2分の1の夏休み
かーぼん
前編
夏休み 1日目
裏山の公園に集まり、みんなでサッカーをした。途中で野良猫が現れたので、なんとか近づこうとするも逃げられてしまった。
夏休み 2日目
みんなでプールに行く予定だったが、風邪をひいてしまった。夏休み早々にツイていない。とても頭がボーッとして、その日は1日中寝ていた。
夏休み 3日目
すっかり風邪も治ったというのに、朝早くお母さんに叩き起こされ、お婆ちゃんの家に連れて行かされた。熱は下がっていたものの、病み上がりなんだからもう少し優しく起こしてくれてもいいのに。
夏休み 4日目
何かがおかしかった。みんなとの話がどうも噛み合わない。約束していたカブトムシを探す予定を、みんなもうしたじゃないかと言う。みんなが口裏あわせて、僕をからかっているのかとも思った。だが、流石にしつこくて、少し苛ついてしまった。家に帰って、僕はふてくされながらそそくさと寝てしまった。
夏休み 5日目
違和感が確信に変わった。朝一番に新聞の番組欄を見ると、楽しみにしていたはずの「夏休み特番アニメスペシャル」が、もうすでに終わっていた。正確には"見る予定だった日曜日のテレビ番組が、4日前の水曜日にすでに放送し終わっていた"のだ。何日か前の新聞を今日のものと勘違いした事は何度かある。だが、今手元にあるのは、4日後の未来の新聞。そこでようやく、本当にようやく僕は、何かがおかしい事に気づき、カレンダーを確認した。
-----・------・------
夏休みに曜日感覚が無くなるあの現象は、おそらくみんな経験したことがあると思う。多分。ただ、今回ばかりはそんな類のものではなかった。『7月23日の火曜日』に終業式があり、5日目の朝を迎えたのだから、今日は『7月28日の日曜日』の、はず……。なのに、カレンダーを見る限り、今日は『8月1日』だった。
「……は……8月…………?」
頭が真っ白になった。少なくとも、何か異様なことが起こっていることだけは、容易に予想がついた。
「どしたのあんた?新聞のテレビ欄見てると思ったら、今度はカレンダーなんか見て固まって」
「お母さん!今日って何曜日!?」
「はい?今日は水曜日でしょうよ」
夏休みボケもいい加減にしなさいよと、軽く僕を叱って、母は洗濯物を干すため2階へと上がっていった。おそらく今の僕は、鳩が豆鉄砲を喰らったかのような表情をしているだろう。8月……8月………。もう意味が分からなかった。ぐるぐると行き着く場所のない、不安のような焦りのような感情を抱いて自分の部屋に戻った。何か現状を把握できるものはないか探そうとしたところ、意外にもそれはすぐに見つかった。記憶にないノートの切れ端が、机の上に置いてあったのだ。朝起きた時は気づかなかったが、果たしていつから置いてあったのだろう。恐る恐る文字に目を向けると、そこにはこう書いてあった。
『8月1日のぼくへ
ぼくは7月31日のぼくです。昨日のぼくが、まるでもう1人ぼくがいるみたいで、こうしてメッセージをのこしています。もしも、このメッセージを読んでるぼくにこのメッセージの心当たりがなければ、返事をください。』
全身がブワッとするのを感じた。全く身に覚えは無かったが、明らかに僕の字だった。これはおそらくあれだ、多重人格とかいうやつだ。今まで1度も多重人格について考えたこともなければ、ましてや自分が多重人格者になってしまうなんて、夢にも思っていなかった。
「ど…….、どうしよう………」
部屋をよく見ると、確かに昨日と物の配置が少し変わっていた。ふと、ランドセルの方に目をやった。ランドセルからは日記帳が取り出された形跡があり、確認すると、今日までの日記が既に書き込まれていた。そこには、自分の体験した5日間とは別に、しっかりと空白の4日間の日記が書き込まれていたのだ。
ここで僕はなんとなく、現状を理解してきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます