手術室に行こう

 貧血も改善され、具体的な手術の話が出たのが9月の半ば過ぎ。

 筋腫の大きさもまた少し小さくなっていて、問題無く腹腔鏡での手術ができますから、とのことだった。

 ただし、子宮ごと取り出すために、その大きさのまま出せない時はリンゴのようにぐるぐると螺旋状に切り込みを入れて紐状にしてから取り出します。と、説明を受ける。腹腔鏡はおへそから。

 子供を産むときに2度帝王切開してるということを告げると、膀胱とかに癒着があった場合、手術時間が伸びるかもしれないことを告げられる。午後1時から3時間で手術時間を取ってあるけど、そんなにかからないと思う、とのことだった。


 術前検査は10月の末。

 手術までに歯医者にも行って治療しておくようにと書かれたプリントをもらっていたので、欠けたのに放置していたところを治しに歯医者にも通っていた。

 この歯医者通い、そこだけ……と思っていたのに、思わぬところの虫歯が進行していて、ぎりぎりまで行くことになってしまった。それでも実は治しきれてなくて、横向きに生えている親知らずとか、手術終わったらやりましょう。なんて言われている。お腹の手術よりもそちらの方が気が重かったり。


 血液検査、心電図にも特に異状はなく、輸血や使う薬品の承諾のサインをいくつかの書類にして、後は入院を待つだけとなった。



 § § §



 入院前日のお手入れとして、病院から指示されたことがある。

 おへその掃除と、陰毛の除去。

 掃除は風呂上りにオイルと麺棒でちょいちょいで済むのだが、除毛の方が大変だった。傷をつけちゃダメらしく、剃刀禁止。ハサミで1cmくらいの長さにしていくのだが、お風呂で結構な時間格闘してしまった。

 病院でどちらもちゃんとチェックされて、除去したりないと電動シェーバーを渡されてシャワー室で剃ることになる。


 予定では火曜日9時30分入院、水曜日午後手術、日曜日退院となっていた。

 入院受付をして産婦人科の入院棟に向かう。エレベーターを降りたところで旦那が「上の子が入院してたとこだね」って言った。

 隣の棟が小児科の入院施設で、ガラス戸で仕切られている。私は一緒に寝泊まりしてたのであんまり記憶になかったのだけれど、毎日通っていた旦那ははっきり覚えているようだった。


 小児科とは反対側に進んで、ナースステーションで入院の旨を告げ、部屋や施設の軽い説明を受ける。大部屋を希望していたので、入ったのは4人部屋。部屋の入口にトイレがあり、その隣のベッドだった。

 向かい側の人は退院の支度をしていて、隣の人はその日手術のようだった。

 パジャマに着替えて小物を整理してしまえば、もう特にやることはない。旦那もさっさと帰ったので、持ち込んだ本を読んだりスマホで連載更新分を追っかけたり、ツイッターで遊んだり、シャワーに入ったりして時間を潰していた。


 病院食はこんなもんかな、という感じ。お出汁をきかせてあって味付けは悪くない。パックのお醤油がついてくることもあったけどほとんど使わないでも食べられた。

 きっちり食べていると間食できる隙間がないので、入院中は余計なものは全然食べなかった。水分は多めに、と言われるのでそれだけは意識して取るようにしてたけど。

 

 晩御飯までは普通に食べて、絶食は21時以降。水分は当日の11時までOKだった。

 お昼ご飯を早めに食べて、両親と旦那が付添いで来てくれる。

 迎えに来た看護婦さんに連れだって、ぞろぞろと手術室に向かった。当たり前だけど、普通に歩いていくのである。

 

 手術室に着くとまず手術着に着替えて、ストレッチャーに寝かされ、点滴の針を刺される。小さなブースが3つくらい並んでいて、看護師さんやスタッフが忙しそうに動いていた。準備が出来たら付添いの人達にも入ってもらって少しのあいだ談笑。リラックスさせるためなのか、順番待ちとかあるのか。

 時間が来たら、そのままガラガラと移動して先程入ってきた入口の所で付添いとは別れる。「頑張って」という母の声にひらひらと手を振ってこたえた。

 

 そのままストレッチャーはいくつかの手術室を右手に見ながら奥へと進み、機械の色々置いてある辺りで止まると、心電図を取るための吸盤を貼られ、指に脈をとる機械を挟まれる。頭上にあるドラマでもよく見るバイタルのモニターを見上げたりしてたら

 

「全然大丈夫ですよ。リラックスしてますね」


 って微笑まれた。

 いや、もうぐるっと見渡して参考にしたいんです! とはとても言えない。

 酸素マスクを口元に当てられながら、「では、麻酔の点滴を始めます」と宣言されて点滴が始まったようだった。

 段々眠くなるようなイメージがあるのだけれど、すぐには変化はなく、そうこうしてるうちになんとなく視界が歪んだかな、と思い始めたところでぶっつりと記憶は切れた。




「――さん。終わりましたよ」


 声をかけられて目が覚める。

 意識が戻るとすぐにストレッチャーは動き出した。


「お部屋に戻りますからね」


 この、移動している時が一番気持ち悪かった。揺らされると吐き気が強くなる。

 部屋に着いてベッドに移され、少し気持ち悪いと告げると、吐いてもいいようにと小さ目の洗面器のようなものを頭の横に置いてくれた。口にはまだマスクがかかっていたので、もしももっと吐き気が強ければ、ぼーっとしてた私はそのままうっかり吐いてしまったかもしれない。頭さえ動かさなければ吐き気は大丈夫だったので、結局吐かずに済んだけど。

 隣の人も、向かいに新しく入ってきた人も手術後は吐き気がすると言っていたので、全身麻酔から覚めるときはよくある症状なのかもしれない。


 両親の姿は見なかったけど、旦那はまだ付き添ってくれていて、面会時間ぎりぎりまで居てくれたようだ。私自身はまだほとんど寝ていて、誰かに声をかけられると意識が浮上する感じ。


「帰るから」


 と、旦那の声に目を開けて頷く。

 そのしばらく後にカタカタと揺れが来た。久しぶりの余震だった。(後で確認したら震度3だった)

 看護婦さんが巡回してくる。手術中じゃなくてよかったなぁ、と思いつつまた眠りについた。


 術後は夜中も2時間おきに看護婦さんが様子を見に来てくれる。

 寝返りはOKとのことだったので、腰が痛くて上を向いたままでは寝られない私は右に左にと何回か寝返りをうっていた。この時、お腹の傷はほとんど痛みを感じなかったので、腹腔鏡万歳! という気分だった。

 看護婦さんが来るたび体温も測るのだが、38度以上あって点滴に解熱剤加えてもなかなか下がらない。アイスノンみたいな氷枕を朝方まで借りていた。朝の検温で37度4分になり、ようやく大丈夫との判断をもらう。7度4分だと自分的にはまだ熱ある感覚なんだけど、病院では平熱の括りに入るようだ。ちょっと怠さを抱えたまま入院3日目が始まった。



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