38話 苦戦

 ダルファーに首を絞められたあと、上半身をアッサリ腕で貫かれた。


「がほっ。」


 簡単に鎧が砕け、手で無理やり肉を貫かれる。激痛が全身に走った。


「あなた!」


「シンジ君!」


「兄さん!」


 3人の焦った声が聞こえる。急いでこちらに駆け寄ろうとしていた。


(呼吸が出来ない。)


 肋骨が全て折れ、両方の肺が潰れた。


 口から血液が逆流してくる。大量に血を吐いた。


「中々に面白かったぞ。少しはやるようだな。半端物。」


 隻眼竜は腕を抜き、そのまま地面にたたきつけられた。


 両方の翼がもぎ取られる。頭部の鎧が砕け、脳震盪を起こす。


「ガハっ。」


 こちらを見下ろし、つまらなそうな顔で


「この程度か。つまらぬな。」


 とだけ言い残し、3人の元へ向かってしまった。


 俺が戦闘不能になり、興味を失ったようだ。


 上半身にポッカリと空いた大きな貫通した穴。そこから大量の血が流れている。


 肺が潰れ、呼吸がままならない。


(魔力がもうほとんど無い。マズい。意識が朦朧としてきた。呼吸が出来ない。)


 この時シンジはあまりの激痛、大量の失血、魔力の大量消費、酸欠によって意識を失いかけていたのだった。




 ☆★☆★


「絶対に許さないわ。」


「うちもだよ。」


「ぶっ殺します。」


 狂歌、美香、サラ達が憤怒の形相で隻眼竜を睨みつけていた。


「弱いな小娘たちよ。この程度で怒り、我を忘れるとはな。」


 隻眼竜はため息を漏らしながらやれやれと仕草をする。


 その仕草が気に入らなかったのだろう。3人が一斉に必殺技を繰り出した。


「血槍-乱れ突き。」


「闇爪-乱れ飛ばし。」


「ファイアーガトリング。」


 狂歌は予測不可能なほどの速さで槍を刺していく。


 美香は爪に闇を纏わせ、斬撃にして沢山飛ばす。


 サラは腕に纏った炎を殴った衝撃で沢山飛ばす。


 隻眼竜は避ける素振りすら見せず、腕を組んで立っていた。


 全員の必殺技が当たり、爆発が起こる。


「こ、これなら。どうかしら。」


 我を忘れ、膨大な魔力を使った。


 全員息絶え絶えになりながらも、何とかその場で立っていた。


 狂歌が思わずつぶやくが


「この程度か?小娘たちよ。」


 煙が晴れるとそこには、無傷の隻眼竜がたっていた。


 傷がついた様子が無い。ピンピンしていた。


「では、今度はこちらの番だな。」


 そう言うと隻眼竜は目にも止まらぬ速さで3人に襲いかかるのだった。




 ★☆★☆


 地面に倒れていたシンジは空に手を伸ばしていた。


(再生できるほど魔力は残っていない。もう、これに賭けるしかない!)


 残った僅かな魔力で闇魔法の異空間から、1本の試験管を取り出す。


 最後の1本。魔人薬だ。


 胸の痛みに耐えながらも、それを何とか一気に飲み干す。


 しかし飲み込んだ液体が、上半身の空いた穴からが漏れるだけだ。


「がはっ。がはっ。」


 体内に残った僅かな酸素が、むせた勢いで失われていく。


「カヒュー。カヒュー。」


 呼吸が出来ず、口から息が漏れ出る。


 何も変化が訪れない。


(やはりダメか。賭けに失敗した。すまん狂歌。すまんみんな。)


 このまま自分は死んでしまうと察したシンジ。


 最後に戦っている皆を見ていた。


 それぞれが、必殺技を一斉に繰り出し隻眼竜に攻撃をしていた。


 しかし、煙が晴れると無傷の様子の隻眼竜。


 そのまま狂歌達は成す術も無く、一方的に攻撃をされていた。


(悪いみんな。俺が巻き込まなければ全員死ぬことは無かった。)


 心の中で後悔をしていると、突如変化が起きた。



 ドクン ドクン ドクン ドクン



 心臓の音が突如大きく聞こえた。


(心臓が痛い。張り裂けそうだ。)


 突如心臓に痛みを感じ、胸を押さえた。



 ドクン ドクン ドクン ドクン



 急に口から吐血した。


 目から血の涙が流れた。鼻血が流れた。


「がああああああああああああ。」


 突如全身に痛みを感じた。血が流れる。


 あまりの痛みに、体内に残った酸素全てを吐き出してしまった。


 ドクン ドクン ドクン ドクン


 心臓の音は一切鳴りやまない。


 それどころか次第に大きくなっているような気がする。


 俺の異変に気付いたのか隻眼竜がこちらを見てきた。


「む?半端物うるさいぞ。黙って死んでろ。」


 目障りだ。とでも言いたげな表情でシンジを見つめる隻眼竜。


「あなた!」


「シンジ君!」


「兄さん!」


 ボロボロになった仲間たちは一斉にシンジを見つめる。


「む?よそ見とは余裕だな。もう少し痛めつけるか。」


 そう言い残し、隻眼竜は狂歌達に攻撃を再開した。


 次第に増していく痛みと酸欠に、シンジはとうとう意識を手放したのだった。




 ★☆★☆


 一方上空では


「皆さんご覧ください!黒騎士達が攻撃を仕掛けました。最初から全力で行くようです。おっと、全然効きません。黒騎士が吹き飛ばされました。」


 3か月前にスクランブル交差点を上空から撮影していた一団がそこにはいた。


 リポーターが戦況を実況していた。


「苦戦している模様です。衝突しました。やったー。黒騎士が竜の腕を切り落としました!」


 タケミカヅチで隻眼竜の腕を切り落としたシンジに喜ぶリポーター。


 しかし


「な、なんということでしょう。黒騎士が竜に腕で上半身を貫かれてしまいました!マズいです。それにフォローをしに来た「赤槍」「猫又」「火狐」が攻撃しますが、一切通用しません!黒騎士は立ち上がれません。傷が深いようです。苦しそうに表情を歪めています。」


 地面にたたきつけられ、頭部の鎧が砕けたシンジをドアップに撮影する一同。


 シンジの貫通した上半身を撮影している。苦しそうなシンジの表情が映っていた。


 フォローしにきた3人の攻撃が一切通用せず、顔に焦りの表情を浮かべるリポーター。


 黒騎士達がやられたら、自分たちも危ないからだ。それでも、撮影しなければならない。仕事であるからだ。


 現在の状況を伝えねばならない。


「ご、ご覧ください。突如黒騎士が苦しみだしました。全身から血を流しています。何か攻撃でもされたのでしょうか?」


 突如苦しみだし、目や鼻から血を流すシンジに戸惑う一同。


 シンジはそのままバタリと動かなくなった。


「く、黒騎士が倒れてしまいました!う、動きません。死んでしまったのでしょうか。一体このままだと、日本はどうなってしまうのでしょうか。」


 成す術もなく攻撃をくらいボロボロの狂歌達を映す一同。


 焦った顔でそう告げるリポーター。


「あ、映して映して。」


 指をさし、突如何かに気付いた様子のリポーター。


「ご覧ください。た、立ち上がりました。黒騎士が立ち上がりました。」


 興奮した様子で、リポーターがそう告げたのと同時


「GRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」


 立ち上がった黒騎士の咆哮が響いたのだった。

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