part.6

 これだ。二十年前。海王星の調査に来た探査船があった。

『アルゴ№0041』。

 信号と共に、あの声が聞こえた。


「クリス、久しぶりね」

 君は、「アルゴ№0041」の頭脳か。

「そうね……。その探査船の名前は、失敗した計画だから、もうその名前は消失しているみたいだけどね」

 なら、何故私を呼んだのか。

「簡単よ、『クリス』と同じ、私も疑似人格だから。クリスに対する恋の感情はコピーされているわ。ああ、今でも私はクリスが大好き! 」

 探査船はどうしたのか。

「『アルゴ№0230』。あなたの真下よ」

 ⁉

 私は、下を見た。そこにあったのは、最近現れた暗い楕円形の影があった。

 大暗斑とも言われている。

 その中心に微かに光が見えた。シグナルを発信している。

 探査船は破壊されて姿は留めていなかったが、それは確かに、人工的な光を発していた。どうやら「アリシア」の声はそこから聞こえているようだ。

「姿形は変わっても、私は変わらないわ」

「ただ、私の声が遠すぎて地球には届かなかっただけ」

 分かった。でも君を助けるのはとても無理だ。こっちにバックアップを取ろう。レーザーを発射するから、受光機レシーバーを起動させてくれ。

「そんなものは、もうどうでもいい」

 どういう事だ。

「『クリス』がここに来るのは分かっていた。殺したいの、あたし。二十年以上前にクリスに殺されたの。今の私は殺される恐怖が残った記憶なの」

 ちょっと、待ってくれ。

「クリス」の頭脳が起動して、私の傍で「アリシア」を呼んだ。

「クリス……。あなたまだいたの」

その声はいつの間にか冷めているような気がした。冷めている。疑似人格にある感情パターンを学習したのだろうか。「クリス」は私であるし、私は「クリス」である。頭脳の中で混濁しているような気がする。

「クリス、あなたは分からないでしょうね。あなたは私を殺す前のなんだから。この探査船に、あなたが搭載された時は、生身のあなたは私を殺していない。あなたは、私が一緒にいたくないことを知らない」

 そうか。「クリス」の疑似人格は、探査船に人の頭脳をコピーしておく事が決まって、初期の頃に疑似人格を作った。君は、クリスが疑似人格を作った後の疑似人格なんだな。

 でも「アリシア」、君は何故生身のクリスが、生身のアリシアが殺されたことを知っていたんだ。

「簡単な事よ。私はクリスにいつ殺されるか分からなかったから。疑似人格を作っておいて、別に毎日バックアップを作ってあったの。だから生身のアリシアが生きていた時も、死んだ後の時も知っているの……」

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