転校してきた北欧美少女が、肉便器になることを想定して備えている

壱日千次

第1話 ソーニャ、肉便器になることを想定する

 休日。

 高校一年生の僕――江口大助えぐちだいすけは街のベンチに座っていた。

 通りすがる人々が、こちらをチラチラと見てくる。

 その原因は、僕の隣にいる美少女。

 ソーニャ・ラーゲルフェルト。一ヶ月前から僕の家にホームステイしている。

 ウェーブのかかった輝く銀髪、起伏に満ちた肢体。整った顔立ち。まるで妖精のようだ。

 清楚な白ワンピースから伸びる、長い脚をぱたぱたさせながら、

「琴葉、遅いデスねー」

「そうだな。さっきLINEは送ったんだけど既読にならない」

 琴葉――通称『琴ねえ』。

 僕を弟扱いしてくる、一つ年上の幼なじみだ。今日は一緒にソーニャに街を案内することになっている。

「ソーニャ、琴ねえが来るまで暇つぶしでもする?」

「では私が特技を披露しまショウ」

 そして、ソーニャは口をぴったりと閉じたままで、

「"コンニチワ! ワタシ、ソーニャ!”」

 腹話術だ。

 すごい、と僕が感心すると、

「腹話術は日本に来る前、徹底的に訓練しましたカラね」

「なんで?」

「陵辱されて、おち●ちんを口にツッコまれたままの状態でも『お、大きい……』と言えるデショウ?」

 確かにエロゲで、アレをくわえるシーンで、なぜかヒロインは口を塞がれてるのに喋れるな。あとそれをわかる僕もどうなんだ。

(しかし今日もこいつ、平常運転だな……)

 ソーニャは妖精のような美少女だが、大きな問題がある。

 日本の陵辱エロゲーのみで日本語を覚えたため、『日本は陵辱がまかりとおっている国』と思い込んでいるのだ。

 『日本の高校は全て、肉便器を育成するための学園』と思いこんでいる。

 ゆえに来日する前、陵辱に供えて様々な準備をしてきたらしい。

 よく言えばイカれている。悪く言えばキ●ガイだ。単なる言葉遣いのよし悪しだな。

(外見は完璧なのに)

 そう思う僕をよそに、ソーニャは通りすがる子どもに「コンニチワー」と笑顔で手を振っている。

 天真爛漫だ。

「ソーニャは明るいね」

 ハイ! とソーニャはうなずき、

「明るさと、精液の語彙だけは誰にも負けません!」

「……ん? 精液の語彙?」

「『精子』『白濁液』『ザーメン』……」

「お前は何を言っているんだ」

 僕が冷たく言うと、ソーニャはしゅんと肩を落とした。

「そうデスね。精液の語彙は、みさくらなんこつ先生には負けますね……」

「そこではなく」

 みさくらなんこつ先生とは、独自すぎるワードセンスにより、サブカル界に多大な影響を及ぼした鬼才である(実在)。先生が産んだ精液の言葉だけでも『赤ちゃん汁』『ちんぽみるく』『こくまろみるく』『ピュアしこみるく』『センズリ汁』『特濃メスミルク』などがある。つうか僕の方がソーニャより精液の語彙あるな。

 己の精液の語彙数に戦慄していると、スマホが着信を告げた。

 琴ねえからだ。通話モードにすると、

『はあ……はぁ……大助くん』

 苦しそうな声。ソーニャもスマホに耳を近づけ、息を呑んでいる。

「琴ねえ、どうしたの」

『ごめ……んね。ちょっと風邪ひいちゃって、今日はいけそうにないの』

 わかった、と言ったとき、突然ソーニャが駆け出した。

「え?」

 いったいどうしたんだ?

 「琴ねえ、お大事に!」と告げて通話を切り、僕も走る。

 ソーニャに追いつくと、必死の形相だった。

「琴葉……琴葉!!」

(琴ねえの風邪を、心配しているのか)

 ソーニャはキ●ガイだが、心根は優しいヤツなのだ。

 琴ねえの家に到着。家族に挨拶して部屋に通してもらった。

 琴ねえはベッドに横たわっていた。艶やかな黒髪のまさに大和撫子といった美少女だ。

 突然の来訪に驚いたのか、黒目がちの瞳を見ひらいて、 

「わっ、ソーニャ、それに大助君。どうしたの?」

「琴葉が……心配デ」

「風邪なのに大げさな」

 ソーニャは豊かな胸に手を当てて、

「安心しまシタ……」

「ごめんね、心配かけて」

「てっきり私、琴葉が凌辱されながら電話をかけさせられており、だからハアハア言ってるのかと……」

「それ、あなたが勝手にした心配だからね?」

 ごめんねって言ったのを返してほしい、と琴ねえが呟く。

 僕はうなずいて、

「確かにああいうゲームって、何故か陵辱中に電話させるな……」

「大助君、そういうゲームしてるの?」

 琴ねえが、僕をジト目で見つめてきた。

 怒られるだろうか?

「わたし嬉しい! 昔はあんなちっちゃかったのに、性的に成長したのね!!」

 なぜか喜ぶ琴ねえ。

「でもね大助君、ゲームは一日一時間までだよ? 健康によくないから」

 それ、陵辱ゲームの場合でも適用されるのかな?

「でも琴ねえ、ゲームを一日一時間は辛いよ」

「香川の県議会でも、そうすべきっていってたよ?」

「あれは数年前まで公費で海外旅行行ってて、その報告書がウィキペディアのコピペだったくせに、最近になってゲームを『悪』と評するような集団だから気にしなくていいよ」

 僕はバッサリと断じつつ、ベッドの脇に座った。せっかく来たので、もう少しここにいよう。

 琴ねえも、話し相手ができて嬉しそうだ。

「ねえソーニャ。大助君との共同生活は順調?」

「ハイ」

「でもちょっと心配。若い男女が、一つ屋根の下で寝るなんて」

「大丈夫デス。私も大助も、同じ二階で寝てマスので」

「むしろ、心配になる情報だけど……」

 琴ねえは、細い首をかしげ、

「なぜ同じ階で寝るのが『大丈夫』なの?」

「大助が一階でオ●ニーしてるときに、私がいる二階の床が抜けて、合体する、なんて事にはなりませんから」

「そんなアクロバティックな心配はしてないけど……」

 スマホの広告に出てくる、エロ漫画みたいな心配しとるな。

 ソーニャの異次元の会話にめげず、琴ねえは次の話題を振る。

「祖国が恋しくて、ホームシックになったりしない?」

「それは、多少ありマス」

 ソーニャは憂い顔で、虚空を見上げた。妖精のような美貌なのでとても絵になる。

「恋しいデス……我が祖国の、なんか綺麗な山、なんか綺麗な川、なんか綺麗な空が」

 美しさを形容する語彙が少ない。精液の語彙は豊かなのに。

 そしてソーニャは僕へ、儚げな笑みを向けてくる。

「悲しい話して、湿っぽくなりましたね。ゴメンなさい」

「気にするな」

「私のパンツが」

「なんで悲しい話して、パンツが湿っぽくなるんだよ……」

 Mなの?

 そしてなんで、パンツが濡れたことを僕に謝るの?

 ……だめだ。これ以上こんな会話をしてたら、琴ねえの風邪が悪化しかねない。

 そろそろ行こうと立ち上がると、琴ねえが、

「じゃあ大助くん、ソーニャちゃんを御願いね?」

「うん」

「あとオ●ニーするときは、一階でしないようにね?」

「しねえよ!!」

 たとえ一階でしても、そう簡単に二階の床は抜けない。

 部屋を後にして、琴ねえの家族に挨拶してから、ふたたび外へ。

 ソーニャは「んー」と大きく伸びをして、

「大助、琴葉は行けなくなりまシタけど、これからどうしマス?」

「ソーニャさえよければ、予定通り街を案内しようか」

「ハイ!」

 僕達は歩き出した。

 まず向かうのは街の高台。あそこなら、この辺りを一望できる。

 近道である、人気のない細い路地を歩いていると、

「しかし、琴葉はいい人デスねー」

「まあね」

「きっと陵辱される時は、大切な人を守るために己の身を捧げてしまい、泥沼にハマるタイプでしょうネ」

「そういう視点かよ……」

 僕はため息をつき、

「大丈夫だよ。それに万一そういう事に巻き込まれようとしても、陵辱なんてさせない」

 決意を込めて、僕は続ける。 

「僕が琴ねえを守るよ」

「大助……」

 ソーニャは、感嘆したように目を見ひらき、

「ムリですよ。アナタでは頑張っても、陵辱される琴葉の前に連れていかれて『大助君、見ないで……』と言われ、本能に逆らえず勃起してしまう役でしか有りマセン」

「頑張ってそれなの?」

 悲しすぎる役割だ……と思ったとき。

 いきなり視界が白く光った。

 びっくりして周りを見ると、見知らぬ男がこちらにカメラを向けている。

 どうやら写真を撮られたらしい。風体を見るとカメラマンのようだが……

 ソーニャが何度もまばたきして、

「び、びっくりしまシタ」

「カメラの光だよ」

「そうデスか……」

 ソーニャは胸をなで下ろして、

「てっきり視界が光ったのは、貴方が射精したからかと思いまシタ」

 まあ、たしかにエロゲの射精時って、光るけどさ。

 ソーニャは懐かしそうに、遠い目をする。

「幼い頃……パパに『昼間が明るいのは、世界の何処かで交代交代で誰かが射精してるからなんだよ』って教えられたものデス」

「お父さん、コカインでもやってるの?」

 僕の質問に、ソーニャが激高した。

「失礼な!」

 さすがに言い過ぎたか……反省していると、

「コカインなんてしてないデス! 大麻はやってマスけど」

「結局、麻薬じゃねーか!」

「我が国では合法デス」

 確かにオランダとか一部の国では、合法らしいけどさ。

「あのぅ……」

 カメラを持つ男が、戸惑いながら声をかけてきた。

 そりゃ写真をとった相手が、延々と射精と麻薬の話をしていたら、戸惑うよな。僕だったら逃げる。

「私こういう者ですが」

 名刺を差し出してくる。

 ソーニャが受け取ったそれを、僕も覗き込む。

「『アイビスタレント事務所』……え、タレント事務所?」

「いやあ。外人さんがあまりに綺麗なので、声をかけてしまいました」

 確かにソーニャは、喋らなければ完璧美少女だ。

 カメラマンは、揉み手せんばかりの勢いで、

「どうです、芸能活動に興味ありませんか?」

「……水着撮影とか、あるんデスか?」

「まあ、多少は。でもいま活躍されてる女優さんも、水着からスタートした例はいくらでもあります」

 確かに、そういう人もいるな……と僕が納得しかけたとき。

「貴方の魂胆はわかってマス」

 ソーニャの冷たい声。

 そして、ビシッとカメラマンを指さし、

「『水着撮影』といいつつ実際は着エロ。それで作ったDVDや本を売るのをノルマとして課し、失敗したら借金漬け。それをネタに枕営業をさせて、最後には私をソープに沈めるつもりナンでしょう!?」

「ソーニャ、なんてことを……」

 あまりに無礼な発言を、僕はたしなめる。

 するとカメラマンが、

「そこまでバレてるとはな……」

(マジか)

 つうか、日本やべえな――と思った瞬間、腹に強烈な痛みが走った。

「ぐ!?」

 膝蹴りを入れられたのだ。声も出せずに悶絶する。

 カメラマンはソーニャを羽交い締めにし、口を押さえこむ。あれでは悲鳴もあげられない。

 しかも――

 スモークガラスが張られた、激烈に怪しいワンボックスカーが近づいてきた。

 このカメラマンの仲間だろう。ソーニャをさらう気か。

(くそっ! まずい!)

 だが僕もソーニャも、助けを呼ぶ声も出せない。

 そう思った時――

「"おまわりさーん! こっちです!”」

 これは……

 ソーニャがフ●ラチオ時に声を出すため、覚えた腹話術!

「ど、どこだ! 誰が喋ってやがる!」

 カメラマンが狼狽している。

 僕はそれにつけこむべく、スマホでYouTubeを立ち上げる。パトカーのサイレン音のページを開き、音量最大にしてタップした。

 あたりに響き渡るサイレン。

「なっ……」

 さっきの『おまわりさーん!』との合わせ技で、カメラマンはかなり動揺している。ソーニャを離し、ワンボックスに乗り込んで逃げていった。

(危機は脱したか)

 僕はサイレン音を止める。

 だいぶ腹の痛みも弱まってきたので、ソーニャのもとに歩み寄る。

「大助、ナイスなサイレン音。すばらしいチームプレイでシタ」

「ああ、息ぴったりだったな」

「まるで輪姦エロゲーで、輪姦側が同時に射精するようでシタ」

「例えがひどい」

 なんで、あれって同時に射精するんだろうな?

 それはさておき……

 僕はワンボックスが走り去った方向を見て、

「でもあいつらを逃したのは悔しいな。どう見ても犯罪者だった」

「ご心配ナク」

 ソーニャはポケットに手をつっこみ、僕へ見せるように掌をひろげた。

 そこには、三センチほどの大きさの平たな機械が、沢山乗っている。

「GPS発信器デス。一つを、偽カメラマンのポケットに忍ばせておきまシタ」

「なんでそんなもの、たくさん持ってるの?」

「陵辱される時に供え、加害者側の情報を掴むため常備していマス」

 腹話術といい、陵辱対策がほんとに役に立ったな。

 そしてソーニャは、銀髪をなびかせて歩き出した。

「さて警察に行きまショウ」

「あいよ」

 まさか休日に、警察にいく事になるとは思わなかった。こいつは色々ぶっとんでいるが、一緒にいて退屈しないヤツなのは確かだ。

 ソーニャが拳をつきあげて、 

「私はこの、陵辱大国ニッポンを生き抜きマス! おー!」 

「陵辱大国て」

 じゃあなんで来日したんだよ、と突っ込みつつ、僕はソーニャと警察署へ向かうのだった。

 




後書き:モチベーションにつながるので、

面白かったら作品の目次ページの、レビュー欄から

☆、レビュー等での評価お願いいたします


あと、ファミ通文庫から発売中のラノベ

『朝日奈さんクエスト〜センパイ、私を一つだけ褒めてみてください〜』

原作を担当した漫画

『香好さんはかぎまわる』

も、よろしくお願いします



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