難攻不落の優等生から「前世からずっと好きです」と告白された ~とりあえず友達から始めたけどグイグイ来るので、妹・幼馴染・後輩まで焦り始めてぼっちの俺に迫ってきたんだが~
真弓 直矢
第1話 前世からの因縁
「終わったあああ……」
たった今、今日の授業とホームルームがすべて終わり、放課後となった。
俺は大きく伸びをして立ち上がり、2年1組の教室を出ようとする。
が──
「──エドガー……いえ、この世界では『
ふと、俺を呼ぶ少女の声が聞こえてきた。
彼女は
腰まで伸ばされた髪は、しっかりと手入れがなされているのかとても綺麗だ。
平均的な女性と比べて身長が高く細身で、お胸はあまりないものの、それすらも魅力的に思える。
そんな悠木さんは真剣な表情で、俺の傍に立っていた。
女子が話しかけてくるなんて珍しい。
そもそも俺はぼっちでソロ充なので、他の生徒と交流する機会はほとんどない。
俺は不審に思いつつ、悠木さんに用件を問う。
「どうしたんだ?」
「少しお話がありますので、ついてきていただけないでしょうか?」
悠木さんがそう言った途端、クラスの連中が湧き上がる。
「えっ、あの《難攻不落》の悠木さんが、江戸川くんに告白!?」とか「なんであんな陰キャぼっちが!?」などと言われた。
だが、告白されることはないと俺は思う。
どうせ「なにかを手伝って欲しい」とか、そういうことなのだろう。
ならば俺には応じる用意がある。
俺は「分かった」と言って、悠木さんについていくことにした。
◇ ◇ ◇
「私、前世の頃からずっと、あなたをお慕い申しておりました」
校舎の屋上。
俺は悠木さんから、衝撃の告白を聞かされた。
前世の頃からずっと、か。
──なんという中二病発表会だ。
そう思った俺は、問いを投げる。
「悠木さん、一つ聞くが……君はもしかして中二病か?」
「ちゅう、に……はい? よく分かりませんが……」
ええ……そういう反応するのズルくないか……?
悠木さんは心底不思議そうに首をかしげていた。
「中二病っていうのは要するに、ありもしない設定を仮想して悦に浸る人のことだ。まあこれはいわゆる邪気眼系っていうやつで、他にも種類は──」
「ありもしない設定ではありません! そもそも設定ってなんですか!?」
「ち、近い……!」
悠木さんは俺を揺さぶりながら、問いかける。
エリカの花の、蜂蜜のように甘い香りを感じた。
「思い出してください、弓騎士エドガー! 私は勇者エリーズ、前世では私と──みんなと魔王討伐の旅に出ていたのですよ!」
「俺はエドガーじゃない、江戸川弓弦だ!」
「そんな……」
悠木さんは悲しそうな表情をしながら、俺の身体から手を離す。
俺は彼女の様子が見ていられなかった。
「あ、あの……怒鳴ってごめんな?」
「い、いえ……こちらこそ、取り乱してしまい申し訳ありません──あの……私、あなたのことがずっと好きでした。付き合ってください!」
「どうして俺のことが好きなんだ?」
「前世において、あなたには大変お世話になっていました。危ないところを助けてもらったり、落ち込んでいるところを励ましてもらったり。そして私たちは結ばれ、深く愛し合っていました……といっても、覚えていませんよね」
悠木さんは溜息をつき、しょんぼりしていた。
俺はその物憂げな様子をみて、思わずドキッとしてしまう。
それと同時に、「中二病」だと指摘したことを少しだけ申し訳なく思った。
──ま、まあ……前世が本当にあるかどうかは、分からないんだが。
そんなにすぐには信じられない──それが本音だ。
だがあながち、前世の因果は間違いじゃないのかもしれない。
現世において、俺は悠木さんとは一切の接点がない。
彼女に親切にした覚えもない。
一応俺は学年首席だし、困っている人がいたら助けるようにはしている。
だがイケメンではないし、運動神経は人並だ。
そんな俺に一目惚れすることは、まずないだろう。
それに悠木さんは、容姿端麗・成績優秀・スポーツ万能・品行方正と、様々な長所を持っている。
噂ではかなりの頻度で告白されているらしいが、全て断っているそうだ。
彼女の異名である「難攻不落」は、まさにその逸話を具現化したものである。
だからこそ、前世の因果によって俺と悠木さんは引き合わされた。
そう考えるとロマンチックだし、むしろ整合性が取れる。
前世の因果でもなければ、俺に告白するわけがない。
まあ、前世の存在は信じたくないが……
なので俺は、悠木さんにある矛盾を突くことにした。
「もし仮に前世なんてものがあったとして、なんで今まで告白しなかったんだ? 俺たちは2年生で、クラス替えから1ヶ月も経ってるだろう?」
「はい……実は1年生の頃からずっとあなたを見ていたのですが、なんの接点もないのにいきなり告白しても気味悪がられると思いました……それに、クラス替えの直後から多くの男子に告白され続け、今ようやく落ち着いてきたところなんです……」
俺の質問に対し、悠木さんは肩を落とす。
俺が告白を快諾しなかったことに、落ち込んでいるのかもしれない。
だがそれでも、俺は悠木さんとは付き合えない。
なぜなら彼女がどういう人間なのか、全く知らないからだ。
そんな状態で恋人関係を築いても、お互い不幸なだけだ。
だから──
「まずは友達から、というわけにはいかないか? 俺、悠木さんのことは全然知らないんだ」
「そうですか……でも、それが一番かもしれませんね──分かりました。では、私のことは『英理香』とお呼びください」
悠木さん──いや、英理香さんはそう言って、笑顔で手を差し伸べてきた。
差し伸ばされた手を、俺は握り返す。
手はとてもすべすべしていて気持ちよかった。
「分かったよ……え、英理香さん……」
「もう、他人行儀ですね。呼び捨てで『英理香』って呼んでくださいよ……」
「えりか……エリカ……英理香……うーん、ちょっと恥ずかしいな──っていうか、君はタメ口で話さないのか?」
「私は誰に対しても敬語ですから、まったく問題はありません。表情や声の弾み具合で判断してほしいです……うふふ」
確かに今の英理香は、普段見せないような柔らかかつ情熱的な表情をしている。
癒されるような、ドキッとさせられるような……
普段から笑顔を絶やさない人なのだが、今が一番女の子として魅力的な顔つきだと思っている。
「あの、今日から毎日一緒に帰りませんか?」
「え、俺はいいけど……英理香はその、友達との付き合いとか大丈夫なのか?」
「大丈夫です。友達はみんな部活で忙しいですので」
俺には一緒に帰る友達がいない。
ソロ充を極めた俺にとって、英理香の言葉は刺激へのいざないだった。
俺はつい嬉しくなって、「わかった」と二つ返事で快諾した。
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