第1話『嬉しい肩凝り』

 夕食の後片付けをし、少し食休みした後、約束通りサクラと一緒に入浴することに。

 恋人として付き合い始めてから、サクラと入浴するようになった。ゴールデンウィークのあたりからは、一緒に入るのが普通となっている。今日のように一番風呂に入るのが大半で、俺が遅くまでバイトをした日は最後に入る。

 サクラと一緒に脱衣所に入り、着ている服を脱ぎ始める。

 一緒に入浴するようになった直後は、サクラの後に一人で脱いだり、お互いに背を向けて脱いだりしていた。

 ただ、恋人としての日々を過ごす中で、サクラとありのままの姿を見せ合ったり、肌を重ねたりして。それもあって、今はお互いに姿が見える中で服を脱ぐようになった。それでも、服を脱ぐサクラを見るとドキドキするけどね。


「いたたっ」


 サクラはTシャツを脱いでいるとき、そんな声を漏らした。ちょっと痛そうな表情になりながらシャツを脱いでいった。


「大丈夫か、サクラ」


 俺が声を掛けると、サクラは俺の目を見て、いつもの可愛い笑顔になり、


「うん。腕を上げたときに両肩が痛くなって」


 と言う。俺に心配をかけさせまいと気を遣ってくれているのかな。ただ、今のサクラは嬉しそうにも見えて。どうしたんだろう?


「きっと、胸が大きくなったから肩が凝ったんだろうねっ」


 ……なるほど。それが嬉しそうに見えた理由か。以前から、サクラはバストアップのためにマッサージをしているからなぁ。本当に大きくなっていたら嬉しいよな。ちなみに、マッサージのことをサクラに教えてもらってからは、俺がマッサージしてあげている。

 一紗や俺の母親など、俺達の周りには肩凝りに悩む胸の大きな人が何人もいる。だから、肩が凝ったのは、彼女達のように胸が大きくなったからだとサクラは考えているのだろう。


「最近は下着がちょっとキツいって思うときもあって。ねえ、大きくなったと思わない? ダイちゃん」


 そう言うと、サクラは下着を付けたままの状態で、俺に向けて胸を張ってくる。そんなサクラの胸をじっと見る。


「……ゴールデンウィーク頃からほぼ毎日、お風呂やバストアップマッサージのときにサクラの胸を見ているからかなぁ。パッと見て『大きくなった!』って感じはないかな。でも、素敵な胸だと思う」

「ありがとう。まあ、ほぼ毎日見ていると分かりにくいよね」

「ごめん。でも、前に比べると谷間がしっかりとできているように見えるし、バストアップのマッサージをしたときも、最近はより柔らかさを感じるようになったかな……」

「ふふっ、なるほどね」

「ただ、下着がちょっとキツいって思うときもあるんだよね。それなら、胸が大きくなった可能性はかなりと高そうだ」

「そうだね! じゃあ、お風呂から出たら、スリーサイズだけじゃなくて胸のカップも測ろうかな」


 なぜ、サクラがこういう言い方をするのかと言うと、明日は四鷹駅に直結しているオリオに行って水泳の授業で着るスクール水着を買う予定だからだ。そのため、今夜、事前にスリーサイズを測ろうという話になっていた。

 ちなみに、俺とサクラのいる2年3組は、来週金曜の体育から、毎週金曜にプールで水泳の授業をすることになっている。


「ダイちゃん。早く脱いでお風呂に入ろう?」


 気づけば、サクラは全ての服を脱いでいた。大きくなったんだって話をしたから、今まで以上にサクラの胸に存在感がある。


「ああ、分かった。でも、その前に肩のマッサージをしてあげるよ。さっき、痛いって言っていたから」

「ありがとう、ダイちゃん。お願いします」


 サクラはそうお礼を言うと、俺の目の前に立ち、俺に背中を向ける。そのことでサクラの体の甘い匂いがふんわりと香ってきて。

 鏡に映るサクラを見ると、鏡越しで彼女と目が合う。すると、サクラは微笑んだ。

 鏡に映るサクラの前面もいいけど、目の前にいるサクラの後ろ姿もいいなぁ。肌が白くて綺麗だ。そんなことを思いながら、俺は両手をサクラの肩に置く。その瞬間にサクラの体がピクッと震え、「ひゃあっ」と可愛い声が漏れて。鏡を見ると、サクラははにかんでいた。


「ダイちゃんの手、ちょっと冷たくて。変な声出ちゃった」

「可愛い声だったよ。夕食の後片付けをしていたから、今も手が冷たいのかも。じゃあ、肩を揉んでいくよ」

「はいっ。胸のマッサージはたくさんされたことあるけど、肩は初めてだからちょっと緊張する」

「確かに、これが初めてだもんね。とりあえず、母さんにやっている感じで揉んでいくよ。痛かったら遠慮なく言ってね」

「うん!」


 サクラは俺の方にチラッと振り返り、笑いながら首肯した。

 俺は母さんにいつもやっている感覚で、サクラの肩を揉み始める。母さんほどではないけど、肩が結構凝っているな。さっき、痛いと言っていただけのことはある。


「あっ……」


 サクラはそんな甘い声を漏らす。肩を揉まれるのが気持ちいいのだろうか。それとも痛いのだろうか。鏡で確認すると……サクラはまったりした表情になっていた。


「サクラ、どうかな? 鏡を見ると気持ちよさそうに見えるけど」

「とても気持ちいいよ、ダイちゃん。上手だね。だから、このままでお願いします」

「了解」


 母さんへのマッサージで培った技術で、サクラに快感をもたらせることができて嬉しいな。


「そういえば、サクラって普段は肩が凝ることってあるのか? 俺の知る限りでは、サクラが肩を痛めている様子は全然見たことないから」

「あまり凝らなかったね。長い時間ずっと勉強し続けたり、一日掃除をしたりしてかなり疲れたときくらいかなぁ。普段から肩凝り防止のストレッチもしているし」

「そうだったんだ」


 これまでのサクラにとって、肩凝りは結構疲れたっていうサインだったんだな。


「ちなみに、今はどうだ? 胸が大きくなったのも肩凝りの原因だろうけど、結構疲れたりしていないか?」

「家に帰ってお風呂掃除したり、夕食作ったり、課題を半分くらいやったりしたから、疲れはあるよ。でも。今まで肩凝りしたときに比べたら全然マシ。夕ご飯食べたし、今はダイちゃんにマッサージしてもらっているからね」

「それなら良かった。肩凝りだけじゃなくて、疲れも取れるようにするよ」

「うんっ、ありがとう。本当に気持ちいい……」


 はぁっ……と、サクラは甘い吐息を漏らす。鏡を見ると、サクラは顔をほんのりと赤くしており、うっとりした様子になっている。一糸纏わぬ姿なのもあって、今の彼女はとても艶やかで。


「こんな声を出していると、優子さんと徹さんに厭らしいことをしているって勘違いされそう。この前の一紗ちゃん達みたいに」

「可能性はありそうだね」


 ここは脱衣所で、鍵の掛かった引き戸の先に廊下があるからな。

 そういえば、一紗と杏奈にバストアップマッサージをしているのに、肌を重ねていると勘違いされたことがあったな。俺の部屋でマッサージをしているとき、一紗と杏奈が廊下からサクラの甘い声や、サクラと俺の会話を聞いて勘違いしたのだ。


「ダイちゃん、本当に肩揉み上手だね! とても気持ちいいよ!」


 サクラは大きめの声でそう言った。俺の両親が聞き耳を立てている可能性を考え、俺に肩揉みをしてもらっているとアピールしてくれたのだろう。


「ありがとう。……色々と」


 俺がそうお礼を言うと、サクラは鏡越しに俺を見てきて「ふふっ」と穏やかに笑った。


「サクラ。マッサージを始めたときに比べて、肩の凝りが取れた気がするけど……どうだろう?」


 そう問いかけ、サクラの両肩から手を離す。

 サクラは両肩をゆっくりと回す。サクラの肩が楽になっているといいな。

 何度か両肩を回すと、サクラは俺の方に振り返る。そんな彼女の表情は明るい。


「両肩の凝りと痛みがなくなったよ。スッキリしました。ありがとう」

「どういたしまして。肩の悩みが解決できて良かったよ」

「さすがはダイちゃんだね。……これからは肩凝りのマッサージをお願いすることがあるかもしれない」

「もちろんいいよ。いつでも俺に言ってくれ」

「ありがとう」


 サクラは嬉しそうに言うと、背伸びをして俺にキスしてきた。今回の肩凝りマッサージと今後もマッサージすることのお礼なのかな。

 サクラの方から唇を離すと、彼女は白い歯を見せて笑う。


「じゃあ、そろそろお風呂に入ろっか」

「ああ、そうだな」


 俺も服や下着を全て脱ぎ、サクラと一緒に浴室に入るのであった。

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