街灯の点滅するあの道
西順
第1話 街灯
街灯がチカチカ点滅している。この道はいつもそうだ。
不思議な街灯が連続していて、人が通ると点滅するのだ。
それまで普通に夜道を照らしていたのに、僕が通ろうとすると点滅する。
塾帰り、この道を通るのが近道なのだが、この点滅する街灯が何だか薄ら怖くて、僕はこの道を避けて家路についていた。
しかしその日は急いでいた事もあって、僕は意を決してその道を通る事に決めた。
僕は学校でイジメられていた。
イジメっ子たちは僕の何もかもが気に食わないらしい。何だかんだと文句を付けて、僕に暴力を振るってくる。
翌日文句を付けてきた部分を直してきても、他の部分に文句を付けてくるのだ。堂々巡りと言うのか、いたちごっこと言うのか、僕は日に日に追い詰められていった。
その日の塾帰り、僕は運悪くイジメっ子の一人に出会してしまった。
僕を見るなりにやりと笑ったイジメっ子。それを見るなり僕は走り出していた。
学校では逃げ場はないが、街では別だ。
僕が走るとイジメっ子も走る。あっという間に追い掛けっこに発展していた。
その道までどうやって駆けてきたのか分からないが、僕はその街灯が連なる道にたどり着いていた。
普段であれば避ける道だが、その日はイジメっ子が追い掛けてくるのだ。その道を進む以外の選択肢がなかった。
僕が一歩足を踏み出すと、やはり街灯が点滅し出す。
それが怖くてしょうがないが、迫るイジメっ子の方が更に怖くて、僕はその道を駆け出していた。
迫るイジメっ子。次々と点滅していく街灯たち。怖くてしょうがない僕は、目を瞑り耳を塞いで、大声を出しながらその道を駆け抜けていた。
気付いた時には僕は家の玄関に立っていた。お母さんが涙目の僕を見て心配そうに声を掛けてきたが、僕は直ぐに自分の部屋に引き籠ってしまった。
その日僕は夕食も食べずに、ベッドで布団を被ってガタガタ震えて夜を明かした。
次の日、両親が制止するので学校を休み、僕が学校に来たのは三日後だった。
またイジメられるのか、と鬱々とした気分で教室の席に着くが、いつもなら直ぐにやってくるイジメっ子たちが、何故か僕を遠巻きに見ているだけだ。
イジメっ子たちの方を見遣ると、あの日僕を追い掛けていたイジメっ子がいない。あの子はイジメっ子の中でもリーダー格だったから、それでだろうか。今日は気が休まりそうだ。
そう思っていたが、休み時間に呼び出された。何でも僕が休んでいる間に、イジメっ子が行方不明になったそうだ。事情を知らないかと尋ねられたが、そんなの知る訳がない。いや、もしかして。
僕はイジメっ子たちにあの日起きた事を話した。
次の日からイジメっ子たちは学校に来なくなった。
子供が何人も行方不明になった事で、街は大騒ぎだ。朝から晩までパトカーが街を見回り、通学路では大人が険しい顔で立っている。
先生たちから児童一人一人に聞き取りが行われ、僕も聞かれた。先生は明らかに僕を疑っていた。僕がイジメられていたと他の子たちから聞いたのかも知れない。でも僕は知っている。先生がそれ以前から僕がイジメられていたのを知っていた事を。
僕は内緒の話として、先生にあの街灯の事を話した。
次の日から先生は学校に来なくなった。
更に街は大騒ぎになり、TVの取材が学校に押し掛けた。僕もマイクを向けられ取材に応えた。あの街灯の事は話していない。とぼけて通した。
そんな騒ぎも一ヶ月で過ぎ去った。毎日報道されていた僕の街も、TVでは芸能人のスキャンダルに置き換わっていた。
その直ぐ後、あの街灯があった道は、街の区画整理で道ごとなくなった。死体でも出てくるかと思ったけど、そんな事はなかった。僕の憂いはなくなった。
何年経っただろう。今は違う街に住む僕の元に、同窓会のお知らせが届いた。そのイジメっ子たちの連名で。僕の住むアパートへ続く道の街灯が、チカチカと点滅している。
街灯の点滅するあの道 西順 @nisijun624
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