春雷

せいや

春雷


彼の心の中に存在するものは、霧でもなく靄でもない。


暗雲立ち込めるその心には、稲妻が光っていた。


その稲妻とは裏腹に、彼の目は一筋の光も持たずに、窓辺に立つ彼女を見つめている。



彼の目に映るその情景を、感情を排した一つの絵画として捉えれば、背景の闇と彼女の美貌が、皮肉のコントラストを生んでいるのかもしれない。


しかし彼女の表情もまた、窓に伝う地響きに歪んでいた。




二人の間に存在した雲。


すれ違いから生まれたその小さな雲は、肥大化し、ついには共通の空に嵐をもたらした。



嵐は、女の心の芯であった枝を枯らせた。


枯れた枝は、一途に咲いていた花を美しく散らせた。


その香りすら残さずに。

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春雷 せいや @mc-mant-sas

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