最終話 ウォーターブルーインパクト
「なぜあなたが……」
悪の巨人に変身したかつての仲間と対峙したウォーターブルータイタンが問いかける。それに対して、ヒデキは腹を抱えて笑った。
「これは傑作っすね。セイジ隊長も、木村ジュンさんも、若林ハジメさんも、みんな僕が殺したんすよ。まず、セイジ隊長と木村ジュンさんは、孤児院と地球防衛隊のマネーロンダリングを暴こうとしたから、口封じで殺して、経営者の若林さんは捜査の手が伸びる前に処分したんす。暗部の飼い犬として。あの店で、あんたに胸倉を掴まれた時は、暗部の飼い犬だってバレたのかって思ったけど、まだ真実に気付いてなかったんすね」
「かつての仲間を疑いたくなかったが、それが真実だったんですね。その声を聴いて、ようやく受け入れることができそうです」
校庭の上に立つ二体の巨人が、互いに拳を振るう。二つの拳が衝突した瞬間、突風が生まれ、土煙が漂った。
その反動を使って、ウォーターブルータイタンは体を後ろに飛ばした。その一方で、ダークブルータイタンは拳を握り、前方に駆け出す。
悪の巨人は、そのまま距離を詰め、右の拳を前に突き出す。その一撃を、正義の巨人は右手だけで受け止めた。その衝撃が全身に響き、ウォーターブルータイタンの両膝が地面に落ちていく。
その隙を付き、ダークブルータイタンはウォーターブルータイタンの腹を蹴り上げた。鋭い一撃を全身で受け止めた正義のヒーローの巨体は、仰向けに倒れてしまう。
地面が小刻みに揺れる中で、サトルは校舎の屋上から地上を見下ろした。ユウコしかいないこの場で戦闘の一部始終を見ていたサトルは、大きく目を見開く。
「今まで怪獣を苦戦することなく倒してきた、ウォーターブルータイタンが、こんな簡単に倒れるなんて……」
「そうですね」とサトルの隣で同意を示したユウコが、空を見上げる。その視線の先で、二台の戦闘機がこちらに向かって飛んでいた。
「なんだ? あの黒い巨人……」
上空に浮かぶ戦闘機の中から、地上に現れた見慣れぬ黒い巨人を目撃したダンキチが首を傾げる。丁度そのころ、ナオは無線を握り、ダンキチに呼びかけた。
「ダンキチ隊長。地上を見てください。あのウォーターブルータイタンが倒れています。怪獣の姿は見えません」
「東都中学校を襲撃した怪獣は全て、あの巨大ヒーローが倒したみたいだな」
そう答えてから、ダンキチは悔しそうな表情になった。そのまま、地上に横たわる巨大ヒーローの姿に視線を移した地球防衛隊の隊長は、上空を旋回しながら、無線を握る。
「ゲン司令官。東都中学校の校庭に正体不明の敵が出現した。ウォーターブルータイタンでも倒せない程の実力があるらしい。そんな敵に対して、ミサイル発射許可をください。他の地球防衛隊員たちを殺した怪獣を全て倒してくれたあのヒーローが史上最大のピンチに陥っているんです。俺は、あのヒーローを助けたいんだ!」
無線機を握り締めたまま、力強く叫ぶ。その声を聴き、ゲンは納得の声を出した。
「分かった。ミサイル発射を許可しよう」
「ありがとうございます。ナオ隊員、行くぞ!」
「はい」
二台の戦闘機が連なって急降下する中で、ダークブルータイタンは、仰向けに倒れたウォーターブルータイタンの顔に向けて、自身の右手を伸ばす。
掌に禍々しい闇が集まっていくと、ダークブルータイタンは大きな瞳を赤く光らせた。
「これで終わりっすね」
ドスの効いた不気味な声を校庭に響かし、掌の上に集まった闇を発射させる。その瞬間、ダークブルータイタンの視界に二台の戦闘機が映り込んだ。
「怪獣も倒せないお邪魔虫が!」
目障りに感じた悪の巨人が左手を天の伸ばす。地球防衛隊の戦闘機を握りつぶそうとする動きを察知したダンキチは、急に右翼を真下に傾けた。
「ナオ隊員、退避!」と無線を握り締めたダンキチが叫ぶ。その指示を聞き、ナオも同じ動きで迫りくる魔の手から避ける。
ナオの戦闘機を横目で見ていたダンキチは、正体不明の黒い巨人に対して、怒りを向けた。
「怪獣も倒せないお邪魔虫だと? ふざけるな! 俺たちはあの赤ん坊怪獣を倒したんだ。だからここにいる!」
「そんなバカな。地球防衛隊の戦力で怪獣が倒せるわけがない」
黒い巨人は慌てながら、上空を旋回している戦闘機の顔を向けた。
「お前が誰かは知らないが、どうやら、お前は地球防衛隊の底力を過小評価していたようだな。ウォーターブルータイタン。お前がそこでくたばってる間に、コイツを倒す! うぉぉぉおおおおおおおおおおおっ」
叫びながら、ミサイルの照準を黒い巨人の右掌に合わせ、戦闘機の下部に搭載された銀色のミサイルが発射された。それは、悪の巨人の右手の中で渦巻く禍々しい闇に
向けて、一直線に進んでいく。
次の瞬間、黒い巨人の顔は苦痛で歪んだ。右手の中で渦巻いていた闇は爆風と共に消え、右手に大きな穴が開く。
「バカな。地球防衛隊のチカラで、必殺技を打ち消しただと!」
黒い巨人が驚く間に、正義の巨大ヒーローが起き上がる。
「地球防衛隊諸君。時間を稼いでくれて、ありがとう。おかげで、この一撃を放つことができるくらい回復できた」
そのヒーローは、空中に浮かぶ二台の戦闘機に対して頭を下げてから、右手を強く握った。すると、右手が眩しいほどの青白い光が包み込む。
「この一撃に全てを賭ける。ウォーターブルーインパクト!!!」
正義の巨大ヒーローの拳が悪の腹に食い込み、黒い巨人の体が青白い光に包まれていく。
「にょわぁああああああああああああああぁぁぁぁ」
黒い巨人の断末魔が校庭に響いた後で、正義の巨大ヒーローが空に向かい飛び立つ。
ウォーターブルータイタンの姿が見えなくなった頃には、黒い巨人の姿も消えていた。
「東都を襲った大規模怪獣災害から一週間が経過しました」
夕暮れの光が窓に差し込む中、薄汚い探偵事務所にいたサトルはテレビの女子アナの声を聴いた。顔を上げないまま、目の前のノートパソコンの画面に映る調査報告書という文字を凝視して、キーボードを打ち込んでいく。
それから、数十分の時が流れ、ニュースは締めに入ろうとしていた。
「大規模怪獣災害による死者は五千人、行方不明者は三千人と推測されると、地球防衛隊から発表がありました。今、東都は復興に向けて一歩を踏み出しています。では、次のニュースです。元地球防衛隊員の田丸ヒデキさんを殺害しようとしたとして、警察は食堂店主の山寺アイ容疑者を逮捕しました。調べに対し、山寺容疑者は、殺された息子のために復讐したかったと供述しています。また、病院から田丸ヒデキさんの行方が分からなくなっており、警察は山寺容疑者が失踪にも関与しているのではないかと思い、調べを進めています」
そんなニュースを耳にして、顔を上げたサトルは、調査報告書の印刷ボタンをクリックした。
ウォーターブルータイタン 山本正純 @nazuna39
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます