110話 本命
ブーブ ブーブ
気持ちよく寝ていると、スマホのアラーム音が鳴った。
目を擦りながら見れば既に7:00となっている。
「もう朝か。」
久々の睡眠を名残惜しく思いながら、背伸びをしてベッドから降りた。
無尽蔵の魔力を持っているから、時を止めて二度寝する事は可能だ。
だが怠けるのは良くない。首を振って邪念を斬り捨てた。
軽くストレッチをして身体ほぐした後、鏡の前で寝癖が無いかチェックをした。
「良し。無いな。」
色んな角度から見ても特に変わっている所は無かった。
髪を整え終えると俺は制服に手を伸ばした。
何故制服を着るかって?それはもちろん今日から学校に行くためだ。
「シンジ。ご飯出来たわよ。」
1階から母さんの声が聞こえる。
制服に着替えると俺は1階に降りる事にしたのだった。
★☆★☆
「「いただきます。」」
目の前に出された料理を食べる。今日は父さんも一緒に食べるようだ。
黒いスーツを着た格好で目の前に座っている。最近仕事が落ち着いたようだ。
テレビを見つつ、静かに朝食を食べているとー
「シンジ。お前本命は誰なんだ?」
急に父さんが話しかけてきた。しかも何故か顔がニヤニヤしている。
「急になんだよ。」
問いかけの意味が分からず、父さんに聞き返すとー
「ファザーが言ってたぞ。シンジに説得されて、サラを日本に住ませる事になったって。」
少し嬉しそうな顔で言ってきた。
ファザーつまり、ウイリアム爺さんから聞いたのだろう。
「しかもこの家で、だってさ!」
「だから何だよ。」
さっきからテンションの高い父さんについていけず、少し困惑しているとー
「いや、よく説得出来たなと思ってね。あの爺さんがサラを手放すなんて。私も少し驚いているんだ。」
感心したような顔で見つめてきた。
「それで何が言いたいかと言うと、本命はサラなのかい?幼馴染2人のどっちかが本命なら、サラを日本に呼ぶ必要は無い。でも日本に暮らすと提案したのはシンジお前だ。」
「ああ。提案したな」
返答するとー
「サラはいい子だ。私も爺さんも良く思っている。だけど、分家や親戚の奴らは違う。金にガメツイ奴らだからな。爺さんが死んだ後きっとサラを政略結婚の道具にする気だろう。あの子が本家の養子になったからな。私一人だけでは止められない。だから、もし結婚する気が無いならその気にさせるな。中途半端な優しさはあの子を傷つける事になる。」
今まで見せたことも無いような顔で、父さんはそう言ってきた。
遊びだけの関係を望んでいるなら、辞めろと言っているのだろう。
「もう一度聞く。本命は誰なんだい?」
もう一度問いかけてくる父。ここは正直に言うべきだろう。
「4人だ。」
だから俺は正直に答えた。
「.........え?」
目をパチパチさせ、呆けた顔をする父。予想外の答えに驚いている様子だった。
何を言ってるんだこいつ?と顔が物語っている。
「だから4人だ。」
「......え?なんて?」
もう一度言うが未だに何を言ってるのか分かっていない。そんな様子だった。
「本命は4人なの。」
「まぁ!娘が沢山出来ちゃうわね!」
そう言い切ると、後ろで反応する母。嬉しそうだった。
「いや、さっきの問いかけは『俺がサラを幸せにする』って言う雰囲気だったじゃないのかい普通。せっかく誘導したのに。それに何だい4人って。」
本命の数に父は驚いていた。
「ち、ちなみに誰か聞いても?」
少し気になるのか、父は教えてほしそうな顔をしていた。
「狂歌、美香、サラ、それにエレナだ。」
「え?エレナって誰?」
4人の名前を言い切ると、最後の人物に誰だと言う父。
「あら、そう言えばエレナちゃん見かけないわね。」
思い出したのか、居場所を聞いてくる母。
「あと、数日で戻ってくるぞ。」
「あらそうなの。」
適当に答えたが、あながち間違ってはいないだろう。魔界の地は広大だが、本気を出せば直ぐに見つけられる。そう思っているとー
「時雨知ってるのか?」
「ええ。だってこの間、挨拶に来たんだもの。(黒寄りの)赤髪で良い子だったわ。」
母がそう答えると落ち込む父。自分だけが知らない事にショックを受けている様だった。
現に、四つん這いになってシクシク泣いている。
朝食を食べ終えたので片付けようとしたらー
「シンジ。最後に忠告だ。」
父に足を掴まれた。
「な、なんだよ。」
父に、下から見上げられる格好になる。
「日本が今、超少子高齢化社会のせいで一夫多妻制を導入しているのは分かっている。だが、複数の女性と付き合うのは骨が折れるぞ。」
「し、知ってるよ。」
「8股した事のある私が断言する!女性管理出来てないと刺されるぞ!」
そういってワイシャツのボタンを外し、腹部を見せる父。
正面から刃物で刺された痕が6カ所。背後は4カ所あった。合計10カ所。
あれ。2カ所多くないか?そう顔に出たのに気が付いたのか、
「いや、これはヤンデレに全て刺された物だ。」
刺された時の光景を思い出したのか、顔を青ざめさせる父。
つまり1人に10回も刺されたのだ。8人の中にヤンデレが1人いたのだろう。
だから父は狂歌が苦手だったのか。
「同じ道を歩むなよ。私は死にかけて後悔した。ちょっとだけ。」
「き、気を付ける。」
死にかけて反省したのがちょっとだけなのか。
俺は父の忠告を素直に受け止め、学校に行くことにしたのだった。
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