3.絶対主義的且虚無的現実逃避の手法例
(1)ひとりしりとり
皆さん、子どもの頃に“しりとりゲーム”という遊びをしたことがあると思います。
はじめの人が例えば「りんご」と言ったなら次の順番の人はりんごの“ご”という最後の文字からはじまる言葉を考えて答えます。この場合、例えば「ゴリラ」と答えて次の順番の人に回します。誰かが言った言葉と同じ答えを言うか、次に続かない“ん”で終わる言葉を答えると負けになります。このゲームは最低2人以上で行います。これをひとりで行うのが“ひとりしりとり”です。
ひとりしりとりは他者とは闘いません。言ってみれば自分自身との戦いです。この戦いはそうそう簡単には終わりません。何故なら同じ言葉や“ん”で終わる言葉を選択する事がまずないからです。よってこの遊びは長時間に及びます。へたをすると何日間にも及びます。勿論、寝食はきちんとしてください。私は以前、無理をして吐き気と幻聴に襲われ家内に泣いて止められた事があります。こう記すと怖いと思う方もおられるでしょうが、ご心配には及びません。いざとなれば“ん”で終わる言葉を使えばいいのですから。
(2)無精ひげ花
私の古くからの友人Aのお宅にお邪魔した折、衝撃的なモノをみせられた事があります。
無精ひげをびっしりと生やしたプラスチック消しゴム。いえ、彼が黙々と抜いたあごひげを消しゴムに生け花のように刺していたのでした。なんでも楊枝をプスプスと刺して穴を開け、そこにあごひげをさしていったとのこと。本人はちょっとした芸術作品を作ったつもりなんでしょうが、気色悪いことこの上ありません。
しかし、ひげを抜いている間の“無”になれる時間のなんと充実したことか!そして、なんと馬鹿馬鹿しいことか!
私は彼の友人であることを誇りに思ったものでした。
(3)バックロール
皆さん、畳あるいは布団の上で水泳のクロールをしたことがあるでしょうか?フォームの練習、確認の為のイメージトレーニングになりますよね。その手足の動きを逆にしてみるとどうなるでしょう?本来、バタ足をする足の動きを腕の水をかく動きに変え、両足を交互に振りかぶり水をかくのです。そうすればバックしていく気がしませんか?後ろに進むイメージです。これをマスターしたら本当にプールで試してみるのも面白いかもしれませんね。勿論、こんな事に意味はありません。只、練習している間は浮世の嫌な事も一時的に忘れられるものです。
如何だったでしょうか?“ひとりしりとり”や“無精ひげ花”の素晴らしいところは全く生産性がないという事です。そして何の得にもなりません。夢も希望もありません。これこそが絶対主義的現実逃避であり、己と戦い抜いたり“バックロール”をマスターしたところで虚しさしかありません。“虚無派”と言われる由縁です。
しかし場所も選ばず、費用もかからず、あっという間に時間が過ぎていることに気づくでしょう。現実逃避の醍醐味だけは間違いなく味わえるはずです。
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