8考目 踊る宗教 5
「そのいんさいだー?取引って何よ?」
「君は何も知らないな。インサイダー取引っていうのは、簡単に言うと会社の内部事情を知っている人間が、その情報を使って株取引をすることだ。」
「確か法律で禁止されていますよね。」
「うん、会社内部の情報を知っている者と知らない者では、利益の損得が大きく変わるため禁止されている。」
「涼香さんも詳しいわね。」
「君が知らな過ぎるんだ。一度昭和の証券取引所にでも行って、証券マンたちの副流煙をふんだんに吸い込んでくるといい。少しはマシになるだろう。」
飛鳥は守を睨みつけたが、口を一文字にしたまま押し黙った。
守はそんな飛鳥を一瞥して話を続ける。
「ダンスダンス教の仕組みはこうだ。まず、教祖様が各業界の有力者たちから、悩み相談と称して各社、各業界の情報を集める。相談する側もかなり有益な情報等が得られただろうね。ライバル会社の動向なんてのも筒抜けだ。恐らく君のお兄さんもそのうちの1人だ。そんな状況なら商社で業績を上げるのはかなり簡単だったはずだ。」
「確かにそうかもしれません。」
「もちろん田山も間違いなくその情報を入手している。それで、手に入れた情報を株取引に利用していると考えるのが妥当だな。」
「でも、田山と教祖は一切交流がないって言ったのは守でしょ?」
「証拠ならある。これさ。」
そう言うと守は、最初のダンスダンス教についての雑誌を取り出した。
そうして、ある一箇所を指差す。
「ここを見てくれ。ダンスダンス教のタイムスケジュールだ。」
そこにはダンスのスケジュールと悩み相談のスケジュールが記されていた。
ダンスダンス
月 7:30~8:30
火 7:30~8:30
水 7:30~8:30
木 7:30~8:30
金 7:30~8:30
※土日、祝日は休み
悩み相談
月 6:00~7:30、18:00~22:00
火 18:00~22:00
水 18:00~22:00
木 18:00~22:00
日 18:00~22:00
※土曜と祝日前日は休み
「見れば見るほど不自然なスケジュールだ。」
「ほんとね。ダンスは朝しかないっていうのも気になるわ。それに、どうして月曜だけ悩み相談が朝からあるのかしら。」
「ダンスと相談で休みが違うっていうのも変ですね。」
「一見すると、朝や夕方から夜など一般の会社員が足を運びやすい時間にも見える。しかし、一般的に休みが多い週末にやっていないのも少し変だ。恐らく、株取引のマーケットに合わせて予定を組んでいる。取引所は月曜から金曜の9:00~15:00まで。土日祝日は休みのところが多い。」
「ダンスが朝から、それも平日しかないのは、マーケットが開く前に情報交換をしているから、ですかね。」
「そういうことだろうね。そして、悩み相談が不規則なのはマーケットの前に各業界の情報を集める為だ。」
「ダンスダンス教がマーケットを中心として活動しているということは?」
涼香が真っ直ぐと守を見る。
「ああ、間違いなくダンスダンス教は株取引と大きな関連性があるということになるね。更に言うとこれら全ては、田山と教祖は情報交換をして、田山はそこから大きな利益を上げているという証拠にもなりえる。これがこの3日で出した僕なりの答えだ。」
「なるほどね。これは怪しいわね。」
「だが、問題はその方法だ。」
それだけ言うと守はいすにもたれて、天を仰いだ。
部室内には時計の針が進む音だけが響く。
しばらく、部室に無言が続いた後、突然守が声を出した。
「よし、踊ろう。行くぞ。」
「え??」
飛鳥と涼香の声が重なる。
「ちょっと、どこに行くのよ?」
「百聞は一見に如かず。総本山を偵察する。」
そういうと守は部室を飛び出した。
飛鳥も慌てて守を追いかける。
「待ちなさいよ。まもる~。」
その後ろから少し遅れて涼香が追いかける。
「あのー、ダンスは朝だけですよ。」
涼香の声が部室棟に響く。
「あ、そうか、明日にしよ。」
それだけ言うと守は部室に踵を返した。
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