part.4
「あなた」
また、声がした。
私は宇宙探査船『アルゴ№0230』である、と共に「クリス」という一つの人格でもあり、記憶である。
その「クリス」が時々聞こえる女性の声が、「アリシア」という女性である報告を、私は認識していた。
アリシア、その女性は誰だ。
「クリス」の回答。
この女性の名前はアリシアだ。私の恋人であり、許嫁だった女性だ。結婚しようと約束して叶わなかった相手だ。人間であるクリスが事故で死ぬ前に、先に彼女を亡くしてしまった。その記憶の一つだ。
そうだ、アリシアだ。間違いない。
「クリス」の疑似人格は、時々聞こえる女性の声が、死んでしまったアリシアの声で間違いないと認識していた。
「あなたの夢が今叶っているのね、クリス! 」
ああ、そうだよ。アリシア。
私はこの宇宙探査船で、宇宙の彼方に行くには肉体がとても持たない。ならば、NASAで計画され、人間の記憶のコピーを乗せて惑星探査に向かおう。この計画に参加して人格だけでも宇宙に行こう。
これで、私の夢は叶ったわけだが……。もう一つ。夢が叶いそうだ。
「何? 教えて、クリス」
うん、……覚えているかな? 僕達がまだ若かった頃、君にあげた花があったじゃないか。そう、あの星の色みたいな淡いブルーの色の花の事を────。
「ああ……、初恋草の花が咲いた色みたいね」
そうだ。君の瞳の色と同じだ。決して、忘れるものか。だから君にあげた結婚指輪を、同じ淡いブルーの宝石にしたんだ。
でも、それを君に渡す前に、君は逝ってしまった──────。
私は、アリシアの思い出も、他の記憶と一緒に「クリス」の人格に組み込まれている。だから彼女の思い出もこうして紡がれて出てくる。
でも──────、
アリシア、君は何者だ?
「あら、違うわ。クリス」
私の中で、「クリス」が答える。どういう事? と──。
どういう事だ? ……《彼》に任せてみよう。
「あなたの目の前にいるわ。あなたが私を迎えに来たんじゃない」
目の前?
「そう、目の前よ。分からないの? 」
目の前に見えるのは、氷で出来た環を持ち淡いブルーの色を称える海王星だった。
目の前?
目の前に見えるのは、地球から約43億5千キロ離れたところにある海王星だ。アリシアという人間では無い。
「クリス」、君の思い違いだ。「アリシア」は死んでしまったという記録が残っているじゃないか。
ちょっと、待ってくれ。アルゴ№0230。
なんだ、この探査船のメインの頭脳は私だ、分かっているのか?
分かっている。でもこの女性の声は聞こえるだろ。それをどう判断すればいい?
「クリス」が暴走しているのか? この女性の声はどこから来るのか? それとも、本当に目の前の海王星が呼びかけているのか。
分からない。どうすればいいのか。
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