初めてのドライブ(危険ver)

ジョナサンはなぜか助手席に乗るので、僕は後部座席に乗り運転席を見た


長い髪を後ろでまとめるポニーテール姿の女性が車の鍵を回していた


「初めまして。これからcontract(契約書)書きに行くよー」


「え、なんで?日本語?日本人ですか?」


また日本語が聞こえた。その驚きのあまり


初対面の「初めてまして」の返しに「なんで?」と


「初めましてになんで?はなんで?」と

なんで返しをされる失礼な返答をしてしまった。


「そうだよー! 君と同じワーホリに来てんの。」


あ、なんで返ししないのね...


なんで?なのだろう


ブブブン.!


エンジンのかかる音が響いた


ポニーテールの彼女はバックミラーを合わせる


そのミラー越しに僕は彼女と目が合った


「よろしくお願いします」と僕はいい

彼女は「これからよろしく」と横目で言った


ミラー越しに映る彼女の顔


この女性はジョナサンと違って見るからに日本人


日本語から離れた環境に身を置きたいと思っても

日本人を見ると、日本語を聞くと、


どこかほっとしてしまうのが正直な気持ちだ


しかし、今のところ会った人は


ジョナサン(日本語話せる)

運転手(日本人)

ボスのマイク(kiwI)


家に他に何人かいたけどちゃんと話したのは今はこの3人だけ


僕はまた日本語ワールドに陥ってしまっていた。

これがニュージーでワーホリをする日本人の宿命なのか...


車は僕に見向きもせず、さっきまで走っていたここへ向かう道とは違う、反対側の道へ進む。


「こっから20分くらいしたとこが事務所だからね。あ、ボールペンある?」


「あります!カバン丸々連れてきたんで!」


「おっけ、そんならコントラクト書けるわ

ジョナ、私事務所までの道覚えてないからナビして」


「まだ覚えてないの??奥のとこ左折して」


「え、ここ?」


ガクン.!!


そう言った瞬間、車体は大きく右に傾いた


その衝撃で、左後ろの席に座っていた僕(の肘)は、


右座席の扉にエルボーをかましてしまった


「ちょ、れみ!手前じゃなくて奥の曲がり角!!」


ジョナサンの叫び声が車内に響く


ジョナサンの体も右に傾いていて、シートベルトに圧迫されているお腹のお肉(脂肪)は


ボンレスハムの紐から溢れるお肉みたいに重々しい。


「ごめん。言い忘れたんだけど、れみはくそ運転下手くそだから覚悟して」


圧迫から解き放されたジョナサンは軽々しく言った


「たしかに私は下手だ!殺したらごめん!

あの世で恨んでくれ!」


れみさんも軽々しく言う。


僕だけ重々しい気持ちで、片道20分の命をかけたドライブを続ける...

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