186話 奴隷

「うっ…」


「なんだ。もう目覚めたのかよ」


 ゆらゆらと左右に揺れる視界の中、雫はぼんやりと意識を取り戻すと、誰かの肩に担がれている状況下にあった。


「リド、分かっていると思うが…逃がすなよ」


「へいへい。ムアは心配性だな~」


 2人が呑気な会話をしている間に、雫は周りを観察し逃亡のチャンスを伺っていると、視界の端にとんでもない光景が映る。


「な、なによ…あれ…」


「あー。アレか」


 そこには首輪を付けられた大勢のやせ細った人間達が、魔人達によってボロボロに働かされていた。


『オラオラ!死ぬ気で働け劣等種共が!!』


『ひっ!?』


『何を休んでるんだ貴様!さっさと鍬を握らんか!』


『も、もう…無理です…』


 男性は体力の限界が来たのか、耕していた畑に倒れこみ動けなくなる。


 鞭を持った魔人がすかさず前に現れるも、男性が口答えしたのが気に食わなかったのか、額に青筋を浮かべると容赦なく鞭を浴びせた。


『っ…口答えしよって!…この軟弱者がぁああああ!』


『ひぎゃ!? あぐっ!? ぐあ!?』


『どうだ?カツを入れてやったぞ。死ぬまで働きたくなっただろ』


『うぅ…はい…死ぬまで働きます…』


 男性はガリガリの身体をプルプルと無理やり奮い立たせると、中断していた作業を再開した。


 その背には打ち付けられた箇所以外にも、痛々しい程の鞭の痕がーーミミズ腫れがあった。


 彼だけではない。他にも働かされている人の至る所にも打ち付けられた傷がある。


 人間達は、魔人の暴力と恐怖によって完全に支配されていた。


「ーーなにって、人間の奴隷だが?」


 ”何を当たり前な”とでも言いたげな表情で、雫の問いかけにリドはすかさず答える。


「お前も魔人の適性が無ければ奴隷ああなる。いや…劣等種にしてはかなりの上玉だからな…最悪、下級魔人達の発散道具になるやもしれない。せいぜい適性がある事を神に祈るんだな」


 ムアの告げた言葉を前に、雫は恐怖に支配されるだった。

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