第31話 恐怖の二人組

――――翌日。


「ふああああぃ! 良く寝た!」


 異世界に来てからのリムは、久しぶりの柔らかいベッドが心底気持ち良かった様だ。起き上がり両手を頭上に伸ばし、軽く身体を捻る。


「……ん?」


 漸く違和感に気付いたリムは頬をピクピクとヒクつかせる。


「おい、何してるんだ君達」

「ほえー? 今日のリムちんのお洋服選び☆」

「何がいいかなー♪ ミルっち、これなんてどう?」


 何故か部屋の一角に並べられているのは例のコスプレの数々であった。そう、リムは全裸に剥かれていた。


「だからなんで裸なんだよおお!」

「タータんにも見てもらおうと思って☆」

「何をだよ!」

をだよ☆」

「ボチボチでんがな♪」


 ミルとタータは親指を立ててグッジョブしていた。慌てて布団を被り、かまくら状態で顔を出すリム。


「んで? 今日は何を着させるつもりだ……」

「んーこれなんてどう?」

「あ! それ可愛い♪ それにしようよミルっち」

「嫌です」


 ミルが持っていたのはセーラー服とスカート、黄色の通学帽。さながら女子小学生である。


「えーいいじゃん! 可愛いじゃん☆」

「なんでこんな所まで来て小学生みたいな格好しないといけないんだよ!」

「いいじゃん! 可愛いじゃん♪」

「お前らは姉妹か」


 息がぴったりのミルとタータに突っ込みを入れつつ、リムはかまくら布団に閉じこもった。


「とりあえず昨日の柔道着でいい。それ以外着ないから」


 布団の中から籠った声が聞こえる。


「仕方ないなあ、昨日洗ってもらったやつ持ってくるかあ」

「あ! タータ、持ってくるよ! 待ってて♪」

(ふう、なんとか危機は脱した。とりあえず今日は黒法師くろほうしが言ってた、白星はくせいの泉とやらに行ってみるか。図書室に地図とかあるかな)



――――三十分後。


「いいじゃない! こっちも妥協したんだからそっちも妥協してよ!」


 リムとミルが激しく押し問答をしていた。リムの言い分はこうだ。


「お前らの趣味に付き合うなんてまっぴらごめんだね! 衣食住を提供してくれているから多少は我慢しなきゃって思ってるよ! だから、柔道着で折れてるんじゃないか!」


 それに対し、ミルはこう答える。


「こっちだって折れたんだよっ! だからせめてこれだけでも付けてよ! ね☆」


 ミルの手に持たれていたのはあの黄色の通学帽だった。どうでも良い争いである。


「柔道着に通学帽は合わないの! 鉢巻きでいいの!」

「ダメっ! 衣服を扱ってる商人の話だと、これは小さい子に着けて身の安全を守る為だって言ってたもん!」

「小さいって、中身は立派なおっさ……大人だよ! そんな恥ずかしい物付けれるかってんだ!」

「ミルっち、貸して♪」


 ここでタータが動いた。ミルから受け取った黄色の通学帽を両手に持ち、リムへとゆっくりと近付く。

 何故かこういう時のタータの圧力は凄まじい。髪の毛や容姿全体が紫色を基調としている為、背景をも紫色の淀んだオーラが見える様である。


「タ、タータさ……ん?」

「付けて♪」


 ニッコリと笑みを浮かべたその顔はリムにとって恐怖の微笑みでしかなかった。華奢なリムの身体を左手で掴み、通学帽を持った右手を振りかぶった。


「ギャー!!!」


 通学帽を被った柔道娘が完成した。通学帽の真ん中が裂け、角が突き出た状態である。被ったと言うよりかは貫通して刺さっている。


「ほんと……お前らはオレの角で遊ぶな!」

「よし☆」

「よし♪」


 もはやこの世界ではリムは着せ替え人形となる運命であろう、ミル達が居る限り。


「本当にお前らは騒がしいな」


 部屋の扉が開き、呆れ顔でドームが入ってきた。


「リム、今日も修行の続きをするぞ」

「あ、その事なんだけど。ちょっと行ってみたい所があるんだよ」

「何処だ」

白星はくせいの泉?」

「な!? 何故あんな場所に……」


 眉間に皺を寄せ、身体が固まるドーム。


「あんな場所? いやちょっとね。まだこの世界を全然知らないしさ。黒法師にも言われたんだよ。行ってこいって」

「あの女……」

「行きたい行きたい! アタシ行きたい!」

「タータも行きたい行きたい♪」


 ミルとタータは既に行くつもりであろう。両手を取り合い、クルクルと回る。


「はあ……行った所で何も無いぞ? それでも行くのか?」

「んーとりあえず?」

「仕方無い。こいつらが行く気になってしまった以上止められん。一緒に行こう」


 ドームは深い溜息を付き、肩を落とす。準備をして来ると告げ、部屋を出ていった。


「泉っ☆ 泉っ☆」

「泉っ♪ 泉っ♪」

「お前らなぁ、遠足じゃ無いんだぞ」

「へ? じゃあ何? 今日はいい天気だよっ☆ ピクニック日和だよっ☆」

「ミルは身体、大丈夫なのか?」

「ばっちり問題ないぜベイベー☆」

「べいべー♪」


 ノリノリの二人はもはや手が付けられない。


「はあ、まあいいか。とりあえずこの前行った図書室の爺ちゃんの所に行って地図を貰ってこよう」

「オッケー☆」


 三人は図書室へと向かう為、部屋を後にした。

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