第252話

 回りのインパクトに押されながらも僕たちはメニューを注文し、待っている間に話をする。


「それで、君はなんで狙われてるの?」


「ノーネームっていう不良のチーム知ってる?」


「あぁ、まぁ少しはね……」


 ノーネーム、父さんからその存在は聞いて居た。

 隣の町の不良グループのチームで最近になって勢力を拡大しているチームらしい。

 前までは目だった悪さをしなかったのだが、最近になり薬や暴力事件などが頻繁に増え、警察でも注意をしているチームらしい。


「もしかしてさっきの不良って……」


「そうよ、ノーネームのメンバーよ。ちなみに言うと私はノーネームの関係者だったのよ」


「だった?」


「……いろいろあって今は関わりを持ってないの」


「どうやら、君はそのノーネームと随分深い仲みたいだね……」


「………昔はあんなチームじゃなかったのよ……」


 僕がそう言うと彼女は寂しそうな顔で話し始めた。


「弱い奴には暴力を振るわない、意味の無い喧嘩はしない、ただ皆で馬鹿やって楽しんでるチームだった……でも総長が変わってから全部変わっちゃったのよ」


「なるほどね……」


 最近になって悪事を働くようになったのはその新しい総長のせいか……勢力を拡大しているのもその総長のせいだとすると、ノーネームは現在その新しい総長に乗っ取られてしまったわけか。


「それで、君はノーネームのメンバーだったの?」


「私は違うわ……私の兄がノーネームの前総長だったのよ……」


「なるほど……それで」


 これは僕の推測だけど、恐らくノーネーム内にも現在派閥があるのだろう。

 前総長の派閥と現在の総長の派閥。

 そんな中で倉敷は前総長の妹、内部で抗争が起こった場合にこの子の存在が大きく戦況を分けるというわけか。

 だからノーネームの現総長の派閥メンバーがこの子を探している。

 そんな感じか?


「話しは何となく分かったよ。要するに内部抗争に君は巻き込まれ、現ノーネームの総長の派閥に狙われていると」


「話しが早くて助かるわ、まぁそんな所よ……まぁでも、それだけなら幾分かマシだったわ……」


「どういう意味?」


「現総長、どうやら私を気にいった見たいでね……俺の女にしてやるなんて言い出すのよ? 気持ち悪いでしょ?」


「なるほど……それで危険を感じて引っ越しを?」


「まぁ、そんな所よ。今はセキュリティーガチガチのマンションに住んでるから家は安心だけど」


「それで自分の身を守る術を持っていた訳か……」


「まぁ、護身術代わりにって兄から喧嘩を教えて貰ったのよ」


「でも、妹がピンチなのに君のお兄さんは何をしてるんだ? チームを離れたとはいえ、そんな悪行を繰り返しているチームを前の総長が黙っているとは思えないんだけど?」


「……兄は今病院で治療中なのよ」


「え……」


「現ノーネームの総長に……兄は負けてしまった。今は病院のベッドで眠ってるわ……正直目を覚ますのはも……わからないの……」


「………ごめん」


 考えてみればそうだよな……妹や昔の仲間がピンチで放っておくような奴が不良チームの総長なんてなれる訳がない。

 もしかしたら内部抗争は既に終結していて、前総長派閥の奴らは現総長派閥の奴らに負けてしまっているのかもしれない。

 しかし、彼女は現総長に気に入られ、着け狙われているわけか……。


「これが私の現状よ? 学校の変な噂もきっとあいつらが流したのよ。私の居場所を無くすために……」


「そうだったのか……可哀想に」


「まぁ、でも確かに男三人を病院送りにはしたけど」


「いや、事実なんだあの話しは……」


「身を守っただけよ! 股間を蹴ったら動かなくなるんだもん!」


「そりゃあ……男の急所だからね……」


 案外噂は本当だった。

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