プロローグの3行目で、すぐ死ぬ王女に転生してしまいました

しっぽタヌキ

第1話

 ――その国は冷たく寒い冬に閉ざされていました。空はかげり、木は枯れ、民は飢えに苦しみました。世界を統治する女神は人々を哀れに思い、【春の力】を一人の少女に託しました。

 ――少女は力を使い、暖かな春をもたらしました。少女は王子と結婚し、王家には【春の力】を持つ王女が誕生し、代々受け継がれました。

 ――しかし、とある時代、【春の力】を持つ王女が何者かに殺されました。

 ――行方不明になった【春の力】を探し求める人々。そして……とある村の少女に【春の力】があることがわかりました。

 ――【春の力】を持つ少女であるあなたは、王宮へと連れてこられます。

 ――さあ、【春の力】を使い、この国で生きていきましょう。


「……『生きていきましょう』じゃないっ」


 私は鏡に映った私に向かって、盛大に突っ込んだ。

 鏡に映る私は、ピンク色のふわふわの長い髪にきらきらと輝く若葉色の瞳。超絶美少女である。妖精みたいだ。


「思い出した……思い出してしまった……。私のこの姿……春の化身のようなこの容姿……これは、すぐ死ぬ王女……」


 ↑のプロローグの三行目。そこに出てくる『とある時代【春の力】を持つ王女が何者かに殺されました』の、殺された側の王女である。


「乙女ゲームのプロローグで死ぬ王女なんて……」


 あんまりだ。あんまりである。悪役令嬢ですらない。モブですらない。プロローグの三行目で死ぬ人……。


「イリエラクシェル様、どうなさったのですか?」


 ブツブツと独り言を始めた私を心配し、侍女の一人が声をかけてくれる。

 そう。私の名前はイリエラクシェル・ピア・ファルセ・エズランオ。長い。とても長い名前。

 そして、その名前にふさわしい、【春の力】を持つ、とてもとても貴い王女である。


「……頭が……」


 ガンガンと痛い。

 手でこめかみのあたりを抑えるけれど、痛みは引かず、意識が遠くなっていき――


「イリエラクシェル様っ!?」

「大変です!」

「だ、だれか……!!」

「春の王女様が……!!」


 傾いていく体とそれを支えるいくつもの腕。『春の王女』として大切に大切に扱われてきた私には複数の侍女がいつもついてくれているのだ。

 慌てる声を聞くと申し訳なく、すぐに『大丈夫だ』と伝えたいけれど、目が開かない。

 そのまま、意識を手放そうとすると、だれかにぐっと体を抱えられた。


「私が寝室までお運びいたします」


 優しくも凛々しい声。力強い腕。

 これは――


「第一の……攻略者しかく……」


 ――私を殺す男の声だ!

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