効率 (短編)

うちやまだあつろう

効率

 薄暗い部屋で、一人の男は巨大なコンピュータの前でため息をついた。その横では、人型のロボットが煙を吹いている。

 すると、ドアがノックされ、一人の小太りの男が入ってくる。

「博士、調子はどうだね?」

「あっ、社長……。」

 社長と呼ばれた男は、うなだれた人型ロボットを見て眉間にシワを寄せる。

「なんだね、このガラクタは。」

「……ただいま調整中でして、完成までは……」

「それはもう聞き飽きたよ。いいか? 我々社会人に求められるのは結果だけだ。君の試行錯誤など、クソほどの価値も無い。」

「ですが社長。『あらゆる業務を効率化する機械』という曖昧な注文では、誰でも頭を抱えます。少なくとも、何か具体的な業務内容を教えていただかないと、何を効率化すればいいのかすら分かりません。」

 それを聞いた社長の機嫌は、更に悪くなったようだ。

「私の注文通りに作れないのなら、即刻クビにするからな!」

 社長はそう吐き捨てると、怒りながら部屋を出ていってしまった。


 激しい競争社会。油断すればすぐに足元を掬われる現代において、会社が求めるものは「高効率」であった。

 窓際族と呼ばれる者たちは即座に解雇され、仕事終わりの飲み会はもちろん、効率化を阻害するものは次々に無くなっていった。一部、「反効率化」を掲げる団体も生まれたが、彼らも効率的に排除され、今では見ることもない。


 この会社の社長も、効率化の波に乗ろうと様々な手段を用いた。しかし、そのどれも一時的な効果しか得られず、他の会社にどんどんと追い抜かれていってしまう。結果的に会社は倒産寸前。

 そこで社長が命じたのが「あらゆる業務を効率化する機械」の製作である。

「意味わかんねぇよなぁ、あの社長。」

 男は、遂に黒煙を吐き始めたロボットに語り書ける。

 このロボット開発事業も、初めは数人のメンバーが居たのだが、効率化という名の人員削減により、彼一人となってしまった。

「俺も転職しようかなぁ。」

 そう呟いたとき、男の頭にふと名案が浮かんだ。

 この会社で、最も効率化を妨げているもの。それは、少し考えればすぐに分かることだった。

 男は不敵な笑みを浮かべると、ロボットの頭脳にあたる、新たなAIをプログラムし始めた。


―――


「完成したか!」

「はい。」

 社長は目の前の人型ロボットを眺める。

「さ、早く作動させろ!」

「もちろんです。」

 男はそう言うと、棚からリモコンを取り出す。そして、社長がロボットの前に立っているのを見て、起動ボタンを押した。

 すると、そのロボットは、突然目の前の社長を持ち上げると、地面に叩きつけた。鈍い音が響く。

「な、なんだこれは!」

 血の滲む頭を抑えながら、社長は男に叫んだ。しかし、ロボットは容赦なくその頭を叩き割る。

 そして、社長が起き上がらないのを確認すると、ロボットは言った。

『彼の死亡により業務が14%効率化されました。更に、副社長の佐藤さんが社長へ就任することで、21%の業務効率化が可能です。』

 それを聞いた男は大声で笑いだした。

「それで良い! これで、やっと平穏な日々が帰ってくる!」

 これが男の狙いだった。上への報告では、試験運行中の事故だと言えばいい。

 邪魔な無能社長がいなくなった今。男はクビになる心配もない。この会社も、より働きやすい会社へと変わる。

 そう信じての行動だった。


 しかし、ロボットは近くにあった金槌を手に取ると、男を殴り付けた。

「な、何をするんだ! やめろ!」

 叫び声も虚しく、ロボットは男が動かなくなるまで殴り続けた。

 そして、血だらけの金槌を投げ捨てると呟いた。

『全社員を機械へ置き換えることで、16%の業務効率化が可能です。私を量産し、配置することで、更なる効率化が……

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効率 (短編) うちやまだあつろう @uchi-atsu

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