第1話 コンビニの女神様




「家に泊めてぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙〜!」


 バイトでの初仕事を終え、帰宅しようとした俺───月島和弥つきしまかずやにそう告げたのは、俺がこれから通うことになる栄開えいかい高校で学年一の美少女、葉賀心愛はがここあ先輩だった。


 どうして俺にとって高嶺の花のような存在である彼女から家に泊めてと言われたのだろうか。


 今思えば、あの出来事のおかげで俺は変わることができたのだと思う。


 あの頃の記憶は今でも鮮明に蘇る。



 ─────



「今日からお世話になります。月島和弥です」


 コンビニのバイト面接に受かった俺は、シフト表を確認し、これから仕事仲間になるであろう先輩方にそれぞれ一言ずつ挨拶をしていた。


 店長はとてもきさくな人で基本会話において受け身な俺に気を使ってよく話題を振ってくれる。

 ……というか図体が異常に大きい。

 他の店員の方々は皆年齢層が高めで接客業に慣れているのか皆雰囲気が明るい。


「春から高校生なんだってな。頑張れよ」


 店長に容赦なく背中をバシッと叩かれる。応援の気持ちなのだろうがめっちゃ痛い。

 これ絶対後で背中に跡が残るやつだ。


「分からないことがあったらおじさん達になんでも聞いてくれていいからな」

「若いもんはどうせすぐに覚えちまうからな。すぐにワシらなんてお役御免じゃい」


 畳み掛けるように話しかけられてどう言葉を返せばいいか分からない。

 接客業に多少なり興味があったのは事実だが、1番肝心なコミュ力が欠けていることを改めて自覚した。


「よ、よろしくお願いします」


 付け焼き刃のため、ぎこちない笑顔になっているかもしれないができる限りの明るい表情をして、店長や他の先輩の方々に頭を下げていると、奥の休憩部屋から1人の女性が出てきた。


 その女性は俺と目が合うとすぐに目を見開き、スタスタとこちらに向かって歩いてきた。


「君が新人くん?」

「あ、はい。明日からシフトに入ることになる月島です。これからお世話になります」



 これからここでお世話になるのだから敬意はしっかりと示さなくては、と意識してゆっくりと頭を下げた。


「よろしくね。あ、下の名前教えてくれる?」

和弥かずやです。和風の和に弥生の弥って書きます」

「私は葉賀心愛。名前の通り心に愛って書くの」

「よろしくお願いします」

「ええ。よろしく」


 彼女の第一印象は、クールで落ち着きのある先輩。それ以上でもそれ以下でもなかった。


 月島和弥つきしまかずやが彼女と───葉賀心愛はがここあと話したのは、これが初めてだった。


 店長からの話によると、葉賀先輩は、この職場の人や周辺の客から〝コンビニの女神 〟と呼ばれているらしい。


 最初はなんだその比喩はと思っていたのだが、あながち大袈裟でもないのかもしれないと思ってしまう。


 彼女の容姿は透き通った小麦色のストレートヘアーに光沢のある乳白色のふっくらとした柔らかそうな肌、その肌と対比するように輝く琥珀色の瞳に朝露を浴びた桜のような色の唇。

 その顔を彩る要素一つ一つが煌びやかで、まるで整えられた日本人形のようである。


 体格は小柄でパッと見160センチぐらい。発育は大変よろしいようで出るところはしっかり出ているのだが腰はしっかりと引き締まっている。

 恐らく日頃から自分の体を入念に手入れをしているのだろう。


 店長や他の店員にも丁寧に接するのはもちろん、客の相談にもよく乗っているらしく、〝女神〟と呼ばれるのも頷ける。


 まさに理想の女性と言うやつか。


 そんなことを考えていると店長がニヤニヤしながら近づいてきた。待ってもう叩くのやめて。背中まだ痛むんです。


「どうだ? うちよ自慢の看板娘だぞ」

「コンビニで看板娘っているんですかね」

「お前なぁ……葉賀が来てから売上5倍だぞ。どうよ。恋愛対象としてここまでスペックの高い女子は中々お目にかかれないぞ?」

「結構です。それより売上5倍って本当ですか」

「……お前女より金か」

「恋愛で腹はふくれませんので」

「はぁ……とりあえず告ってこい」


 店長は和弥の肩に腕をのせて和弥と葉賀先輩をチラチラと見比べている。

 それより今この店長 突拍子とっぴょうしにとんでもないこと言いやがったぞ。


「無理です。多分スペックが天と地ほど違うんで相手にもされませんよ」

「それもそうだな」


 一瞬で納得された。さすがにひでぇ。


「でもお前も仮にとはいえ高校生。甘酸っぱい思い出の一つや二つぐらい欲しくないのか?」

「……店長はできると思いますか? 万が一でも俺が葉賀先輩と付き合うなんて」

「恋愛に不可能なんてもんはねぇよ。案外女神様の方から距離を詰めてくるかもしれないぞ?」


 この瞳には一切の邪念を感じなかった。


 なにこのおじさんかっこいい。

……でも、一つ気になることがあった。


「店長……付き合ったことってあります?」


 答えはすぐに返ってきた。


「童貞も守れねぇやつには何も守れねぇよ」


 店長は誇らしげに蛍光灯しか見えないであろう店内の天井を見上げている。……こんなに透き通った瞳で天井を眺めている人を今まで見たことがないぞ。


 なんだろう……店長とはすごく上手くやっていけそうな気がする。男の感がそう告げている。


「……肝に銘じておきます」


 俺がそう言うと店長は無言で逞しい背中をこちらに向けて休憩部屋へと入っていった。


 俺はとりあえず軽く店内の掃除をしようとモップを掃除用具置き場から取り出し、店内を徘徊することにした。……恋愛か。



 ……俺にはもう一生出来そうにないな。



 俺にとって葉賀心愛は手の届かない高嶺の花のような存在に思えた。


 恐らく彼女は俺のような……


 ではないだろう。


 職場が同じであっても、話す機会があれども、友達……ましてや恋仲になることは絶対にないだろう。


 それでも彼女は魅力的に見えてしまう。

 その美貌も、一つ一つの仕草も、その姿はただ立っているだけでも絵になるほどに十分なものだった。


 だからこそ高嶺の花なのである。


 取りに行く行かないの話ではなく、取りに行く権利すら俺にはないと言うことだ。



 俺───月島和弥は陰キャである。



 女子と話す機会はほとんどなかった。あるとしても学校のグループワーク程度。少し前まで異性とちょっと話せただけで、あれ。こいつ俺に気があるのではと思っていたぐらい女に飢えていた。



 ……チクッと古傷が痛む。



 最初から甘酸っぱい関係なんて期待する気はなく、偶然先輩ガチャで大当たりを引くことができたと思っておくことにしよう。


 その日は軽く談笑して解散した。

 元々軽く新人(俺)の軽い歓迎会をするつもりで集まってくれたとのことらしい。

 なにこの職場いい人しかいねぇじゃん。


 ─────


 翌日からコンビニでの初仕事が始まった。

 俺の今週のシフトは土日の昼間の10時〜15時間頃まで。


 昼間は近隣の職場の人やこれから俺が通うことになる栄開高校の生徒が部活の午前練終わりの休憩時間に昼食を買いに来るため、いつも人手が足りず、忙しくなるかわりに、時給が少し上がるとの事なので経験を積むついでにと進んで引き受けたのだ。


 深夜に働かずとも時給が上がる機会があるのは非常にありがたい。


 今日の昼のシフトは俺と葉賀先輩の二人だけだった。

 ふと店長の言葉が脳裏をよぎる。


『とりあえず告ってこい』


「恋愛対象ねぇ……」


 昨日あんなことを言われたのでなんだか余計に気まずい……。

 話すことがないのも嫌なので、少し葉賀先輩にアドバイスを貰うことにした。


「葉賀先輩。店内のモップがけと弁当や惣菜の品出しは終わりました。他に自分ができそうな事ありますか?」

「ありがとう。じゃあ正午までに駐車場の掃除をお願い。道具はモップと同じところにあるから」

「了解です」

「あと、もし良かったら切手の在庫確認してくれる? あれたまに必要なんだけどまだ確認できてなくて」

「分かりました」

「私は今から宅配サービスに行くから大変だろうけど少しの間一人で頑張って。何かあったらここに連絡していいから」


 そう言って先輩は連絡先を記した紙を机に

 置いて足早に出ていってしまった。


 まずい……初日から1人は不安しかない。


 ん?そもそも陰キャなら接客業向いてないって?ここ家から近いんだよ徒歩3分だぞ。


 いや、そんなことより……


 ふと休憩部屋の机に置かれた紙切れを見た。メールアドレスとメッセージアプリのID、電話番号まで丁寧な丸字で書かれてある。


 そんなに連絡する訳でもないだろうに……


「……やっぱり変に意識してるよな、俺」



 方法はどうであれ俺は先輩の連絡先を手に入れてしまった。


 ……変に意識するのはやめよう。

 これはただの業務用の連絡先だ。


 俺は何も考えず、葉賀先輩の連絡先をポケットに入れた。


 ─────


 一人での業務は最初の方は不安だったが、意外と慣れれば簡単なものだった。


 付け焼き刃の営業スマイルで挨拶して、客がレジに来たら丁寧な言葉遣いを意識しながら手早くレジ袋に入れ、会計を済ませた。


 客が入店する頻度が10分に2、3人程度だったので落ち着いた雰囲気で接すること心がければ慌てることもなくスムーズに終えることができた。


 案外楽しいかもしれない。


 11時半過ぎに葉賀先輩が戻ってきた。聞くところによると宅配サービスは2件程ですぐに済ませることができたそうだ。


「どう? トラブルは起きてない?」

「今のところは順調です」

「その調子。でも昼からが本番だからね」

「昼って……どれぐらい人来ます?」

「数える余裕なんてないぐらい」


 ま、まじか……


 そして正午頃、駐車場の掃除をしていると聞いていた通り入店してくる人の数が劇的に増えてきた。

 ……てか増えすぎじゃね?3倍近くいるな。


 群れを成した客の大群が入店し、店内が一気に騒がしくなった。

 それに比例して個々の仕事量も激的に増え、徐々に体が疲労し始めた。


 ひと時でも楽しいかもしれないなんて思っていた自分を少し恨む。


 しかし、あの大量の作業を初見で臨機応変に対応するのはおそらく不可能である。


 自分でも多少はできるつもりでいたが、その自信はあっさり砕け散ることになった。


「ごめん、1000円札補充できる?」

「はい」

「それ終わったらパンコーナーの商品の在庫確認して」

「……はい」

「私揚げ物補充するから、その間レジお願いね」

「……は、はい」


 次から次へと回ってくる仕事に体が少しずつ疲弊していく。

 自信の主な要因だった中学時代の陸上部で得た体力なんてのはミリも役立ちはしなかった。


 その場で求められている業務に即座に対応するアドリブ力。

 どうやらそれが壊滅的に俺には足りていないらしい。


 最初の30分ほどで脳内が悲鳴を上げ、そこからはほとんど葉賀先輩に任せてしまっていた。


 レジ打ちはもちろんのこと、タバコの銘柄を暗記したり、ATMの使い方が分からない年配の方に使い方を教えたりと正直な所葉賀先輩がいなかったらと考えると……目も当てられない。


「さすがに疲れた?」

「ま、まだいけます」

「初日からハードだけど頑張って。そろそろラストスパートだよ」


 一方の葉賀先輩はこちらを一切見らずに、レジ打ちをしながら和弥が疲弊していることの把握までしている。

 そこに疲れは感じられない。

 しかも励まされている始末だ。


「情けねぇなあ……俺」

「大丈夫。よくやれてる方だと思うよ」

「お世辞でも嬉しいです」

「そういう時は素直に喜びなさい」


 そういうと先輩はポケットから猫柄のポーチを取り出し、中のキャンディを差し出してきた。


「疲れた時には甘いものが1番。これ食べて」

「あ、ありがとうございます」


 俺の脳内が糖分を欲していることまで把握済みとは……女神様は伊達じゃないな。


 キャンディを食べ、脳内をリフレッシュし、再びレジに戻る。少しぐらい男らしいとこ見せないとただの情けない後輩になっちまう。


 さぁ、1つぐらいいいとこ見せてやろうじゃねぇか。


 ─────


「……もう動けねぇっす」

「お疲れ様。先に着替えていいよ」

「ありがとうございます」


 休憩部屋に入り、自分の荷物置き場から着替えを取り出す。


 無意識に、自分の不甲斐なさと葉賀先輩の凄さが脳内を過ぎる。


 葉賀先輩は人が、周りが良く見えていると今日の業務を見て身をもって実感した。

 本当に細かいところにまで気を配り、接客業の模範回答のような行動をとっていた。


 一人一人をしっかり観察し、次に何をするかを予測し、自分の次の行動に移している。

 それでいて、その眩しい笑顔を絶やさない。


 多少口が強い人にも、俺がミスをしてしまったときもまるでそれがわかっていたかのように現れ丁寧に対応してくれた。


 まさに慈愛の女神だ。


 その配慮の聞いた優しさとあの容姿の良さがあったら〝 コンビニの女神〟なんて大層な比喩で呼ばれることも納得できる。


「ほんと……スペックが違いすぎるぜ」


 そう呟きながら着替えを済ませ、休憩部屋を出た。


「先輩、お待たせしました」

「はーい。今日はお疲れ様」


 そういうと先輩はスタスタと休憩部屋へと入っていった。

 男女共有スペースのため、着替える際はどちらかが外で待機しないといけないのだ。


 何がともあれ、俺にとっての人生初バイトを終えた。

 久々の他者との会話で感じていた緊張が解け、全身から疲労が込み上げてくる。金を稼ぐというのはこんなにも大変なことなのかと身をもって痛感した。

 

 達成感が半端じゃない。高校受験に受かった時と大差を感じないほどだ。


 ネットの口コミだと

「バイトするならコンビニには行くな」

「作業に慣れるまでが地獄すぎる」

 と批判があったので少し不安だったが、

 先輩の支援もあって個人的には苦しいながら楽しいとも感じることができた。

 客の何気ないお礼がすごく心に響くのだ。


 少し変な言い方をすると承認欲求が満たされていくのが心地いいのだ。


 このバイトを選んだのは、家から徒歩3分というアクセスの良さだけである。

 明らかに基準を見誤っていたと思うが、今考えれば思い切ってよかったと思う。

 まぁそれは葉賀先輩のサポートがあってこそなのだが……葉賀先輩に感謝しないとな……


 一言お礼を言ってから帰ろうとコンビニの出入口付近で待つことにした。


 その時だった。


 葉賀先輩が慌てた様子でコンビニの制服姿のまま和弥の方に走ってきた。


 さっきまで整っていた髪が乱れて表情が歪み、その瞳からはち切れんばかりの涙が溜まっている……

 まさか自分は何かやらかしてしまっていたのだろうか。下着? 間違えるか馬鹿野郎。


 荷物でも間違ったかと思いそれを確認しようとしたがそんな余地もなく正面から抱きつかれ……ん?抱きつかれて……?


「かずくぅ゙ぅ゙ん……だずげでぇ゙ぇ゙〜!」


 すると葉賀さんはすすり泣くように涙目で語りかけてきた。


「ど、どうしたんですか先輩!?」

「家に泊めてぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙〜!」

「……は?」


 あまりにも想定外なことだったので思わず強い口調になってしまった。とりあえず話を聞こう。まずはそれから。


「……一体どういうことなんですか」


 1日同じ職場で働いただけでお互いほぼ他人のような関係だが、それでも頼まなければいけない事情ということは余程のことなのだろう。

 ……別に家に泊めてもいいとは思っているが、せめて理由ぐらい聞かせてほしい。


「そ、それはちょっと言えないかな……」

「んなむちゃくちゃな……」


 家に泊めてほしいのにその理由が話せない? ヤクザにでも狙われているのだろうか。


 葉賀先輩の表情はどこか上の空だ。

 だがさすがの俺も理由も聞かずに他人を家に入れる程ガードは緩くない。

 断片的なことでもいいので話してほしい。


「別に全部じゃなくてもいいので」

「プライバシーなのでちょっと……」

「なら一応俺の家も俺にとってのプライバシーなので無理です」

「ぐぬぬぅ……」


 先輩は俯きながら頬を膨らましている。仕事場では真面目な完璧超人と思っていたが、プライベートは一つの論破で子供のような反応をするのか。


「もっとクールな人かと思ってました」

「わ、私はいつでも冷戦沈着な人です!」

「今のところ弁明の余地ないですよ」

「ぐ、ぐぬぬぅぅ」


 なんだろう、幼い子供と話してる気分になってきた。残念俺は年下より年上好きなのだ。……違うそうじゃない。

 仕方ない。人間は本能には逆らえない生き物なのだからね。可愛いものは可愛い。それでいいじゃないか。

 

 ……そんなことより、


「先輩は俺がもし断った場合、他に頼めるアテはあるんですか?」


 ふと思ったのでとりあえず聞いておく。


「それは……な、ないです」


 ……とてもか細い声だった。


 まるで風前の灯火のような、少し息を吹きかけただけで消えてしまいそうな弱々しい声だった。


 ……こんな俺でも多少は、察することはできる。おそらく先輩の身近な人には相談できない重い事情があるのだろう。

 そして、おそらく家族や親族にも相談出来ない。


 つまり人との距離感としては話したことはあるがお互い名前と少しの内面しか知らない、つまり俺のような人間が先輩の状況的に都合がいいということ。


 その対面、俺の事情はどうだ。


 こっちの事情としては、高校受験を終え、もう少し一人暮らしの余韻に浸りたいといった我慢すればどうにでもなるものである。


 事情なんて、後で聞けばいい。どの道これからもバイトでお世話になるのだ。今回の件も含めその恩を返すと考えれば別に少しも苦ではない。


「分かりました。泊まってもいいですよ」

「本当!?」

「その代わり、条件があります」

「何? ……ま、まさか体とか?」


 出会って初日で先輩に俺が少しでも変質者に見えるところがあったのだろうか。さすがに落ち込む。


「やっぱりやめます?」

「冗談だってばぁ……」


 あんな不安な満ちたか細い声を出しておきながらまだ冗談を言える余裕があるとは、

 少し考えすぎた自分がバカに見えてしまう。


「で、条件っていうのは……」

「……ゴクリ」


 先輩が固唾を飲んで俺を見ている。すいませんね。どーせ俺は変態ですよ。別に条件と言っても、そんな大層なものでは無い。


「これからも仕事中に俺を手伝ってください」

「へ?」

「今日、先輩に手伝ってもらってて、すごく助かりました。正直あんなにミスすると思って無かったので」

「……確かに酷かった。おにぎりにスプーンつけますかって言ってたときは思わず笑っちゃったし」


 ……見られてたのか。


 何も聞こえなかったことにして続きを話す。


「多分、これからもミスはしてしまうと思います。なのでその……先輩に付き添っていてほしいというかなんていうか……」


 ……言葉にしてわかったが結構恥ずかしいこと言ってるなこれ。

 今日初めて会ったのに付き添ってて欲しいとか……遠回しにプロポーズとも捉えられないこともないな。


「……そんなことでいいの?」

「そんなことって……俺にとっては結構大問題なんですが」

「確かに……君は私がいなきゃダメね」


 結構辛辣……でももう傷つかないぞ。


「なので無茶言いますけど、できるだけ俺にシフトの時間合わせてください」

「いいよ。私学校終わりと休日だいたい暇だし」

「ありがとうございます」

「お礼を言わなきゃいけないのは私の方だよ」


 一応伝えたいことは伝えることが出来た。


「じゃあ私がその条件をのめば、家に泊めてくれるんだよね?」

「はい」

「やったぁぁ!」


 葉賀先輩は急に子供のように飛び始めた。すごく無邪気で可愛らしいその姿は女神と言うより天使に近い気がした。

 さすがにコンビニの入口で話しすぎてしまったのか、周りからの視線をチラチラ飛んできているのが分かった。


 先輩の勤務時間はもう少しあるとのことなので、俺は一旦家に帰り、部屋の整理をすると伝えて先輩と別れた。


 仕事が終わったら連絡してくれるとの事なのでそれまでゆっくり支度でもしていようか。


 つい先程もらった連絡先からメッセージアプリに友達登録を済ませておく。


 まさか先輩はここまで想定して仕事中に連絡先を渡したのか一瞬考えたが、ついさっきのピョンピョンと子供のようにはしゃいでいた先輩の姿が脳裏に浮かんだ。


「まさかな……」


 まだ春だと言うのに、風が温かい。


 初日からなかなかにイレギュラーなバイトの初仕事だったが、それ以上に先輩との今後が楽しみだと思ってしまう自分がいる。


 先輩のことを子供と小馬鹿にしていが、この状況を楽観視しすぎている自分もまだまだ子供なんだなぁと感じる。


 やけに眩しく見えた太陽は、進路をを変えることなく雲ひとつない青空進み続けていく。





〘 あとがき 〙

 ども、室園ともえです。

 この度は読んでくださりありがとうございました!

 まだ始めたばかりですが、定期的に更新していこうと思うので、また見てくださると嬉しいです。

 もしよかったら、感想や★レビュー等お願いします。もちろんしっぽ振って喜びます!

 それでは、また。

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