第9話 けわしい探索
不思議な石の力で、元の大きさにもどれる。
やっぱり、ゲンたちは魔法をかけられてるんだ。
ねぐらの廃墟は、普通の人間サイズの家だった。あの家で昔、お父さんとお母さんといっしょに、ゲンが住んでいたんだろうか。
「あの流れ星を探せばいいんだね。あたし手伝うよ。何でもいって」
「流れ星は、山の中にある八幡様の池へ落ちる。でも、たまに
サブ兄ちゃんが説明してくれた。
「池にたまった石はどうなるの?」
「八月の満月の夜、いっせいに池の中でひかりだして、その時池に入れば、元の大きさにもどれる。でもここ数年石が少なくて、光が弱い。だからあまり大きくなれないんだ」
「大きくなっても、すぐに小さくなるってこと?」
「
ふっとさみしそうに、サブ兄ちゃんが笑った。
「アスに手伝ってもらったら、石を探すのなんて楽勝さ! 今年は絶対元の大きさにもどれるって」
「三人で、明日から探そう。あたしがんばるよ」
ひょっとして、もとの大きさにふたりがもどれば、いっしょに野球やれるかも。キャッチボールぐらいはできるよね。
やった。ここで、野球できる。楽しみだな。よし、いっぱいみつけるぞ。
*
「えー本当にこんなところにあるのー」
コンクリートの土管が、垂直につきささったみたいな穴をのぞき込んであたしはいった。深さは、あたしの身長よりありそう。その底には草がはえていた。
「たしかに、このかれ井戸にあるんだ。この間中に入ってみつけた」
ゲンスズメがコンクリートのふちにとまっていった。
「これって、井戸なの?」
井戸は水くみするところ。だけど、底に水はない。そういうと、サブスズメが説明してくれた。
「水がもうわき出ないから、かれ井戸っていうんだ。
本当かな? ちょっと大変そうなミッションにおじけづき、さっき別の場所でゲットした星のかけらをポケットからとり出した。
星のかけらは、うずらの卵ぐらいの大きさで、表面がつるつるしている。白くて普通の石にしかみえない。これにそんなゲンたちを元にもどす力があるのかな。
この一つ目の石は、
昼間スズメの姿で飛び回り、石を探してる二羽。
人間の姿で取りにいくのだけど、小人のままではどうしてもとれない場所がある。高いところとか、深いところとか。うずらの卵のサイズでも、池に運ぶのはふたりにとって一苦労。
私なら、それが簡単にできる。
ふたりには元の大きさにもどってもらいたいし、喜んでもらいたい。何より、たよりにされるのはすごくうれしい。
あたしは、コンクリートのふちに手をおき、ひらりと穴の中へ飛びおりた。
着地した瞬間、ジュクっと湿った音がくつの底でした。心臓がキュッとなったとたん、ズブズブとひざのあたりまで体がしずんでいく。
「やだー!! 気持ち悪い、なにこれ! 助けてー」
そうさけんだら二羽は暗い井戸の中、あたしのところへ飛んできてくれた。
「ちくしょー。まだ、完全にかれてなかったのか、この井戸」
「アス、落ちついて。壁に手をついて足をゆっくり引きぬいて」
「まって、しずむのはとまった。それより、石はどこ。動いたら石がしずんじゃうかも」
とりあえず壁に手をつき、あたしはあたりを探す。コンクリートの冷たさがつたわってくる。
井戸の底は真ん中だけ水がしみ出してるみたい。はしっこは土もかわいて固そうだった。そこに星のかけらは落ちていた。
よかった、あった。石をすばやく拾ってポケットへ入れる。そして、そうっと足を泥の中から引きぬこうとした。それなのに、足に思いっきり力を入れても全然動かない。
「足がぬけないよ。なんで。びくともしない!」
あたしの悲鳴に、肩へ乗ったゲンが声をかける。
「真上に引きぬくんじゃなくて、足を前後に動かせ。そうして
なるほど。ゲンの言葉どおり、ひざをおって前に後ろに体重をかける。その動作をくりかえしたら、だんだん、足のまわりに隙間ができてきた。
「よし、いいぞアス。一気に足をひきぬけ」
ゲンのはげましをうけ、体をくの字にまげる。冷たい壁へのばした手に力を入れ、精いっぱいひざをまげて胸に引き寄せる。
ズボッと音がして、右足が土の圧迫から解放された。
「やった、ぬけた! なんか気持ちいい」
カキーンといい音させて、ホームランを打ったみたいな気持ちだ。でも、まだ左足が残っている。
泥だらけの右足で、固まった土をふむ。今度は左足に
後はこの井戸から脱出すればいいだけ。そう思って上をみあげたら、空が丸く切り取られている。
あれっ? 意外に高いな。
あたしは泥のついた重いくつをぬぎ、井戸の外へ放り投げる。そして、土をけってジャンプした。
ジャンプしたけど、手はコンクリートのふちをつかむことができなかった。
どうしよう、ここから出られないよ!
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