第9話 ソーニャ、買い物に行く

 休日。

 僕はソーニャと、夕食の買い出しのため、イオンへ向かって歩いていた。

「大助、今日は何食べたいデスか?」

「刺身かなぁ」

 そうデスか、とソーニャは頷き、

「じゃあ私が全裸になって横たわるので、その上にお刺身を盛り付けていただければト……」

「こらこら、女体にょたい盛りはだめだぞ〜」

 ソーニャの頭をコツンと叩く。

「むー、凌辱された時のため、女体盛りの特訓したかったのデスが……あ、わたし他にも、買いたい物がありマス」

「疑似ザーメン用の『片栗粉』と、それにイカくささを付ける為の『イカの塩辛』だろ?」

「えへへ……さすが大助。私と、心が通じ合っちゃってマスね」

 このクレイジーガールと、通じ合っちゃってるか。

 いよいよ僕もやばいな……と戦慄していると、ソーニャが長い銀髪をきながら、

「あと大助、美容院にも寄っていいデスか? 髪をバッサリ短くしたいんデス」

「え、なんで?」

 すごく綺麗なのに、勿体ない。

「こんなに髪が長いと、凌辱の際にチ●ポに巻き付けられ、髪コキされる恐れがありマスから……」

「……」

 ソーニャにドン引きすると『まだ僕は、まともなのだ』と安心できるな。

 ソーニャはあおい目を細めて、街並みを見渡す。

「それにしても、祖国の私の町は、凄い田舎だったから……とても新鮮な光景デス」

 イオン、ツタヤ、すき家、市立病院などが立ち並ぶ、ありふれた中規模都市でしかない。

 だがソーニャは、興味を惹かれているようだ。

「日本に来てから、新鮮な体験ばかりデス」

「そうか」

「大助と出かけたり、琴葉と遊んだり、校長のキ●タマ破壊したり……」

 最後の何?

 ソーニャの数ある妄言もうげんの中でも、過去最大級のが聞こえたんだけど。

 詳しく聞いてみよう、と思った時。

「うぐッ!?」

 突然ソーニャがふらつき、地面に膝をついた。

「ど、どうした?」

 かたわらにしゃがんで、ソーニャを見る。大量の脂汗を流し、とても苦しそうだ。痛みをこらえるように、歯をきつく食いしばっている。

(これは、ただ事じゃないぞ)

 ふと、この間の球技大会の事が脳裏によみがえった。

 サッカーの試合を終えてフラフラになりながら、ソーニャは言った。


『私はある事情から、十二歳までほとんど外で遊べなかったんデス』


 その時は深く尋ねなかったが、よく考えると尋常な話ではない。

(もしかしてソーニャ、身体が弱いんじゃないか?)

 続いて思い出したのは『世界の中心で、愛をさけぶ』という映画だ。

 少年と、難病にかかった少女のラブストーリー。最後には少女は死んでしまう……

 ゾッとした。

(病院へ連れていこう)

 幸い、市立病院までは百メートル程しかない。

 ソーニャをお姫様抱っこし、歩き始める。道路が混んでるから、救急車を呼ぶよりも早いだろう。

「ううッ……。……うああッ!!」

 苦悶の声が、僕の心を掻き乱す。

「ソーニャ、ソーニャ?」

「大丈夫、デス……」

 心配をかけさせないためか、はかなげに笑う。

 その健気さが、いとおしい。

「だ、大助……」

「なんだ?」

「言わなければならないコトがありマス。実は私、貴方と、昔……」

 おい。

 やめろよ。

 なんでこんな時に、秘密を打ち明けるんだ。


 まるでこれから……死ぬみたいじゃないか。


 視界を涙でにじませながら、歩く。

 ソーニャは『秘密』を話そうとしているが、苦しさのあまり言葉をつむぐことができないようだ。

(か、神様——僕からソーニャを奪わないでくれ)

 いつもキ●ガイじみた言動に振り回されてるけど、大切な女の子なんだ。

(ああ、そうか)

 僕は、ソーニャのことを——

 大切な気持ちに気付いたとき……スマホが震える音が聞こえた。

(電話が来たのかな。でも今は出てる暇なんて……あれ?)

 僕、マナーモードにしてないぞ。

 となると、ソーニャのスマホだろうか。

 ヴーッ、ヴーッ、という音の元をたどると……そこは。


 ソーニャの股間。


 まさか——

「ソーニャ、この音」

「私のオマ●コにぶっした、ピンクローターの音デース……」

「は!?」

「ランダムに動かすよう設定したのデスが、メカトラブルか何かでローターが暴走し……立っていられナクなり……」

 僕は息を大きく吸い込み、天を仰いで、


「なんでそんなもん、してんだよ!!!!」


 これまでの人生で、最大の声を出した。

「無論、凌辱に備えた特訓デス。ピンクローター挿入されたまま、授業受けさせられたりするデショウ?」

「エロゲーではな!!」

 では、さっきまでの僕の心の叫びは、なんだったんだ。

(なにが『神様——僕からソーニャを奪わないでくれ』だよ)

 神様に、とんだ濡れぎぬ着せちゃったよ。

「じゃあソーニャ。なぜさっき、大事そうな秘密を明かしそうになってたんだ?」

「たまたまデス」

「どんなたまたま!?」

 タイミングが下手にも程があるだろ。

 ソーニャを、やや乱暴に下ろす。彼女は道端の植え込みに隠れ……一分ほどしてから、穏やかな表情で戻ってきた。ピンクローターを抜いたのだろう。

 全くもう、こいつは。いつも驚かせやがって。

(でも僕……)

 ソーニャへの大切な気持ちに、気付いちゃったよ!!

 よりによって、ピンクローターの暴走で、自爆してるとこ見て!

 感情の振れ幅が大きすぎて、へたりこんでしまう。

「ごめんなサイ大助、心配してくれたんデスね」

「したよ!! 悪いか!」

 ソーニャは申し訳なさそうな、少し嬉しそうな顔をしたあと……

 そっとハグしてくる。

 柔らかく温かな身体が、僕を包む。

(くそったれ)

 惚れた弱みで、許してしまうじゃないか。

 立ち上がり、ソーニャにデコピンする。これでチャラだ。

 ソーニャは額をさすりながら、

「大助、せっかく病院の近くまで来ましたし、寄って行きまセンか?」

「やっぱり、どこか悪いのか?」

 ソーニャは首を横に振り、

「いえ、CTで『中出しされたとき用のちつの断面図』を撮っていこうカト」

「CTの技師さんが、どういうポーズとらせればいいか困るわ!!」

 疲れのためか、ズレたツッコミをしてしまう。

「医療資源の無駄使いダメ!」とソーニャをマジ叱りして、改めて夕食の買い物へ向かった。




後書き:モチベーションにつながるので、

面白かったら作品の目次ページの、レビュー欄から

☆、レビュー等での評価お願いいたします


あと、ファミ通文庫から発売中のラノベ

『朝日奈さんクエスト〜センパイ、私を一つだけ褒めてみてください〜』

原作を担当した漫画

『香好さんはかぎまわる』

も、よろしくお願いします


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