53話 大群

 一方魔王城の外では


 魔人化し、全身に闇魔法を纏った美香は


「ハァハァ。ちょっと多すぎじゃない?これ。」


 息切れをしながら戦闘中に呟いた。


 周りには、様々な魔物の死骸が積んである。


 雑魚をいくら倒しても、次々と押し寄せてくるのだ。怯えている様子はない。知能が低いせいなのだろう。周りを包囲され、まだ数千体の魔物が控えている。


「鬱陶しいわね。『血の弾丸』《ブラッド ショット》」


 槍で数匹魔物を貫きながら、血の弾丸で周りを一掃する狂歌。


「ああもう、しつこい!」


 あまりの数に段々イライラしていたのか、片腕に膨大な炎魔法を纏うサラ。


 獄炎の炎が集まり、龍と化す。


「『炎龍咆哮ドラゴン ロア』!」


 必殺名を叫びながら前方の大群に向けて全力で殴るサラ。


 炎龍は「GAAAAAA」と、咆哮をあげながら前方の大群を巻き込み大爆発を起こす。


 今ので数百体は焼け死んだ。


「す、凄いわね」


「う、うん」


 その威力に驚く、狂歌と美香であったが


「負けてられないわね。」


「そうだね。」


 2人は目を合わせると特大の必殺技を放った。


「『血槍之雨ブラッド レイン』」


 戦場に流れでていた全ての血を操り、上空に浮かせる狂歌。


 全ての血を槍の形にして、一気に上空から振り下ろした。


 次々と串刺しにされ、絶命していく魔物達。


「『影之悪食ダーク イーター』」


 膨大な魔力で闇魔法を発動させる美香。


 魔物達の集団に突如黒い大きな影が忍び寄る。


「Ga?」「Ka?」 「Ra?」


 不思議そうな顔をする魔物の集団に影は突如襲いかかった。


 影が形を作り、下から鋭利な牙で魔物達を真っ二つに噛みちぎったのだ。


 次々と襲われ数を減らしていく魔物達。



 その時、魔王城で膨大な魔力が2つ発生した。


 戦闘音や爆発音がこちらまで響いてくる。


「な、なにこの魔力は...」


「お願い。勝ってシンジ君。」


「兄さん頑張って...」


 3人は順調に数を減らしていくのだった。




 ★☆★☆


 数十分後


 戦場は死屍累々と化し、周囲には血の鉄臭い匂いが充満していた。


 その場で動けている者は3名だけだった。


「や、やっと終わったわね...」


「疲れた~」


「やっと終わりましたね。」


 辟易とした様子の狂歌と美香に、スッキリ顔のサラ。


 3人でようやく全ての魔物を殲滅することに成功した。


 いくら雑魚とはいえ、数千体の相手をするのだ。


 疲れるのも無理はないだろう。


 すると、魔王城で突如大爆発が起こり城の壁が崩れた。


 中の様子が見える。そこには獅子王に首を絞め上げられ、苦しんでいるシンジがいたのだった。


「助けに行くわよ。」


「うん。」


「急ぎましょう。」


 3人はシンジの言いつけを破り、魔王城に突入するのであった。




 ★☆★☆


 3人が急いで魔王城に向かう姿を、木の陰でじーーっと見守る存在がいた。


 赤スライムだ。


 突如分裂を繰り返すと、数十体となる。


 周りの死体に覆いかぶさると、肉体を消化し、吸収していくのだった。




 ★☆★☆


 3人は城の中を駆けていた。


「ややこしいわね。ここ。」


「急がないと...」


「もう、ぶっ壊しましょう。」


 急ぐ3人は、焦りからくるイライラに耐えながらも確実に前へと進んでいた。


 その時、前方から蛇の魔物が現れる。


「ねー君。見逃してあげるからさ。」


「魔王のいる場所知らない?」


「3秒以内に答えないと殺すわよ。」


 サラ、美香、狂歌が笑顔で話しかけながら殺気の籠った目で蛇を見つめる。


「は、ハイ。こっちです。壁ヲ突き破ればすぐにツキます。」


 殺されたくない一心ですぐさま答えた蛇の魔物。


「本当でしょうね?嘘だったら楽には殺さないわよ。」


「ほ、本当です。」


 変色した腕を抱えながら、涙目で必死に答える蛇を、3人は信じて急いで現場に向かうのだった。




 ★☆★☆


「ほう?魔物のくせに、人間みたいな見た目だったんだなお前。」


 現在、シンジは魔王に首を絞め上げられていた。


【憤怒】と【闘気・極】を全力解放したが勝てなかったのだ。


 ボロボロで魔力はもう殆どない。闘気も殆ど使い切った状態。打つ手が無かった。


「ごふっ。ダ...ルファー...に...半端...者...っていわ...れたぜ...」


「ハハハ。あいつらしいな。」


 獅子王が笑っていると、突如玉座の間が吹き飛ばされた。


「あ?なんだ。」


 煙が晴れるとそこには、変身した3人の姿がいた。


「あなた!」


「シンジ君!」


「兄さん!」


 3人は俺のボロボロの姿を見ると獅子王に殺気を向けた。


「絶対に許さない!」


「殺す!」


「後悔させてあげる!」


 3人は獅子王に戦いを挑んでしまった。


 その場に投げ捨てられるシンジ。


「ほう?なかなかだな。お前ら俺様の配下にならないか?」


「「「死ね!」」」


 拒絶の意思を見せる3人。


「俺様の誘いを断るか。ならば殺すしかないな。」


 3人の同時攻撃に余裕の表情で躱す獅子王。


「バカ...早く...に...げろ。お前ら...じゃむ...りだ。」


 シンジの声は届かず、戦闘音に虚しくかき消されるのだった。

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