8
地面から足が浮き、体が大樹の穴へと向かう。フィアナはキリユウに抱きつき、二人で落ちて行く。大きな音を立て、水しぶきが上がる。大樹の中へ落ちたはずが水の中に入ったのだ。予想外のことに頭が追いつかないが、息ができないことに、血の巡りが早くなった。
瞳を開くとキリユウたちは無数の光る粒子の流れにのみ込まれていく。光の粒子は上ではなく下へと続いている。キリユウはその流れに抗う事なく身を任せる。すぐそこに、手を伸ばせば届く水面。
そこは水の底ではなくなく酸素で満ちた空間であった。
その空間は広大で先ほどより少し暗がであり、泉の時のように緩やかな沈没ではなく通常の落下速度へと変わる。ようやく終着点が見えた。その終着点とは、
「花ぁー!?」
「うみゃー!?」
無数の大きな花がクッションとなり、何度も花に弾かれながら最後の花に、
「つぼみぃー!?」
地面が近づき、フィアナの頭を自分の胸に押し付けた。細長いつぼみを滑り降り、バランスを崩し仰向けに倒れ込むキリユウ。
「なっ何とか助かったぁ〜」
花達に助けられ何とか着地に成功したことを安堵する。先ほどの無数の粒子は消えており、通常の物理世界へと戻っていた。
「フィアナ大丈夫か?」
「うみゃ〜目が回ったぁ」
「キリユウとフィアナも無事みたいだな!」
「無事って、キリユウ様たちはエイヒのせいで巻き添えになってしもうたんですぅ」
頬を膨らませるハクアにエイヒは素直に謝る。ハクアには頭が上がらないようだ。
辺りを見渡すと見たことのないものばかりである。大きな花、光る泉、天井は水の膜が張っており、大樹の中とは思えないほど、広大な空間である。
「なんなんだ、ここ」
「
「アビス……にゃん?」
キリユウの問いに答える声。聞き覚えのない声に全員が振り返る。そこには薄桃色の物体がいたのだ。尾が長く、耳はやや短く、丸みを帯びている。
「うみゅ!? うさぎぃ〜!」
「フィア! たべちゃだめー!」
「うさぎか! 柔らかくてうまいんだよな、煮て食うか、焼いて食うか」
うさぎのようなものに捕食者の目で襲いかかるフィアナをなんとか止めるキリユウだが、エイヒが料理方法を口に出していると、
「僕を食べよぉって思ってるのかにゃ? やめといた方がいいよ、だって僕……うさぎだしっ」
「しゃ、喋った!?」
「喋るうさぎ大っ歓迎〜!うさぎぃー」
うさぎが喋ったことに、驚くが、フィアナは食べる事しか頭になく、気にせず襲いかかる。しかし、フィアナの腕を抜け、走り去るうさぎ。その先には、泉があり、白やピンクといった綺麗に咲く
その先に、薄汚れ布先が所々切れている黒いマントを羽織った白髪の少年がいるのが分かる。
顔に水を浴びせ、頬から滴る水。純白の肌に瞳は
「誰だろ? キリュー行ってみよ!」
その瞬間、少年の近くで黄色い翼を羽ばたかせ、少年の頬に甘える様に、その身を擦りつけている黄龍がいた。少年は黄龍の頭を撫で、微笑んだ。
「ティナぁっ」
「ミュ〜っ」
ティナはハクアの元へと飛んで行き、ティナの救出は成功したのだ。そんなハクアとティナの再会を優しく見つめる少年。
「ねぇ君、ティナちゃん助けてくれてありがとぉ! ハクアちゃんもすっごく喜んでる〜」
「……」
「君ぃ名前は〜? どこの人ぉ?」
「俺は……
濡れた顔を拭きながら、ぎこちなく話す少年、ヒカゲ。ティナとの再会を得たハクアはエイヒと喜び合っていた。
「ヒカゲは僕と旅をしているんだにゃ。そのティナだったかにゃ、その子と一緒にここに迷い込んでしまったにゃ。あ、僕キャロル……た、たべても美味しくにゃいよ!?」
「お、おい、フィア」
まだフィアナはキャロルを狙っているのか、目を離さずじっと見つめる。ヒカゲは、キャロルを抱き上げ、フィアナから離れ、フィアナと威嚇し合う。
「うみゃー!」
「だから、諦めろって!」
「俺に近づくなっ!」
その声は恐怖と動揺の色を見せる。怯えているのかヒカゲは酷く震えていた。喋るうさぎを強く抱きしめ、
「ごめんよ、この子は少々人見知りにゃんだ」
「そんな事より俺様は、この小動物がうさぎなのか、うさぎの
エイヒはキャロルをじっと見つめる。そこら中に落ちている小枝を遠くへ投げる。
「にゃーん!」
エイヒが投げた小枝を目掛け走り、咥えて戻ってきたキャロル。その行動に確信を得たようにエイヒは手を叩く。
「犬か!」
「うさぎでも猫でもないよ……」
エイヒは再び小枝を投げ、キャロルは咥えて持って帰る。振られる丸い尻尾が可愛らしく思える。
「ここ、なんだか違う世界みたいだね。あんなに大きな花、見たことない」
「ここはラクリマにゃ!」
黙り込むヒカゲの代わりにキャロルが答える。キャロルの言葉に一同、顔が強ばり、色を変える。フィアナも一瞬にしてキャロルから目を離し、下を向く。
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