常夏の病室

 病院では一応朝6時起床、ということになっている。

 でも大体は6時半くらいに誰かの所へ看護師さんが来て、体温や血圧のチェックをするので、そのくらいに起きだしてカーテンを開け、スマホを弄ったり、顔を洗ったりして過ごしていた。

 朝食は8時頃。

 前回は手の空いている人はトレーを取りに行ったけど、今回は全部看護師さんが持ってきてくれる。階によっていろいろ違うんだなぁと思ったり。

 食後、動ける人はトレーをワゴンに戻すのは同じだった。


 首の下に刺さっているドレーンの先は小さな水筒のような容器に繋がっていて、そこに廃液が溜まるようになっていた。

 それを入れて首から下げられるように、紺色の四角いポシェットのようなものが用意されている。寝ている時以外は常にと言っていいくらい、斜め掛けにしていた。

 廃液は夜中に2度ほど看護師さんが確認しに来る。そして6時(となっていたけど、いつも5時くらいだった)に中身を回収して量を量っていた。初日は43ml。2日目は20mlくらい。

 10ml以下になれば管を抜く、ということだったので、順調に減っていって嬉しい。


 手術の次の日、身体を拭くタオルを看護師さんが用意してくれて、点滴の管なんかがあるので手伝ってもらいながら身体を拭いた。ついでに下着とパジャマも着替えてしまう。

 今回、冬用のネル生地のパジャマを持って行ったのだけど、病室は常に27度以上。太陽の入る午後からになると手元の時計についてる温度計は30度を超えてしまうような暑さだった。汗もかくというもの。

 着替え用に前回も着ていた半袖、長ズボンのパジャマを持って行っていたので、そちらに着替えることにしたのだ。羽織る用に毛糸のパーカーも持って行ったけど、コンビに行く時にドレーン隠す用途以外では使わなかった。

 頭も洗えないので、タオルを熱めのお湯に浸して固く絞って頭皮をマッサージするようにしていた。気になる人は水を使わないシャンプーとかあると良いのかもしれない。災害用の備品としても役立つし。


 午後からは旦那と子供達が顔見せに来てくれた。

 みんな刺さっている管に悶える。インパクトたっぷりのようだ。自分では違和感と若干の痛みくらいでどうということもないのだが。

 旦那は暇潰しにとタブレットに映画をダウンロードしてきてくれた。ありがたい。(光テレビのサービスで録画したものをスマホやタブレットでも見れるというもの)

 前々から見たい映画、色々取っておけばよかったなぁと少し後悔。


 次の日、見舞いも無いという話だったのでそれを見て過ごしていた。

 「サバイバル家族」という、停電ものの、コメディ……かな? なかなか面白かった。


 病室内は入れ替わりが激しくて、すでに最初に顔を合わせた2人はいなくなって、新たに2人入って来ていた。うち1人はすぐに部屋を変わって、また新しい人が入ってくる。

 この、木曜から金曜にかけて院内がやけに忙しそうだった。ナースコールしてもなかなか来ないし、点滴もいつも時間で見に来るのにさっぱり誰も来ない。悪いと思いつつも、繋がってるの外してほしくて呼んでしまう。

 点滴は朝晩2回だけだったので、日中は短い管を手首の所に纏められて身軽になっていられる。着替えとかも楽だし、付け替えできるようにした人って凄いなと思う。




 手術から3日目、金曜日。

 朝の回診で、廃液の量が10mlを下回ったので、管外しちゃいましょう。と、その場で外された。固定していたテープを剥がすのが一番痛かった。抜く時は気持ち悪いけど痛くはない。管の入ってた所にテープを貼ってお終い。あっさりしたものだった。

 管の違和感も無くなったので、それまで毎食後飲んでいた痛み止めを、痛みの出た時だけに変えていいか聞いてみた。問題無いですよ、とのことだったので、薬もそこで終了。


 病室に戻ると管を抜いた傷口からテープ越しに血液まじりの体液がたら〜り。慌ててナースコールして、ガーゼをあててもらった。しばらくはそのまま。様子見て、酷い様だったら取り換えますとのこと。

 管が抜けたので、次の月曜日の退院と胸から下のシャワーにOKが出る。

 まだ点滴は腕に入ったままだったので、シャワー前にビニールで保護してもらう。頭は洗えないけど、シャワー室近くの洗髪所を使っていいということだったので、シャワー後にそちらで洗った。

 すっきりさっぱり。気持ちいい。


 スッキリした喉元も写真に撮っておく。

 画像を見返していると、傷の上に貼ってあるテープの端から黒くて細いものが見えていた。髪の毛でも挟まっているのかと、鏡でもう一度チェックする。よくよく見ると黒い糸のようだった。プラスチックっぽくて、少し硬い。傷の両端に3cmくらいずつ飛び出しているのに、今更ながら気付いた。縫っている糸なのだろう。こんなに飛びださせておくんだと少し驚いた。

 抜糸は退院する日の予定だ。


 夜。ご飯時に両親と妹親子がお見舞いに。

 お菓子と事前に欲しいと言っていた本を差し入れてくれる。「アリス殺し」シリーズで!3巻とも!

 妹に多謝!

 面会室から病室に戻って最後の点滴。終わったら針も抜いて、こちらもさっぱりした。

 消灯までは頂いた本を読んで過ごす。管があっても読書はできるけど、やっぱり気分的に軽くなる気がした。




 週末土、日は院内も静かで、部屋にもちらほら空きが見えた。

 昨日のうちに退院した人が結構いるのかもしれない。

 暇なので、1階のコンビニに飲み物を買いに行った帰りに、何度か階段を上って病室まで戻った。

 階段は防火扉で閉められていて、ぱっと見では判らない感じ。院内の地図で場所を確認してから、その場所へ向かう。ちょっとした探検気分だ。

 階段は使う人も少なく、すれ違ったとしてもスタッフだった。建物の内側にあるので窓も無く、たいして面白味はない。センサーで徐々に点いていく灯りを追うように、ゆっくりと上った。


 残りの時間は本を読んだり、同室の患者さんとお喋りしたり、編み物したり、旦那が顔見せに来たりという感じでのんびり過ごす。シーズン中には全然手をつけなかった帽子が出来上がって、結構満足だ。

 余談だが、この帽子、四角く編んで上部を縫い合わせるだけの簡単なものだが、最初に編んだのが簡単すぎてあっという間に出来上がってしまったので、何度かほどいて最終的に模様が出るような編み方にしてみた。お陰で目数が増減してるのはご愛嬌。今シーズンはもう出番がないかな。まだ雪の降る日はありそうだけど。




 翌月曜日。

 朝の体温も血圧も問題無し。朝食も残さずいただいた。

 回診の時間になって先生の前に座ると、「抜糸しますね」と首に貼られた絆創膏テープを剥がされる。管抜く時もそうだったけど、これが痛い……思わず首元に手をやってしまった。見えないから、いつ終わるのかとか予想がつかなくてむずむずする。

 いよいよ抜糸、となって、帝王切開した時の糸はパチパチ切ってピンセットで抜いたのを思い出してたんだけど、今回はもっと全然単純だった。端を持って、引っ張るだけ。それで、端を長く残してたのか! と納得した。

 どう縫われていたのか気になる。そんな感じでいいんだ、と。

 傷には短く切ったテープを縦に並べるように貼られておしまい。濡れても大丈夫なので、お風呂も短時間なら浸かるのもOKが出た。


 一応支払金額も出て、退院となったのだが、窓口へ行って下さいと指示される。

 言われた通りに行ってみると、病理検査の結果が出ていなくて金額が確定しないのだと。1週間後に経過観察で来院するので、その時に一緒に払うことになった。

 結局、入院中はみんなお弁当や出来合いのものを食べていたというので、買物して帰り、台所に立った。

 洗濯機も回す。一応、どちらも手伝いの手は入ったので、前回よりは多少いいのかもしれない。

 旦那は転勤が決まったので、次の日から送別会がびっちり。前回より体力は減ってないので昼寝をするほどでは無いものの、20時を過ぎると眠くなる。上手くサボりながらペースを戻していくしかない。

 現在、目下の悩みは娘の塾が終わるのが22時なので、迎えに行くのに、週2回頑張って起きてなきゃいけないことだ。




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