RPGってなんですか?

雨季

第1話

それはある昼下がりの事だった。

「よし、わしも旅に出よう。」

いつもの様に王様の隣で護衛の仕事をしていると、突然王様はそんな事を言い出した。

「そんな事をしなくても・・・。」

王様が旅に出たら俺らの仕事が増えるだろうと思いながらそんな考えを止めさせようとしたとき、勢いよく睨まれた。

「貴様、この国の王に向かって頭が高いぞ。そんなに死に急ぎたいのか?」

そう言いながら玉座の後ろに立てかけてある剣を手に持った。その姿を見て、近衛兵は勢いよく首を左右に振った。

「い、いいえ。行ってらっしゃいであります!」

慌てた様子で近衛兵は勢いよく敬礼をして見せた。王様はその姿に満足したのか、嬉しそうに深呼吸をして見せた。

その様子に頭を抱えながら床にしゃがみ込むと、隣に立っていた兵士の一人が同情するように肩に手を置いた。


 「魔王を倒す冒険と言えば、仲間と言う名のパーティーが必要だったな。そこのもやしっ子、誇って良いぞ。今日からお前は世の召使いになれるという事を・・・。」

いつもの様に畑で鍬を持つ程力が無いため、作物に水をやっているとこの国の王様が偉そうな態度でそう話しかけてきた。

「お、王様!僕には無理で・・・。」

そう言いかけたその時、何かが頬を掠った。それと同時に痛みを感じた。頬に手を当てて見ると、血が出ているのが分かった。

「すまん。手が滑った。」

悪びれる様子が全く感じられない顔をして王様は何故か僕の後ろに落ちている剣を拾い上げた。

「それで、付いて来るよな?」

恐怖の感じられる声で王様は僕を睨みながらそう言った。

「あ、当たり前じゃないですか!いざとなったら、僕が王様の盾になりますよ!」

泣き笑いながら僕がそう答えると、王様は満足した様な笑みを顔に浮かべた。

 「もやしっ子!旅に出るの?だったら私も連れて行って!こう見えても私、魔法が使えるのよ。」

ウィンクをしながら近所に住んでいる女の子はそう言った。

「おお、お主は魔法が使えるのか!よし、わしの仲間になるが良い。」

王様は上機嫌で女の子の両肩を軽く叩いて見せた。

「お、王様、この子はまだ幼すぎます。旅には向かないと・・・。」

召喚魔法と称して自分のおじいさんしか呼べないこの子を連れて行っても邪魔にしかならないだろうと思いながら王様にそう話しかけると、女の子の口が上下に動くのが見えた。

その光景にまずいと思いながら女の子の口を塞ごうとした瞬間、勢いよくその子のおじいさんに殴られた。

「わしの目に入れても痛くない位に可愛い孫に何するんじゃ!」

顔を真っ赤にしておじいさんは女の子を強く抱きしめた。

「おお、そなたはもの凄く強いのだな。よし、わしのパーティーに入れてやろう!」

嬉しそうな顔をしながら王様はそのおじいさんの両手を強く握りしめた。

 「俺はこの前、村の外でたむろしてたモンスター達を暇だったから一人で倒してきたんだぜ?すごくね?俺って超カッコ良くね?」

遊び人はそう言いながら少し可愛いと思う町娘の肩に腕を回した。

「それって超凄い!マジでカッコイイ!」

クスクスと笑いながらそんな男に身を寄せて町娘は言った。そんな信憑性の欠片も無い話を楽しそうにしている二人の姿を見て、もやしっ子は少し嫉妬をした。

「ほう、あの者はそんなに強そうには見えないが、意外にやるのだな。よし、わしの仲間にしよ・・・。」

そんな危ない事を言っている王様の腕を僕は掴んで引き留めた。

「王様!あんな、あんな羨ましいなんて微塵も思ってないけど、あんな話を簡単に信じるつもりなんですか?僕は絶対に反対です!きっとあの遊び人を入れる事によって、このパーティーの士気と言うよりも僕の士気が激しく下がります!」

そう言ったその時、あの遊び人の男がいつの間にか目の前に立っていた。

「おい、もやしっ子。自分が女の子に話しかけられないからって、俺に嫉妬してるわけ?」

まるで蛇に睨まれた蛙の様な状態になった。

「あ、えっと・・・。」

何か弁明する言葉を言わなければと思っていると、そんなのが思い浮かばないうちに殴り飛ばされた。

そんな彼の姿を見て、王様は目を輝かせながらその遊び人を仲間に入れた。

 こうして、僕達のパーティーは王様、もやしっ子、近所の女の子、そのおじいさん、遊び人という奇妙な編成になった。

 「まあ、魔王と戦うには強い装備が必要ですよね。」

この編成に対してもう何も言う気がしなくなり、パーティーを連れて防具屋へと足を運んだ。

「俺、このピッカピッカの鎧が良いなあ。なんかカッコ良さそうじゃない?」

王様に身を寄せながら遊び人が言った。

「ねえ、この服が欲しいな。」

女の子は派手なだけで防護力が無さそうな服を指さしながらおじいさんに言った。

「それが欲しいのか?なら、このおじいちゃんが買ってあげよう。」

そう言いながら穏やかな笑みを顔に浮かべて女の子の頭を撫でた。

そんなパーティーの様子を見て、溜息が出てきた。そして、自分に見合った防具を僕は探した。

「冒険の初めはこう言う服がおススメですよ?」

今の僕のお財布に見合った服を店員は両手にいっぱい持ちながら近寄ってきた。持ってこられた服はどれもカッコ良く感じられた。

胸を高鳴らせながら僕はその目の前にある服の一つを手に取った。

 「もやしっ子、明日は早いのだからそんな部屋の隅っこでいつまでも泣くな。」

宿屋の夜ご飯を呑気に食べながら王様が話しかけてきた。

「王様、今はそっとしておくべきですよ。あの防具屋でもやしっ子の体力に合った防具が一つも無かったんですから。」

聞えない様に小声で言った遊び人のその言葉が僕の心を抉った。

 「こんな所で立ち止まっては行けませんね。さあ、王様!魔王を倒しに行きましょう!」

昨日の出来事を全て吹き飛ばす様に僕は町の入口に立ってそう言った。

「ねえ、もやしっ子!あの遊び人のお兄ちゃんの姿が何処にもないよ?」

女の子は辺りを見回しながらそう言った。その言葉に同じように見回して見るたが、遊び人の姿は何処にも無かった。

「そう言えば、昨日の夜に宿屋に見知らぬ女性が来ててな、遊び人を連れて何処かへ行ってしまったぞ?」

のんびりとした様子でおじいさんはそう言った。これはチャンスだと心の中で僕は思った。

「仕方がありませんね。魔王は待ってくれませんから、先を急ぎましょう!」

すると王様に肩を掴まれた。

「それはならん。同じ仲間なんだ。遊び人一人を放っておくわけには行かん。」

その言葉を聞いて、僕は先程言った言葉を恥じた。

 「えー?もう行くんですか?」

女の子を両脇に抱えながらソファに座り込んでいる遊び人の姿を見て、僕は奴を殴りたいと思った。何故なら、この遊び人を探す為に半日を費やしたからだ。

「急ごう!魔王は待ってくれないんだ。君にしか魔王は倒せないんだよ?」

どうせ喧嘩になってももやしっ子の僕がこの遊び人に勝つことは出来ないんだと思い、怒りを抑え込む様に言った。すると、遊び人は顔に満更でもなさそうな笑みを浮かべた。

 ようやくパーティー全員がそろい、町を出ようとした頃にはもう日が沈みかけていた。

「さあ、今度こそ魔王を倒しに行きましょう!」

そう言ったその時、突然辺りが真っ暗になった。何事かと思い、ゆっくりと顔を上げて見た。すると、目の前に腕を組んだ魔王の姿が見えた。

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