ふたりでごはん
園生坂眞
第1話 ①ー① 心臓を食べたい
白。そして唇の赤。
それが、僕の彼女に持っていた印象の全てだった。
僕の名は今田一男。二十五歳。工員の、アルバイト。
一緒に帰路につく彼女は白金美樹。二十二歳。晴れて今より無職。今日が退職日だったらしい。
彼女とは、仕事の話以外に会話したことがなかった。何故、話しかけてきたのか。それも、こんな彼女にとって特別な日に。
まあ、僕は悪い気はしないけれど。彼女を綺麗な人だなと思っていたし、職場でも評判だった。
「いつも、持って数か月なの」
ふと、そう言った。「働くことは嫌いじゃないんだけど、どうも馴染めないのよね」
「二か月ほどだよね、ウチの会社」
「うん。丁度二か月」
「何がきっかけだったの?」
「目立ちたくないの。あまり、色々言われるの、好きじゃないから」
僕は軽く頷いて、それ以上理由は聞かなかった。
知っている。彼女は白くて華奢で綺麗で、目立っていた。仕事も卒なくこなす。
だから、浮いていた。仲のいい同性の同僚もいないようだった。それどころか、悪く言う女性工員も多かった。彼女は、特段何もしていないのに……
「白金さんなら、すぐいい仕事が見つかるよ」
お決まりの慰めを言う僕に、彼女の返事はない。
無言になって歩いていると、ふと彼女が口を開いた。
「心臓が食べたい」
僕はぎくりとして彼女の赤い唇を見つめた。
その様子に気付いたのか、彼女は少し恥ずかしそうな顔をした。
「晩御飯、付き合って欲しいの。
あのお店に行きましょう」
そう言って、彼女は煤けたのれんの下がる一軒の店を指差した。
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