「ズズズ……Zzz……ズズズ……Zzz」


「なんなのこいつ? ありえないわ。ズズズってなによ」


 ハレンチシーフの言葉を聞いて、スヤァに続きまたしてもやってしまったことに気づく。


 夢見心地の良い気分のせいか、軽くトリップしているのかもしれない。


 魔術適正のない俺がリリィの魔術に抗うなど世の理に反した愚行。


 それでも、眠るわけにはいかなかった。


 どうしても守りたいものがあるから──。



 “パチンッ“


「起きなさい。こういう舐めた態度を取られるのが一番腹立つのよね」


 なにをためらうことなく俺の頬を叩いた。


 これには正直驚いたが、猛烈な睡魔に侵されているせいか痛みはない。

 

 とはいえ現状、魔術を打ち消したわけではなく、あくまで意思を強く保つことで眠らずにいるに過ぎない。


 “パチンッパチンッパチンッ”


 そんな俺を容赦なく叩いてくるハレンチシーフ。


 これはまずい。非常にまずい。

 叩かれるたびにリリィの太ももがいっとき視界から離れる。そのたびに意識が途切れそうになる。


 もはや、ここまでなのかな。脳裏に諦めが過ぎったとき──。

 

「やめろ。それ以上レオン君に手を出してみろ。ただじゃ済ませない」


 リリィが怒りに震える声で、ハレンチシーフを止めに入った。


 ドドドドドド──。

 禍々しい黒いオーラに身を包んでいた。


「当たり~。やっぱりこいつに何かあるのね~。名前はレオンって言うんだ~へぇ~」


 まさかこの女……。俺を餌に使ったのか?


「うるさい。それ以上レオン君に危害を加えるなら──」


「どうするって言うの? はっきり言いなさいよ? さぁ早く!」


「…………………」


「まぁいいわ。あなたがあたしに意見してくるなんて初めてだものね? 今回だけは特別に許してあげる。ついでにお望み通りこの男に手を出すのもやめてあげるわ。そのかわり、わかってるわね? 歯食いしばりなさい」


「……はい」──デュクシ。


 またしてもグーパンがリリィの頬に飛んだ。


 なんで……?


「もう一回よ~!」


「……はい」──デュクシ。


 どうして……?


「まだよぉ~! これは教育的指導~。上官に歯向かったのだから、それ相応の報いを受けなさ~い」


「……はい」──デュクシ。


 なんだよこれ……。

 いいかげんにしろよ……。


 完全にパワハラじゃねーか……。


 エリート社会ってのはこういう世界なのか?

 これが、この国の三大ギルドを担う蒼龍の館のやり方なのか?


 ──だったら、クソ食らえ。


 這いつくばってでもパンツを見てやる……!


 そう決心した瞬間、猛烈で強烈な先程までとは比べものにならない睡魔が襲ってきた。


 まさか、殴られながら俺に睡眠魔法を重ねがけしたのか……?


 そのまさかだった。薄れゆく意識の中、リリィに視線を向けると薄らと微笑みながら口づさんだ。


 だ、い、じょ、う、ぶ、い──。



 どこが!!

 大丈夫なんだよ!! 


 口先が切れて目元は青く腫れ上がっていた。


 ……ざけんな。ふっざけんなよ!


 頭の中が怒り沸騰になるも、すべてが手遅れで、すぐにまぶたを開くことすら叶わくなってしまう。


 身体がぐったりして、重たい。


 視界は閉ざされ、夢の旅へとカウントダウン。


 このまま寝てしまうのか。


 ……………………………。

 

 嫌だ!!

 絶対に嫌だ!!


 妄想しろ。妄想しろ。妄想しろ。

 脳内メモリから記憶を呼び起こせ。


 太もも。太もも……。太もも……!


 リリィの──!

 ふ・と・も・もぉぉおおお!


 うああぁぁあああああああ!



 どうにも抗えない現実を前にして、


 俺の意識はここで、完全に閉ざされる──。





 ◇ ◇


 剣術の才はなく、魔術適正もゼロ。


 そんな俺が、この睡魔に抗えるのだとしたら、それもう殆ど、奇跡に等しいこと──。


 ときに奇跡とは、絶望と希望の狭間で気まぐれに、皆の予想に反して起こるものなのかもしれない。


 ゆえに、誰もが想像すらもしなかったからこそ“奇跡”と言われるのかも、しれない──。





 ──『パパパパンチーラ♪』


 俺の意識を呼び起こすように、脳内に元気な声が鳴り響いた。


 それは懐かしくも温かい、スケベナビゲーションの声だった。


 『スケベティックエイリアスを起動しますッ♪』


 『おパンツアーカイブに接続ッ♪』


 …………………………え?


 今までに一度も聞いたことのない言葉だった。


 な、なんだって? スケベティック……?



 『アーカイブより、リリィのおパンツを複数確認しました♪』


 あ、アーカイブ? ってなに?!


 『表示します♪ おパーンッツ・ザ・オープン♪』


 その瞬間、妄想や想像とも違う、リアルと遜色ないパンチラが脳内に流れ込んできた。


 それはかつて見た、大切な思い出のパンチーラ。


 ──ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ。



 高鳴る鼓動は、それらをリアルだと錯覚させる──。



 『スカートピラーン♪ パンチーラ♪ チャージ数【壱】』


 『ピラーン♪ ピラーン♪ パンチーラ♪』


 『チャージ数【弐】【参】…………【陸】…………………【拾】♪』


 『チャージ数が限界に到達しました♪ 放出してください♪』



 まるで夢でも見ているようだった。


 でもわかる。これは夢じゃない。

 ラッキースケベルがきゅんきゅんとうねりをあげるこの感覚は、現実だ!


 そして──。

 ゆっくりと瞳を開けると不思議なことに、先ほど意識を失ってからコンマ数秒しか経っていなかった。


 幸いにも二人の意識は俺から逸れていた。……それなら、陸ノ型でいこう。


 俺は起き上がるのと同時にスキルを発動させた。


 

 ──ラッキースケベ流『陸』ノ型。

 

 【空から舞い降りる夢幻のおパンツ──】



 不意をつき一瞬でリリィを抱きかかえ、空へと舞い飛ぶ──。


 最中──。

 斬撃の雨をハレンチシーフ目掛けて降らせる。



 三大ギルドだろうが蒼龍の館だろうが、

 お前を傷付ける奴は全員、俺がぶっ潰してやるよ。

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