開かれる地獄の蓋
Side 闇乃 影司
セレナとの思い出。
セレナとの思いでは僅かな時間。
だけど濃密な時間。
この地獄の中で心を許せる唯一のひと。
一緒にいる時はこのまま時が止まってくれたらいいなと思った。
――もしも・・・・・・この場所から出られたら、一度この関係やめて、恋人らしい恋愛がしたいな。
――うん。そうだね・・・・・・思えば自分、マトモな恋愛した事ないから。
――そう。
――映画館とか遊園地とか、色んなところ言って――友達も紹介するよ――
――それは楽しみだ。てか友達いたんだな。
――うん。大切な友達がね・・・・・・
――そうか・・・・・・私ね、夢があるんだ。
――夢?
――アーティストに、歌手になりたかったんだ。変かな?
――ううん。いい夢だと思う。
――そんな可愛い顔で言っても何も出ないぞこの野郎。
☆
眼前ではセレナの変身体――赤いメタリックな猫科の動物を思わせるシルエットだ。
それが右腕を失った状態で黒い怪人達の群れに為す術なく首根っこを掴まれて血だらけになって、壁に貼り付けにされていた。
『来るのが遅いじゃねーか。とっくにパーティーは始まってんぞ・・・・・・』
小さい声だが確かに影司の声に届いた。
『セレナぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』
これが――闇乃 影司の地獄の幕開け。
そしてこの基地の地獄の終わりの狼煙だった。
☆
Side 志堵 レンジ
基地は大騒ぎだった。
反逆者の出現。
闇乃 影司の暴走。
だが中にはこれを好機――新たなデーターの収集と考えていたり、闇乃 影司を用済みにするいい機会などと捉える人間もいた。
強化されたデザイアメダルの兵士。
ナノマシン投与型のアシュタル型サイボーグ(此方も強化済み)。
闇乃 影司の細胞で作り出された生体兵器。
それ達のデーターを手に入れるいい機会だ。
「闇乃 影司の細胞を投与した兵士にも影響が――デザイアメダルもコントロール不能!! アシュタルサイボーグに至っては完全に暴走状態です」
その筈だった。
現在あちこちで爆発音や発砲音が響き渡る。
監視カメラの画像には暴走したデザイアメダルやアシュタルサイボーグ、試験的に投与されたモルモット達に生物兵器達が見境無く暴れ回っている状態だ。
次々と職員や兵士達が巨大な鉄塊を叩き付けられたかのような死に様を晒している。人の原形を留めているのはマシな方だ。
中には生物兵器に生きたまま食われた奴もいた。
「施設も制御不能!? 迎撃システムが誤作動を起こして職員にも被害が!!」
更に事態は悪化していく。
迎撃システムが制御不可能、自動で自爆スイッチも作動、さらには
(まさか闇乃 影司が――)
闇乃 影司の細胞は人間の物とは違い、ナノマシンに限りなく近い。
人にも機械にも投与できるのだ。
それは研究者である志堵も理解し、その事を知った時は大喜びして笑いが止まらなかったのだ。
なにしろ、地球上の――例えブレンの技術を導入したとしてもどんなコンピューターセキリティもこの細胞の前には無力と化すのだから。
無限に成長し、学習し、進化する最強の細胞なのだから。
だがそれが今自分達に牙を向いた。
(仮説ではあるが人の細胞が、コンピューターのように感染して――この事態も闇乃 影司の感情とリンクして――いや、それよりも――)
これからどうするべきだ?
時間は限られている。
この基地その物が闇乃 影司の一部と化すのは時間の問題だ。
その前に上はこの基地を一欠片も残さず焼却する事を決めるだろう。
(急いでデーターを回収して脱出しなければ――だけどどうやって!? 頼みの変身アイテムも奴の(闇乃 影司の)細胞で強化済みだからヘタすれば乗っ取られる!!)
一番良い方法は闇乃 影司を排除することだ。
だがそれは不可能だ。この地獄のような状況では生き延びることすら困難だ。
酷い箇所では毒ガスすら勝手に散布され始めている。
「死体が勝手に歩いて――」
「ゾンビ化――いや、怪人化しているのか!?」
さらに不味いことに殺された人間すら怪人化をはじめた。
死人が増えれば増えるほどネズミ算式に増え続ける。
死人同士で殺し合い、潰し合うおぞましい光景。
まさに地獄の世界。
この世の地獄の具現化。
紛争地帯ですらまだこの光景にすら生温いだろう。
「お、おわった・・・・・・なにかも終わりだ・・・・・・」
志堵は糸が切れたかのように喚きちらした。
「終わりだ終わりだ!! なにかも終わりだ!! あははははは!! あっはははははははははあ!!」
それが志堵の最後の思考だった。
周りも似たような物だった。
その場で神に祈る者。
一か八かでシェルター、あるいは外へ脱出を試みる者もいるにはいた。
だが生存確率はもはや絶望的だった。
☆
Side 闇乃 影司
相手が何者か?
そんなことなど知らない。
この沸き上がる怒りは他者への怒りではなく情けない自分への怒り。
怒りが高まれば高まるほどにその力は自分の力へと返還されていくような感覚。
バリアを張るならバリアもろとも叩き潰せば良い。
再生するなら再生できないようにバラバラにしてやればいい。
力任せに叩き潰し、引きちぎり、食らい、光線を口から吐き出し、時には体内から放出する。
全てが片付いた頃には周辺は破壊され尽くされており、天井は綺麗な青空が見えるまでになっていた。周辺にはバラバラになった人体が散乱して地獄絵図と化していた。
そんなことよりも影司は片腕を失い、血溜まりを作っているセレナに駆け寄る。
『この基地は自爆する。一緒に逃げよう』
地獄の中で、戦いの中で急成長を遂げ、歩く人体コンピューターと化している闇乃 影司。
基地の内情はある程度把握しており、逃げることを提案した。
『ああ――お前凄かったんだな』
セレナはよろめきながらも、血をこぼしながらもどうにか立ち上がり、悪魔と化した影司を褒める。
特に容姿云々で影司に恐怖感などは感じていないようだ。
なにしろここには人の皮を被った悪魔が大勢いたのだから。
『ごめん。こんなになるまで――』
『そう言うの後だ。一緒に出よう』
『うん・・・・・・』
『ちょっとエミを頼めるか?』
『この子が――エミなの?』
セレナに言われてお姫様抱っこしている少女――生きてはいるが精神が壊された状態のエミについて尋ねる。
エミのことは影司も知っている。
ここにいて、こんな仕打ちを受けたと言うことは"そう言うこと"なのだろうと思い至った。
『玩具にされてもうウンともスンとも反応しない・・・・・・だけど、こんな場所で死なせたくない。せめて――こんな場所から遠く離れた場所で終わらせてやりたい』
『分かった・・・・・・』
非情な決断でもあるが影司は何も言わなかった。
死なせたがマシ。
そう言うこともあると言うのは影司も理解していた。
『あと、助けられる奴は助け出したい。こんな状況だが他にも囚われている人間はいる筈だ』
『そうだな。助けよう』
そうして影司は捕まった人々を助け出す事を決めた。
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