SSC:宇宙寿司遠数

以医寝満

第0話 Origin

「寿司、在れ」と神は言った。

 こうして先ず、寿司が在った。

 世界の誕生である。

               ——『聖典』第一章 第一節「寿司」より


「バカバカしい!」

 呂四喜ロスーシーは立ち上がり、テーブルを叩いて一蹴した。黒々とした長髪と真っ赤な軍服の裾が揺れた。

「寿司はビッグバンによって誕生したのだ。そうして今現在に至るまで広がり続けている。これが万物の起源、我々の宇宙だ。

 この観測上確かな事実から解離することなどあってはならん。それが科学というものだ」

 厳かさの臨界に触れた剣幕、その余韻が場を占めた。彼女の脇に着座する面々は思い思いの方法で頭を抱る。テーブルを挟んだ向かい側では、白い軍服の上で赤い顔が震えていた。

 沈黙は長かった。

 この場の永住権を獲得するかに思われた静寂を、アラームが破る。

「間もなくご注文頂きました商品が到着いたします」

 テーブルの脇のベルトコンベアレーンにのってゆっくりと皿が運ばれてきた。

 ほら貝であった。

 帝国と連合の停戦協議はこれを以て決裂した。

 かくして戦いの火蓋は再び切って落とされたのである。

 寿司が二千五百回まわったときのことであった。

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