3

 ──最初は怖かった。でも、あなたの瞳を見ると安心できた


 夜が明けきらない時間、白髪の少年は中庭で自身の鍛錬をしている。鍛錬をひと段落終えると、少年はベンチへと腰をかける。そのベンチへと向かう人影が一つ。


「ねぇ、昨日ね。お頭さんが剣を教えてくれたんだけど、失敗しちゃった」


 他愛のない話を一方的にするアカツキ。ヒカゲは無表情のまま白み始めた、空を見上げていた。アカツキは常に笑顔を絶やさなかった。辛い事があっても、ヒカゲの前では常に笑顔だった。


「何故、笑う?」


 アカツキの話を遮り、ヒカゲから始めて会話に入ってきたのだ。


「笑いかければ自然と笑顔が返ってくるからっ」


「え?」


 それは今は亡きアカツキの母親がよく言っていた言葉。ヒカゲの周りにはいつも笑う人々がいた。主や貴族、豪族。その者たちとちがう笑顔がある事を知ったのだ。


 ──あなたの瞳はとても穏やかで優しい


「君は今どこにいるの?」


「何を……言って」


 アカツキの言いたい事が掴めないヒカゲ。東の空か白み始め、暁の空の下に小さな影が二つ並ぶ。


「君は今、ここにはいない」


「だから……どういう」


「君の心は鎖に繋がれている」


「……」


「心までもが閉ざされる、この理不尽な世界。ねぇ、君は今、楽しい?」


「……楽しい?」


 そんな事は考えなくてもとうに答えは出ていた。


「楽しくなんか……ないっ」


「目を覚まして、ヒカゲ! 私は君を助けてあげられる程、強くはないけど」


 アカツキはヒカゲの心へと優しく語りかける。


「君の心を照らせる光になりたいなっ」


 暁の光が薄っすらと二人を照らす。そして、この暁は全ての幸福を彼にもたらすであろう。

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