リリィ視点④


 そっか。わたし、騙されたんだ。初めてだったのに……。


「先輩。魔術使えたんですね……。本当は強い自分隠してる的な感じだったんですね。そうやってずっと、わたしのことを騙していたんだ……」


 もうやだ。見せたパンツを返してほしい……。


 こんなの、あんまりだ……。

 すべては今、この瞬間のパンツ見たさに近づいて来たってことじゃん。


 本当に、返して欲しい……。誰かにパンツを見られるのなんて、初めてだったのに……。


 それなのに先輩はあろうことか、お腹を抱えて笑いだしてしまった。


「あはははっ! 本当は強い自分隠しているって? なんだよそれ! そうだったら最高なんだけどな! つーか、言ったろ? これはさ、スキルなんだよ。しかもパンツをみないと発動しない紛いもんだ!」


 ……ありえない。此の期に及んでも尚、弱者を演じるなんて。しかもスキル発動の対価にパンチラが必要とまで言い出した。


 わたしはリーサルウエポンの娘だ。魔術に関してわたしの目を欺こうなんて、命知らずもいいところ。


 このまま空の果てまで飛ばしてやろうかな。


「やばいお腹痛い! 本当は強い自分隠しているってなんだよ! あはははっ! 腹痛い……ゲッホッゲホ……く、苦しい……」


 ついには笑い過ぎてムセてしまった。


 そんなに笑うことか? なんて思ったところで、肝心なことを思い出した。


 ……あ。そっか。先輩の前ではわたし、授業をサボるような可愛い可愛い後輩ってだけなんだ。


 そっかそっか。だから先輩は騙し通せると思っているんだ。


 先輩が笑い転ける姿を終わるまでじっと待った。

 そして先輩の呼吸が整ったところで、本当のことを教えてあげた。


「ねえ先輩。わたし、こう見えても魔術にはかな~り長けているんですよ。それこそ、この学園内では生徒教師含めて『頂点』に立てるくらいには。だから、今のをスキルって言われても「わぁ! すごーい! 先輩カックィー!」とか思わないですからね?」


「は? 何ってんだお前。べつに俺はそんなつもりでスキルを見せたわけじゃないぞ? お前と一緒に見たかったんだよ。おパンツ桜ブルースをさ!」


「ああ、そうですか。パンツ見たさにまだ、嘘を吐くんですね。……許せない。そんな人だとは思っていなかったのに!」


 ああ、もう許せない。とにかく許せない。

 こんな男に騙されてスカートをめくってしまった自分が許せない!


「だからパンツはスキル発動のために必要なことなんだよ。嫌な思いをさせてしまったなら謝る。ごめん」


 なんなの?! 謝るくらいなら、最初からパンツなんて見るな! せがむな!


 あぁもういい。白黒ハッキリつけてやる。


「先輩、脱いでください」


 隅々まで【鑑定】してやる。


「脱ぐ?」


「わたしのパンツを見たのですから、パンイチになってもらいます。これから先輩を高度な魔術で鑑定しますので。文字通り丸裸にしますから、覚悟してください」


 正直、鑑定はあまり好きじゃない。

 実力差が一定以上ないと鑑定はできないし、プライバシーの侵害も甚だしいからだ。


  〝鑑定が成功する以前に、勝敗は決している〟


 これは父の口癖だ。


 さきほどの魔術『おパンツ桜ブルース』はわたしの使える魔術のどれよりも優れていた。


 つまり、先輩はわたしよりも強い。だから鑑定はできないはずだ。


「少し恥ずかしいけど、それで信じてもらえるなら何枚でも脱いでやる。それこそパンツだってな!」


 こ、この人は……。リーサルウエポンの娘であるわたしを、本当に可愛い可愛い後輩としか思っていないんだ。


 か弱くて、超可愛くて、村一番の超絶美少女の後輩としか思ってないんだ……。


「後悔しても知らないですよ? 謝るならいまのうちですよ?」

「俺さ、お前のこと気に入っちまったんだ。だからスキルだって見せたくなった。またいつか、お前とこうしておパンツ桜ブルースが見れるのなら、何枚でもお前が望む限り、脱いでやる」


 もう騙されない。そうやって言って、この先もわたしのパンツを見るつもりなんだ。もう先輩に見せるパンツなんて、ほつれた糸の一本であってもありえない!


 さぁ! 先輩の嘘を暴いてやる!


  《鑑定!》


 


 結果は──目を疑うものだった。


 嘘……? 鑑定成功しちゃった。


 魔術適正ゼロ。うんそうだよね。だって先輩だもん。


 ……って、ゼロ?! 嘘でしょ……?


 魔術の適正がないっていうの……?!


 それになに? スキル欄が言語化されていない。わたしの魔術では干渉できないスキルってこと?


 そんなスキル、この世界には存在しない。

 だってわたしはリーサルウエポンの娘。そのわたしが使う超超高度な鑑定結果が、こんなのを示すなんてありえない。


「先輩……。このスキルはいったい、なんなんですか?」


「ん?【おパンツ桜ブルース。幻影】だぞ? さっきも同じこと聞いたよな?」


「あ……。すみません。聞いてました……」


 って、だから! そうじゃなくて!!!!

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