第16話 フィーバータイム


その場所は売店から遠いけどプールが近い芝生で、建物の陰になっており日陰になっている場所だった。


「この場所でいいよな。暑くないし芝生だから座っても尻が痛くならない。寝っ転がってもいいしな」


本田君はこのプールの主かっ!こんな場所よく知ってたな。


「ウォータースライダー行こうよ!」


荷物を置いた僕たちは上原さんの提案にのった。

ヲータースライダーは1人用と2人用があり、でっかい浮き輪に乗ってチューブを滑り降りるタイプだ。

本田君と上原さんは早々に1人乗りの浮き輪を用意し、スライダー乗り場の階段を上がっていく。


「里奈、一緒にのる?個別に行く?」

「2人乗りにする。一緒に滑ろうよ」


2人乗りの浮き輪を持って階段を上がった。階段は結構上まで続いており、ビルの5階位の高さから滑り降りるものだった。

上まで行って手摺から下を覗いてみると思いのほか高い。


「これ、結構高いね。下を見るとお尻から頭の上にヒュンってなる感じがする」


里奈下を覗き込む。


「うわぁ、本当だ。ちょっと怖いかも」


スライダーのスタートラインに浮き輪を浮かべて2人で乗り込む。前に里奈、僕は後ろだ。


「途中で落っこちないようにね。ほら、もっとくっついて」

「いいの?くっついて」

「平気だよ。ほら、もっときて」


僕の手を自分の腰に回してくっつく。後ろから抱きしめてる恰好だよね。里奈からいい匂いがする。


「出発するね。Go!」


滑り出した2人。真っ暗なチューブの中を滑り落ちる。徐々にスピードが上がり右左と急旋回。落っこちないように里奈を強く抱きしめるが、その柔らかい体に集中してしまう。

キャーと可愛らしく叫ぶ里奈に集中。もうスライダーとかどうでもいいよね。

途中から暗いチューブを抜けて一気に視界が開ける。太陽の下を滑り落ちてゴール地点に。

ザバンと最後にひっくり返って停止。


「結構速いんだね」


里奈の手を掴み起こしてあげる。


「とっても面白かった。スピードがでてスリルあるね」


里奈の手を引いてプールサイドにいた本田君と上原さんの所に移動した。


「なんだ2人乗りのほうに行ってたのかよ。俺と上原さんは1人乗りで降りてきたんだぜ」


うん、知ってる。


「上原さん、あとで俺たちも2人乗りのほうに行ってみる?」

「うん、行くー」


軽いノリの2人であった。



僕たちはその後に波のプールに移動。

僕以外は浮き輪を持参していた。女の子はわかるけど本田君も持ってきていたんだ。

波のプールは家族連れが多い。時間によって波の高さが違うみたい。あと30分でフィーバータイム突入って放送が入る。

普段の波の高さは40~80センチ。フィーバータイムは160センチまで波が高くなるスペシャル仕様。これって地味に怖くない?

一番深い辺りに4人で陣取る。フィーバータイムまでのんびりと浮かんでいることにする。

この辺りの推進は150センチ。波がくると完全に沈み込む。僕は里奈の浮き輪に掴まらせてもらった。


「あー、このまま寝たら気持ちよさそうだな」


浮き輪にゴーグル装着で気合いの入った本田君。


「浮き輪の中だったら寝ても平気だよ。お昼寝しててもいいよ。流されたら見捨てるけど」


本田君の言葉に上原さんも軽く返す。


「2人ともノリいいなぁ」


思わずつぶやいてしまった。


「琴ちゃんは面白い子だよ。去年同じクラスで仲がよかったんだ。今でも一番の親友は琴ちゃん。忍もすぐに仲良くなれるよ」


たしかに彼女は誰とでもすぐに仲良くなれるだろう。まさにコミュ力お化け。

水に浮かびながら時間をつぶしているとフィーバータイムの時間になる。波のプールの周りに係員が一定間隔で並ぶ。もしもの時のレスキュー要員かな?


「里奈、準備はいいかな?160センチの波ってすごく大きいよ。今までの倍だからねここだと水深が3メートルになるって事だから」

「そうやって冷静に考えると怖くなってくる。浮き輪があるから溺れないと思うけど、何かあったら助けてくれる?」

「もちろん助けるよ。手をつないでいよっか」


浮き輪越しに里奈の手を取る。


「ドキドキしてきた。もうちょっと近くにくっついて」

「じゃぁ、足を絡めていい?そうすれば離れないよ」


浮き輪の下で里奈の体に足を絡めた。

その時、上原さんがこちらに泳いできた。


「マジで怖くない?160センチだって。里奈ちゃん手だして。浮き輪を連結しよう」


僕は里奈の手を離し、彼女の腰に足を絡ませた。里奈は上原さんと手をつなぎ高波に備える。


「あれ、本田君は?」


上原さんが少し先を指さす。


「まだ寝てるよ」


ちょっ、まずいんじゃない?とりあえず声を掛ける。


「本田君、でかいのくるよ!起きろ!」


僕の声に気がついて顔をあげた。その時にフィーバーの第一波がくる。

体が一気に持ち上がって波を超える。

ヒュ~。

周りからそんな声が上がる。

本田君も起きたみたいだ。こっちに泳いでくる。

そして第2波がきた。先ほどより大きい波。


「すごい、波じゃなくて壁みたい」


里奈も少し興奮気味だ。上原さんはうひゃ~っと奇声を発している。

浮き輪が一気に持ち上がり、一気に下がる。これは結構怖いな。左手でしっかり里奈の浮き輪に掴まり、右手で里奈の腰に手を回す。足は里奈の足に絡めた。


「ごめん、思ったよりくっついちゃってるけど。マジでヤバイよこれ。僕も少し怖いかも」

「離れないようにしっかりくっついて」


波が激しいので里奈の体の柔らかさを堪能できない。

第3・4・5波とでかいのが続く。岸よりのほうは大きく砕けた波で阿鼻叫喚の模様。


「本田君は大丈夫?」


僕が本田君のほうを見ると彼はなぜか大笑いしていた。


「ハハハ、すげー。もっとこい!超でかいの頼むぞ~」

大興奮で大満足のようだ。そして上原さんも、

「うわ~、きたきたきた~。いやっほぉぉ~ぅ!!」


実にいい笑顔である。2人とも怖くないのかな?

約5分のフィーバータイムがやっと終わった。周りの人たちは大笑いしている。本田君や上原さんも同じく大笑いだ。


「最高だぜ~!次は200センチ希望だ!もっと熱い思いをさせてくれ~」

「私もすごいの希望で~す」


2人のテンションは爆上がりだ。

里奈はちょっとビビってたみたい。もちろん僕もビビってた。


「里奈、大丈夫?結構怖かったみたいだけど」

「めちゃくちゃ怖かったよ。忍は平気だった?」

「いや、怖かった。思わず里奈の体にしがみついちゃったよ」


あんなの絶対に怖いよ。僕たちは休憩の為に陸に上がった。

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