第2話 文章はちゃんと読みましょう(上)
「ふぁからなんでほふなっふんだ」
「なんて?」
ほとんど聞き取れなかった。
別に俺の耳がおかしくなったわけじゃない。目の前の
高校のそば、さらに言えば商店街の入り口のビルにあるファストフード店は大盛況だ。主に高校生で。(というか、高校生以外見たことがない気がする)他校生もいるが、こうしてみるとどこの制服も代り映えしないんだと実感させられる。……特に男子は。
定期テストも(なんとか)終わり、後は返却を待つだけだ。苦手な数学もこいつのおかげでそこそこ解けた――と、思う。本人の前では絶対に口にはしないけど。「なんだって? けるな、問題用紙は持っているからお前が理解できるまでやるぞ」と勉強会の延長戦が始まるのは想像にたやすい。しばらく頭を使うのはこりごりだ。
「とにかく、食べてから言えって」
俺の言葉に、七曲は頷き返すともぐもぐと咀嚼しだした。バーガーにかぶりつく。育ち盛りの学生のためにあるようなボリューム満点のもので、値段もこの時間帯はワンコインとリーズナブルだ。そしてなぜか中毒性がある。
「だから、なんでそうなったんだ」
改めての問いかけに、俺は胸を張っていった。
「ミス研の意地だ!」
「なんだそれ」
七曲はわざとらしくため息をついた。
「要は文芸部の挑発にのったんだろ。ほんと後先考えないっていうかなんていうか」
「いやぁ、まぁ、そうなんだけど」
どうやらこのクラスメイト、偶然と計画性のなさが嫌いらしい。
虫でも見るような目で見てくる七曲から目を背け、腹の中でしたたかな計算をする。どうすれば、参加してくれるか。
(もう一押しか?)
俺は手を紙ナプキンで拭いてから、合わせた。
「頼む、この通りだ。うちのメンバー全員解けなかったんだ、あとはお前が頼りだ」
「……おまえ、そうすれば誰だって了承してくれると思ってるだろ」
バレてる!
「まあいい、ただしあとでデザートおごりな」
「うぇ~、マジで?」
「安いほうだと思え」
「うっす」
というわけで、俺はクリアファイルから一枚の紙を取り出した。
事の発端は、昼休みまでさかのぼる。
ところで、俺たちミス研(ミステリー研究会)はあくまでも『会』なので部室はもてない。が、メンバーの一人の善意から図書室のもともとは、書庫だった場所でよく集まっていた。
それを快く思わないのが文芸部だ。
彼らは教室で活動しているが、利便性を考えて図書館のそばに移動したいと考えている。ただし、図書館内だと自由にしゃべることができない。そこで目を付けたのが、俺たちミス研の部室(?)というわけだ。
なぜ所詮ただの『会』の分際で部室を持っているのか。その場所はこちらにこそふさわしい――と、いちゃもんをつけてきたのだ。
そこから先は話が早く、ミス研なら推理で勝負することになった。勝ち負けの条件は、文芸部の作った問題を解けるか否か。こちらが負ければ潔く書庫を渡し、あちらが負けると二度と干渉してこない。そういう取り決めだった。
ただひとつ、問題があるのなら。
「ミス研って言ったって、とりあえずお前がかき集めただけだもんな」
七曲は鼻で笑い、ソファーにふんぞり返った。
そう、本格的なマニアが俺一人というわけだ。あとのメンバーは、とりあえず進学に備えて何かしらに入っておいたほうがいいのではと俺が勧誘しただけだ。七曲もその一人だったが、なにかと頭の切れるこいつなら何とかしてくれるのではと考えていた。
「つーわけで頼んだ」
A4サイズのコピー用紙を七曲の鼻先に突き付けた。
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