リリィ視点②
学校に入学して半年が過ぎると──。
わたしは度々、授業をサボるようになっていた。
どうしたってわたしはリーサルウエポンの娘。血筋には逆らえない。
学校で行われる授業はあまりにもレベルが低過ぎて、あくびが出るほどに退屈なものだった。この程度の内容なら、三歳か四歳のときに母に教えてもらっている。
もしかしたら父は、こうなることがわかっていたから快くわたしを送り出してくれたのかもしれない。
だってあのおっさん。わたしに依存しまくってるし。
たった一度だけパパ呼びされたいが為に判断を誤ってくれたと思ったけど、結局わたしは籠の中の鳥なのかもしれない。
寮生活は規則正しさを遵守されるし、寮母は貴族には甘いくせに、それ以外には鬼のように冷たい。
ならいっそ。リーサルウエポンの娘だと明かしてしまうか?
きっとそれも、父の思うツボだ。
黒魔道士の家系は約束事にはうるさい。
約束を破った者はたとえ誰であろうと、地の果てまで追いかけるのは有名な話だ。父がリーサルウエポンと呼ばれる所以でもある。
だから約束を破ったともなれば、永遠にパパ呼びの契約を交わすことになるかもしれない。本当にあのおっさんは、わたしに依存しまくっているから……。
……はぁ。だったらもう、家出しちゃおうかな。
とは思うも、あの父から逃げ切れるとは思えない。
今もきっと、水晶かなにかでわたしの動向を探っているに違いない。
せめて父からの魔術干渉を解くことができれば……。それこそ無理な話だった。此処はおままごとで魔術を学ぶ程度の場所。
こんな場所ではまともな魔術の勉強なんて、できるわけがない。
だから──。校舎裏の木陰でお昼寝をするのが、わたしの学園生活の大半を占めるようになっていた。
そんなある日──。
「んだよ。先客が居るのかよ。ちっ」
気持ちよく寝ていたわたしの耳に、イラっとする舌打ちが届いた。
起き上がって目を開けると、金髪の男がひとり。
あー、この人。知ってるかも。
魔術適正がないのに入学した馬鹿な人だ。学園内では少し有名な先輩だった。
どうせ、商人の成り上がり家系だったり、お金に余裕のある家の子だろうなと思っていたけど、近くで見るとだいぶ様子が違った。
なんだかとっても、みすぼらしい。
制服はヨレているし、靴なんてボロボロ。とてもお金持ちの家系には見えなかった。
だからなのか、少しだけ。ほんの少しだけ気になった。
魔術適正がないのに、どうして魔術学校に通っているのかなって。
「先輩もサボりですかー?」
すると何故か、哀愁を漂わせながら笑った。
「サボりっつーか……。次の授業は魔物狩りの実地訓練なんだよ。俺、魔術には少し疎くてさ、下手したら命を落としちまうから」
なるほど。伊達に魔術適正ゼロで学校に通っているわけではないってことだ。苦労しているんだなぁ……。
って、そうじゃなくて! わたしが知りたいのはそんなどうでもいいことじゃなくて!
もういい。ストレートに聞いちゃおう!
「魔術適正ゼロなのによく入学しましたねー」
「ん? あー、なんだ。知ってたのかよ……。だったらわかるだろ? コネを使って裏口入学だよ。べつにここじゃ珍しいことでもないだろ」
へぇ。そうなんだ。なんでもありだな。この学校……。
って、そうじゃないの!
なんでこんなみすぼらしい人が魔術適正ないのに、三年生になるまで学校に通っているのかって話!
「えっとですね……。魔術の適正がないのであれば、どんなにがんばっても魔術は使えないんですよ? なのにどうして、学校に来ているんですか?」
「へぇ。そんなこと聞かれたの初めてだな。学校の奴らはみんな、俺のことを馬鹿にするだけで興味なんて持たないのに。ひょっとしてお前、俺に気があるのか? それならパンt…………」
なっ⁈ なにをどう解釈したら、そういう結論に至るんだ? しかも‼︎ ぱ、パンツ?!
しかも途中まで言いかけて、突然顔を横に振って自らの頬をビンタしたし!
なんなの、この人……。
でも、思わず笑っていた。
なにを恥じるわけでもなく、堂々と勘違いをするだけでもなく──。さらにその先の欲望まで言葉にしたからだ。
でも──。彼はこの学校でわたしと同じで居場所のない人だ。こんなことひとつで、勘違いしてしまうくらいに、きっと今まで孤独だったんだ。
まっ。リーサルウエポンの娘とはいえ、わたしの顔立ちは結構それなりだと思うし。……ううん。それなりとか超嘘。世界で五本の指には入るくらいに超超可愛いと自負している。
そんな可愛い後輩に声を掛けられたら、舞い上がっちゃうよね。理性を失って「パンt」って言っちゃうのも仕方のないこと。
だからここは、聞かなかったことにしてスルーしてあげる。
そして話を戻す! わたしが知りたいのは、この人がどうして学校に通っているのかってこと! それ以外はどーでもいい!
「ねぇ、先輩。学校、辞めちゃえばいいじゃないですか? 魔術の適正がないんですから来るだけ無駄ですよ? ここで学べることなんて、なにもなくないですか?」
言ってすぐに、ブーメランだったことに気づく。
……あぁ、そっか。どうして先輩のことが気になるのか、わかっちゃったかも。
わたしと同じなんだ。ここで学ぶことなんて、なにもない。
それなのに学校に来ているから、その理由が知りたくなったんだ。
すると先輩は少し考えるような素振りを見せて、またもや哀愁を漂わせた。
「……爺ちゃんがさ、大好きな酒を我慢してお金作ってさ、墓場に行っても使いたくもないコネまで使って……入学させてくれたんだよな。だから、カタチだけでも卒業しないと、爺ちゃんに会わす顔がなくてな」
ふぅん。お爺ちゃんっ子なんだ。……意外。
……………………………………。
って、そうじゃなくて!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます