第4話

 ばぁちゃんは簡単に言ってくれるけど、神主になるには神職資格取得しなくちゃならない。僕は都会に出て、普通に就職して稼ぎたかったので、神道系の大学にも進まず高校を卒業して直ぐに島を出た。

 ばぁちゃんに何かあっても、霊感の強い母が神社を継ぐだろうし、とりあえずこのまま家業を継がずに逃げ切りたい所だ。


「ねぇ、タケルくん。私も一緒に手伝っていい?」

「い、いいけど……。危ない目に合うかも知れないよ。それでもリコは平気なの?」

「何も分からないまま、じっとしているのって、落ち着かなくて……不安なの。アイちゃんの事も、やっぱり責任感じるから」


 リコが誘った訳では無いのに、心霊スポットに一緒にいった友達が、そんな目に会えば僕も同じように罪悪感を感じる。

 それに、タツヤには悪いけど正直リコと一緒に行動できるのは嬉しい。いや僕は断じて、人の彼女を寝取ったりはしない。しないが、こんなに近くに住んでるなら、友達としてこっちでも仲良くしたい。

 自分でも邪だなと思うけど、これからの事を思えばボーナスタイムがあってもいいだろう。

 僕はリコの申し出を、二つ返事で引き受けた。



✤✤✤✤


 時計は23時を過ぎていた。

 僕は自室へと戻ると、とりあえずタツヤとユージに同じ文面でLINEを送った。そう言えばここ一年ほど、僕も仕事が忙しくて二人とあまり連絡を取っていなかった。

 僕はベッドに寝転がると、何気なくユージの配信チャンネルを検索する。もしかしてその時の動画が上がってるんじゃないかと思ったからだ。


「なんだったっけ、ええっと……Yujiホラちゃんだったかな」


 単語を入れると、直ぐにユージのおちゃらけた顔のアイコンがでてきた。登録人数も3万人位だ。投稿されている動画は主に心霊スポットに突撃するというものだ。

 後は、都市伝説の謎や不思議な出来事を追いかけるというもので、それほどおどろおどろしい感じでは無くて中高生でも楽しめそうなポップで軽めの内容だ。

 最新の動画は、リコから聞いた成竹さんの家に行く一週間ほど前のものでそこで更新が止まっている。僕はその動画を再生しつつ、コメント欄を覗いた。


 ▼


『色んな動画見てるけど、やっぱYujiの心霊凸が一番怖い』

『次の配信まだー?』

『yujiほらちゃんばっかり最近見てる。この動画にも、白い影が……。この動画見て寝落ちしたら金縛りになった』

『草 こいつのヤラセばっかりだよ』 

『裕司、ずっと待ってる』

『都市伝説の動画、毎回楽しみにしています。実はA県にある都市伝説のリクエストの件、ツイッターにDMしてみました^_^』

『更新遅れてるみたいですが、気になさらず〜』


 他にも沢山コメントが付いていたが、僕は『裕司くん、ずっと待ってる』と言うコメントに目がいった。裕司は本名だ。

 もしかしてユージが動画で、本名の事を口にしたりツイッターで呟いた事があるのかとも思うが、何故か気になってそのアカウントをクリックした。

 だが、情報らしい情報は得られなかった。僕は久々にツイッターのアカウントを開くと、数少ないフォローの欄を見た。

 タツヤのアカウントを覗くと、リコとのツーショットや大学のサークルの事、バイト仲間との飲み会の呟き、親の愚痴、就活、ゲームなど日常の事が頻繁に呟かれていた。

 だが、リコ達と成竹さんの家に行った日から更新は途絶えていた。


 ▼

『心霊スポット初凸する。俺もついにYouTuberデビューか? でもあのド田舎には帰りたくねぇしガチめに考えてる』

 ▼

『達也、繧ェ繝上Λ繝滓ァ倥r霑斐@縺ヲ繧 縺雁燕縺ョ縺帙>縺ァ蟶ー繧後↑縺霑斐○霑斐○霑斐せ!』


 一番最後の呟きにリプライが付いていたが、それを見るとどうやら、文字化けをしているようで読み取れなかった。

 アカウント名は、AICHI♡。

 口元を隠しているが、その写真はアイだった。僕は彼女のツイッターアカウントは知らなかったが何か手掛かりは無いかと、彼女のホームへと向かった。漫画やアニメ、小説の呟きやリコとの事、恋愛の悩み、そして霊感少女らしいような事も呟かれていた。

 皆と同じように成竹さんの家に行った日から彼女の、更新は途絶えている。だが、『ツイートと返信』の部分を見ると、アイはタツヤにしつこくリプライを送っているようだった。

 そのどれもが文字化けをしていて、全く意味をなさない言葉の羅列ばかりだ。僕は気味が悪くなって、iPhoneから手を離す。


 ピコピコ、とLINEの通知音がして、慌てて体を起こすと開いた。返信者はユージだ。タツヤは既読にすらなっていない。


『ひさしぶり。リコから聞いたのか。お前さ……そう言えば霊感あるんだったな。早くお前にLINEすれば良かった。正直に言うと、俺もう怖くてたまらないんだよ。明日会えないか?』

『夜からなら予定空いてるから良いよ。リコも一緒だけどいいか?』

『いいよ、俺のマンションに来てくれよ。見せたいものがあるんだ』


 いつもならふざけた文面で返信してくるユージが、やけに大人しい。もしかして成竹さんの家を写した動画に何か映っていたのだろうか。 

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