題名のない御伽噺

拝啓 夏の僕へ

第1話



彼女が死んだ



そう聞いたのは昨日のホームルームの最中だった。

いきなりのニュースに、騒ぎ出す生徒達。中には泣き出す者までいた。

その中で僕だけがただ1人、教室の端っこに座りただ窓の外を眺めていた。

昨日まで友達と笑いあってた子が?純粋に彼女が死んだという事実が信じられなかった。


いや、信じたくなかった。





やっと寝棺に仰向けに横たわっている彼女を見て、彼女はもうここには居ないことを知った。

泣き出す生徒達を横目に彼女に手を合わせ両親にお悔やみを言ってから式場を出た。



ホームで帰りの電車を待つ



が、そのまま帰る気にもなれず、帰りの方面とは反対側の電車に飛び乗った



ゆっくりと動き出す車体


静かな車内


電車の揺れが心地よくて目を閉じた



向かう先は_____


回想


いつだったか、君と出かけた夏の日、雨上がりの少し湿った夜、蝉の声と生暖かい風が心地よかった。帰ろうとしていた僕を引き留め君は砂浜に腰を下ろした。

腰を降ろしたとて話すことは何も無かったが沈黙が心地良かったんだ。

それから何分かたっただろうか、




「ねぇ、目を閉じたら何が見える?」

そう君は聞いたんだっけ。僕はなんて答えたんだろう。もう覚えていない


~まもなく終点、終点です~


視界が明るくなる

どうやら眠っていたみたいだ






電車を降り改札口を出る


湿気を孕んだ生暖かい風が全身を包み込む




駅の終着点、僕の思い出がある場所


そのまま海岸に向かって歩き出す



何もかも、彼女と来た時と変わってなかった


少し寂れた商店街も、夜になるとやけに明るく見える自販機も、きっと、僕でさえも。





少し歩くと、前方に海岸が見えてきた

君と歩いた砂浜も、今は僕だけが歩いている


その事実がまた、彼女がもう居ないことを

僕に無理やり分からせようとしているみたいだった。

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