15話 すべては始まる。


「大丈夫です。すべてうまくいくと思います」


 と応えた。それに自分に指図する声なんて無視してしまえばいい。これまでだって無視してきたのだ、ノインにとっては声などに従順に従うことなどない。異世界に来た理由は世界を滅ぼすことではなく、目の前にいるココの願いを叶えるために来たことにすればいい。彼女は必死に自分の夢を掴もうと頑張っている。だからこうしてココの系譜に自分が入ったのも偶然ではないような気がしてくる。なによりも自分を見つけてくれた少女――ココのために自分ができることをしてみよう、そうすれば天異界の中央に行くことぐらい訳ないだろうと思うのだ。


「そうだよね!ノインちゃんがいるもん。それに、ペルンちゃんもいるし、これからいっぱいいっぱい頑張れば、天異界の中央にだってすぐに行けちゃうよねー」


 ココは、うんうんと何度も頷き、元気を取り戻した顔をノインに見せた。そして彼女は、その胸の内に秘めたこれからの展望を彼に受け取ってもらえるように、言葉を丁寧に紡ぎ始める。


「ノインちゃんは私の系譜従者になりました。それで、ノインちゃんには系譜の強化を行うために、ものすごーく強くなってもらいたい。もちろん、私も系譜従者をいっぱい増やしていこうって思っています。だからね。ノインちゃんにはいっぱい頑張ってもらうから、これから、どうぞよろしくお願いします!」


 真剣な表情でココはノインの手を強く握った。


 と――、


 ココのお腹が鳴った。

 そして同時にココのエーテル量も完全に回復した。お腹の音に自分自身でも驚いているようで、彼女は照れくさそうに笑う。


「えへへへっ。お腹が鳴っちゃたねー。そういえば、船から戻ってきてから何も食べてなかったもん。そーだ、ペルンちゃん!ノインちゃんと一緒にご飯にしようよ」

「おう!んだべ。腹ごしらえは大事なんよ。既に食材の下ごしらえは出来ているべ!」


「さすがペルンちゃんだー。料理の腕は右に出るものなしだよ~」

「んははっー、もっと褒めるがよいべよ~!!」

「そうですね。僕もご飯は……久しぶりです」


 ノインはそう言ってから、自らの古き記憶を探ろうとする。しかし、食事に関する記憶は何もなく思い出せるものはなかった。ただ、とても懐かしい感じがする。


 ココに手を引かれてノインは部屋を出た。彼女の前では、ペルンが先頭をきって廊下を歩いている。その歩いていく途中で、ココがノインに振り返って言うのだ。


「あのね。誰かと一緒に食べるご飯って、とっても楽しいんだよ」

 ココはとても嬉しそうに、「今日のご飯は何だろうねーペルンちゃんのお気に召すままだよねえ~」と鼻歌を歌っている。誰かと一緒に食べるご飯は楽しい、とココは言った。


 自分はずっと独りでこの世界に閉じこもっていたけど、ココの笑顔を見ると心が温

かくなっていくのを感じていた。自分の手を引くココの後姿を見つめながらノインは思う。自分はココの従者になることを選んだ。そして主人であるココの、彼女の目的である天異界の中央を目指してココと共に歩んでいくのだと。それが、これからの自分の行動理由なのだと決めたのだ。


 自分の意志は固まった。


「ココ。君が行きたいという天異界の中央に、僕は一緒に行こうと思う―――」

「えへへ。当然なのです!」


 ココはノインに振り返り笑顔を向ける。もちろんノインも笑顔でココに応えたのだった。

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