広げる。必要な資料の一枚、フォトン一族の性質について書かれた書類。
「フォトン家の皆様は木のエレメントを有してます。当然弱点は火、そしてそれは水を帯びる事で更に拡大する」
雨に身体を浸し、その上で湯船に浸透させる。そうすれば使い捨てアイテムを使用しながらフレイム大程の威力を引き出せる。
「木のエレメントは心臓にあります。火はそれに集束する習性がありますから、弾丸のように心臓に飛んでいく。そしてその残り火が背後のガラスに当たってヒビと焦げを残し、妖精と共に消滅し証拠は無くなる。」
「枯渇した魔力を逆手にとって、細工した状況にアイテムを絡めた訳か。」
「そういう事です、自然現象である雨すらも魔力に変わる場合がある」
力が足りなければ補えばいい。
弱点を付けば巨人も足を掬われる。
「貴方が犯人です、モーリーさん」
友人の顔は青冷めていた。というよりは冷え切っていた。一瞬身体を消して逃げ出す事を考えたが、それ程の気力があるようには見えなかった。
「何で殺したの、モーリーくん..?」
「息子が君に何をした!!」
「..尋問か、後は任せましたよ刑事さん。僕こういうの苦手なんで」
「え、おい帰るのか?」
「報酬だけここに届けて下さい。
郵送でいいので、お願いしますね」
手渡された名刺には、会社名や組織名は一切無く、名前と住所のみが記されていた。
「あの!」「はい?」
「……ありがとう。」「...はい。」
「ライムさん..。
我々もご協力感謝する」 「いえ。」
簡素な返事をして、探偵は去っていった。
法外な金銭を要求する訳でも無く、知識を下手にひけらけし良い顔をする訳でも無い。突然現れ突然消えるそこにあるのはただ謎を解き明かす探究心と好奇心。魔法のタネを探る事を「クエスト」と呼び、だだそれをクリアする。黒魔術を解く白魔術師。
魔法探偵 バリー・キャスリン
魔術を持たぬ、推理の魔術師である。
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