146話 同棲の承諾
読者様へ:遅れてすみません
★☆★☆
「広いねマスター」
購入した物件を見て、最初に声を上げたのはエレナだった。
家中を探索し、何処に何があるのかを把握している。
実家より広い空間に少し興奮している様だ。
「やっぱり広いわね......」
「ここが新しい家.....」
「ニューハウスですね。兄さん!」
狂歌と美香はその広さに圧倒し、サラはエレナと同様に興奮をしていた。
「そうだな。ここが新しい俺達の家だ」
うんうん。喜んでくれて何よりだ。
結構な値段がしたからな。
俺は腕を組み、満足げに頷いた。
それにしても引っ越しの説得。色んな意味で大変だったな。
俺は引っ越しをするまでの過程を思い出す。
★☆★☆
まずは父さんの説得だ。
『父さん。引っ越しをしても良いか?』
『え?急な話だね。それに学生だけで暮らすのかい?引っ越し資金はどうするんだ』
最初は反対されていたが、これが案外早く終わった。
『いいじゃない。もうすぐ大人になるんだから』
『いや、しかしだな....』
グルである母さんにも手伝って貰ったからだ。
『子供は巣立っていくものよ。それに....』
『それに?』
『シンジ達が引っ越せば、また二人っきりになれるのよ?あなたは、また私と一緒になるのが嫌?』
『ふ、二人っきり.....』
『それに、邪魔者が居なくなるのよ。またあなたと熱い夜を.....』
『あ、熱い夜を.....』
母の説得。もとい誘惑に、思わず反復する父さん。
辞めてはくれないだろうか。
目の前で繰り広げられる甘い雰囲気に思わず吐きそうになる。
我慢しろオレ。口から砂糖が出そうだが我慢しろ。
『うん、引っ越しをすると良い!何事も経験だからね!』
その甲斐あって。
数瞬後、父さんは爽やかな笑顔で引っ越しの承諾をしてきた。
『たまには顔を出すんだぞ!あと、狂歌ちゃんだけは怒らせるんじゃないぞ』
追加でサムズアップをしてくる。
おい、絶対母さんの誘惑に負けただろ!
俺はあの時そう思った。
★☆★☆
次に説得したのは”白河総一郎”。狂歌のお義父さんだ。
たまたま家に帰って来ていた所を捕まえ、説得したのだ。
初めての対面に緊張をした。
『狂歌を私に下さい』
思わず出た言葉が、結婚の承諾を得る感じとなる。
何ってんだオレ。内心でそう思いながら俺はハッキリ言うとー
『.....好きにしろ』
興味無さそうに”総一郎”が言い返してきた。
思っていたのとは違う反応に、俺は少し戸惑った。
『話はそれだけか?私は忙しいんだ帰らせてもらおう』
そう言うと席を立ち、家から出ようとした。
その冷たい対応に思わず唖然となる。
『しかし物好きだな。そんな狂った奴を好きになるとは....』
『あんたそれでも父親かよ!』
出る直前に言った発言に、俺は思わず怒鳴ってしまった。
思わず呆気に取られていたが、その発言だけは許せなかった。
狂歌がそうなった原因は父親である”総一郎”のせいであるからだ。
殺気が出そうになるが我慢をする。
『私が愛したのは”
零歌とはきっと狂歌の母親の事だろう。
それに反論するかのように、狂歌を指さしながら総一郎はそう言ってきた。
『”アイツ”さえ生まれてこなければ良かったんだ!そうすれば”
『.....ダマレ.....』
相手の言葉を遮ると、自分でも驚くほど低い声が出た。
そこから先の発言は絶対に言わせてはならなかったから。
その”父親失格の発言”に思わず殺気が出てしまう。
『ヒッ!』
案の定、激昂していた総一郎は俺の殺気に当てられ腰を抜かした。
よほどの恐怖を味わったのだろう。
着ていた下半身のスーツにシミが出来た。
それに伴い、部屋にアンモニア臭の匂いが充満する。
思わず殺しそうになるが、狂歌の手前だ。そう思うと理性が戻ったが怒りが収まらない。
『命拾いしたな。狂歌の父親だから敬ったが必要無かったみたいだな。もう二度と狂歌に関わるなよ。次なんか言って見ろ、命は無いからな』
だから俺は総一郎に警告する事にした。
『分かったか?』
『ヒッ!』
更に顔を近づけて言うと、首をコクコクとする総一郎。
『いこう。狂歌』
『....ええ』
そのやり取りを最後に、俺達は荷物をまとめ家から出た。
傷ついた様子すら見せない、慣れた狂歌の反応に思わず心が痛むのだった。
★☆★☆
最後は美香たちの両親の説得だった。
エレナとサラは俺の家に住んでいるからな。
唯一まともな美香の両親の対面に緊張した。
『美香を私に下さい』
隣に座る美香を横目に、俺は美香の両親を見つめてハッキリと言った。
『・・・・』
『・・・・』
すると、少しの静寂が空間を支配する。
俺はどんな返事が来るのか。覚悟を決めながら待っていた。
『『こちらこそ、娘をよろしくお願いします』』
すると、すぐさま返事をもらう。
『え?』
あまりの呆気なさに思わず声を出してしまった。
『反対しないんですか、一夫多妻ですよ?』
事情を知らないと思った俺は、思わず聞き返してしまう。
普通なら反対をするからだ。
娘をやるか!と言われる覚悟をしていたんだがな・・・・
『良いんだ。娘が幸せならそれで』
『美香ずっとシンジ君の事が好きだったもの。反対できないわ』
『それに超・少子高齢化社会だからね』
『シンジ君なら美香を任せられるわ』
呆気に取られていた俺を他所に、次々と理由を言ってくる美香の両親。
『それに、承諾しないと孫の顔は見せないぞって美香に脅されてしまったからな!』
『それだけは勘弁してほしいものね!』
笑いながらそう言ってきた。
予め美香がその話をしていたからすんなりと行ったのか。
美香を横目に見れば、ニコニコと笑顔を浮かべている。
俺は美香の同棲承諾を得る事に成功した。
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