第93話 挑戦

 話もまとまって、聖女様が現在いるマンションの最上階の大きな部屋にもう一度行ってみることにした。


 正直言うと、かなり心配だ。信じてくれるかはどうかとして、この提案を認めてくれる可能性など、ほぼ皆無。それを、納得させられる自信があるかと問われると、自信がない。


「納得させること……できると思う?」


「……正直にいうと、無理でしょうね。さすがの聖女様といえど、こんな勝手な願いを叶えようとするとは思えません」


「だよねぇ……。……とりあえず、できるだけ頑張ってみるよ」


 そして、再び聖女様と、その仲間たちのいる部屋まで訪れた。


「えーっと、それで……話はまとまりましたか? その、教えていただけないでしょうか?」


「はい、分かりました」


「本当ですか? ありがとうございます! あっ、そういえば、メイドたちは下がらせたほうがよろしいですか?」


 ふと、僕がこれだけ長く先延ばしにしてきた問題ということで、かなり大きな問題であることを予想したのであろう聖女様は、そう聞いてきた。


 プライバシーはできるだけ聞かないほうがいいだろうという配慮があってのことなのだろうが、今メイド達まで下がってしまってはこの作戦事態が成立しないので、断ることにする。


「いえ、大丈夫です」


「そ、そうですか? まぁ、本人が言うと言うなら。それで、さっそくですが頼み事とはなんなのでしょうか?」


「それはですね、簡潔に言うと、聖女様と剣聖であるそちらのメイドさんと一緒に旅をしてほしいということです」


「……と、いうと?」


 それぞれが少し不安そうな顔を見せる。それもそうだ、僕が言っていることはここから離れろと言っていることに等しかったから。


 いや、確かに等しいとかどうとか以前にそう言っているのだけど。


「実はですね……この世界に危機が迫っているのです」


「き、危機……?」


「はい。まず、なんでこの世界はこういうふうに力が存在して、モンスターというものが存在していると思いますか?」


「それは……分かりません。ある日、突然変わった……としか言いようがありません」


「まぁ、ですよね。僕も、あの人に出会うまでは全く訳が分かりませんでしたから」


「……あ、あの人?」


「あっ、それは後で答えます。それで、この世界でモンスターが存在するようになったり、力を得ることができるようになったのは、異世界人のせいなのです」


「異世界……人……。……そ、その異世界人というのは、名前の通りで解釈してみるとすると地球以外の星に住んでいる宇宙人のようなもの……ということですか?」


「……まぁ、そんな感じだと思います。それで、その異世界人についてなのですが、そいつらはこの地球を侵略しようと企てているらしいのです。そのために、僕たち人間を排除しようとしているらしいのです」


「……と、いうことは、あなたの願いはそれを止めるために一緒についてきてほしい……と?」


「まぁ、そういうことですね」


 なんとか……納得させられたか?


 なんて思ったのが間違いだったのかもしれない。よくあることだ。ラスボスを倒して、「やったか……!?」とか言ったら絶対に死んでないやつ。


 そう、フラグを立ててしまったのだ。


「お、おい……。それはおかしくないか? 異世界人なんて私は一切聞いたこともないし、なにより信憑性が一つもないのだが……」


 ちょっと僕の願いが予想外で困惑しているくノ一が、当たり前のことのようにフラグを回収する。


 だが、今回は大丈夫。あらかじめある信じさせるための作戦があるから。


「あのー……では、メイドさん」


「…………はい」


「嘘を言ったときにそれが嘘だと分かるのなら、僕の言ったことがどうなのか分かりますか?」


「……もちろんです。さきほどの言葉は、私のスキルに反応しませんでした。なので、信じられませんが本当の事なのでしょう……」


「なっ……」


 くノ一が驚いた様子を見せる。信憑性のないものが、まさか本当のことだったとは思わなかったのだろう。


「……どうするべきなのでしょう?」


 かなり悩んでいるようだった。当たり前だが、地球をとるかここを守ることをとるか。それなら、どっちの良し悪しはおいておくと良い方はこの馴染みのある場所を守る方を優先するだろう。僕だって、その立場だったらそうしている気がする。


 でも、それじゃいけないのだ。


 そして、聖女様がこの事を考え始めてから数十分が経った。


「……決めました」


 すると、どうなるのかと沈黙していて、まるで時が止まっているんじゃないかと考えるほどに静かな部屋に、一つの待ちわびた声が聞こえる。


 さて、どうなる……


「それで……どうするんでしょうか?」


「私は……」


 まだなにかをためらっているのか、少し言葉が淀んでいく。


「私は、この村を守りたいです」


 そして、躊躇いながらも聖女様はそう言ったのであった。

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