鈍色の自由:エピローグ
アデッサはストレートの濃いやつをグッと飲み干してジョッキを『ダン!』とテーブルへ叩き付けた。
「アニよ! まったく!」
すっかり
「もう、それぐらいにしたら?」
ダフォディルはいつもの
――ま、いつまでも暗い顔をしていられるよりは酔っぱらってクダでも巻いててもらった方が気が楽だけど。
などと考えていた。
「これが飲まずにいられますか」
アデッサはジョッキのジュースをグッと飲み干した。
◆
昨夜。ソイヤが殺された夜。
アデッサは気絶していた警備隊員を往復ビンタで叩き起こし、【賢者の麻薬】密売の元締めのアジトの場所を聞き出すと朝も待たずに乗り込んで
アジトは貧民街にある放棄された
正面入り口を蹴り倒し押し入ったアデッサとダフォディルに、悪党どもの群れが凶悪な武器をぶんぶんと振り回し波の様に押し寄せる。そのほとんどが『元冒険者』だ。
「うぉらああああ! 瞬ッ殺ッ!」
アデッサは群がる悪党ども168人を
そして追い詰めた元締めの
こうして大量の【賢者の麻薬】は押収出来たものの、肝心の製造元は不明のままとなってしまったのだ。
明けて今日の昼。
アデッサとダフォディルは報告も兼ねてホイサ領主のもとへと訪れたのだが……警備隊長まで悪事に手を染めていた事実が
――魔王なき現在、各国は軍備強化に走っている。
増大する軍事費を
そのような世界情勢の中で、警備隊長と言う
アデッサとしてはそれ以上他国の事情へ介入するわけにもいかず、あとは領主に任せるしかなかった。
しかし、彼女が願う正義や幸せとは違う『大人の事情』丸出しの領主に、昨夜とは違ったやるせなさを、アデッサは感じずには居られなかった。
◆
「あの領主、絶対マゾよ」
「はいはい。そんなこと言ってると、また男に逃げられるわよ」
ダフォディルは知っていた。
昨夜ソイヤの血を
その
――あの入国審査官が
ダフォディルはほころぶ口元をティーカップで隠した。
「こうなったら、絶対にアタシたちの手でぶっ潰してやるんだから!」
「……何を?」
「決まってるでしょ! 【賢者の麻薬】なんか作ってるアホ聖職者よ! 見つけ出してけちょんけちょんに瞬殺して……あ」
アデッサが見つめる先で『ガシャン』と、グラスを落とす音。
何事かとダフォディルが振り向くと……あの、若くてイケメンな入国審査官がアデッサを見つけてカクカクと震えていた。
「お食事のひと!」
アデッサが指差す。入国審査官にはアデッサの一言が『お前を食いものにしてやる』と言う意味に聞こえたようだ。くるりと振り返ると悲鳴をあげ、ダッシュで逃げて行った。
――もしかして、あの警備隊長が言っていた『男は殺せない』って噂のタネって……『
ダフォディルはアデッサの横顔を見ながらニヤニヤと笑った。
◆
ミンヨウ大陸の某国のとある教会、その一室。
赤いベルベットのカウチソファーに横たわる少女。
高位聖職者であることを示す白いローブをふわりと
「カトレア様」
開け放たれたドアからフードを目深にかぶった一人の聖職者が速足に入り込み、横たわる少女へ声をかけた。
すると、カトレア様――カトレア・チョイトヨイヨイは目を閉じたまま、むくりと上体を起こした。
「サザンカ、どうしましたか」
カトレアは優しい笑顔でそう問いかける。
だが、依然、目は閉じたままだ。
「ホイサの【賢者の麻薬】ルートが壊滅しました」
サザンカ――サザンカ・ズンドコソレソレは息を整えながらそう告げた。
サザンカはカトレアと同じく白いローブを纏っているが、カトレアのローブの
サザンカは目深にかぶっていたフードを引き上げた。
ローブの下から現れたのは、赤毛のウルフカット。
鋭い眼光。キリリとした顔立ちの女性。年の頃は二十代か。
そして、
「……なぜそのようなことを報告するのですか。壊滅したのであればまた作るだけのこと。その程度のことをいちいち私に報告していたのではキリがありませんよ」
カトレアは目を閉じたまま、優しい口調でそう言うと再びソファーへ横になろうとした。
「いえ。ホイサのルートを壊滅させたのはアデッサ、ヤーレンの第十三王女、アデッサなのです」
「アデッサ!」
カトレアはバンと起き上がり、目を開いた。
エメラルドのように美しく輝く右の瞳。
そして左の瞳があるべき場所には【
「あぁ、アデッサ、アデッサ……早く、早く逢いたい!」
カトレアは優しい声でそう言うと、祈るように手を合わせ宙を
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