第250話

 突然の初白の両親からの感謝に俺はどうしたら良いのか分からず困ってしまった。

 

「娘さんを巻き込んだのは俺です。昔、俺が引き起こした事件にあいつは巻き込まれたんです。だから俺は自分で自分の尻拭いをしただけですよ」


 あの事件のいきさつを考えると原因は俺だ。

 だから感謝なんて俺はされる必要は無い。

 俺があいつを助けるのは当たり前のことで、逆に巻き込んでしまった申し訳ないと思っている。


「全てを自分のせいだなんて思わないでくれ、失礼だとは思うが色々と警察の方で君の話を聞かせて貰ったよ。その年で大した男だよ君は」


「俺は全然……何も考えずに身体が動くただの子供ですよ」


「しかし、君のその行動のおかげで娘は助かったんだ」


 そう言うと初白の父親は再び俺に頭を下げた。


「何度も感謝しよう、君は娘の恩人なんだ。親として君には感謝しかない」


 なんだろうかこのむず痒い気持ちは……。

 あの事件で色々な人に感謝された。

 でも、初白の父親からの感謝が一番嬉しいと思うのはなぜだろうか?

 なぜ一番頑張ってよかったと感じてしまうのだろう。

 俺はそんな初白の親父さんを見ながら自然と言葉を発した。


「娘さんはこれからも自分が責任を持って守ります。だから安心して下さい」


「ありがとう。しかし一つ聞きたい、君にとって娘はどんな存在なんだ?」


「え……」


 初白が俺にとってどんな存在?

 流石に親の前で失礼な後輩です!

 なんて言えるわけねぇし……そもそもなんで俺は初白を責任もって守るなんて言っちまったんだ?

 いや、まぁなんかあったら守るけど、それは城崎さんとか光音とかもそういう対象だし……。

 

「俺にとってあいつは……多分大事な存在なんです」


 考えながら出た答えがそれだった。

 高弥や道場の皆、それに両親、そんな大事な人たちの中に初白も居る。

 だから俺はあいつを守りたいと思うんだろう。

 

「大事な存在……それは……好きってことか?」


「え?」


 あ、ヤバイ……なんか誤解が生じてないか?


「母さん! 蓮花に彼氏が出来たぞ!」


「そーねぇ~! 明日はお赤飯かしらぁ~」


「あ、あの……ちょっと!!」


 ヤバイ、絶対何か誤解している……ってかお父さん!

 娘に彼氏が出来るのは許せないタイプじゃなかったの!?


「いやぁ~あの子は昔から変な男に絡まれることが多くてねぇ~君のような誠実で真面目な男なら私も安心だ!」


「いや、お父さん自分は……」


「聞いたか母さん! お父さんだと! じゃ、じゃぁ……私も今度からは平斗君と呼んだ方が良いかな?」


 何でこの親父さんこんな嬉しそうなんだ……。


「お、落ち着いて下さい! 自分は娘さんとはそう言う関係ではありません。それに娘さんにだってきっと好きな人が……」


 俺がそう言うと初白両親はきょとんとして首を傾げた。


「何を言っているんだ?」


「あの子の好きな人なんて私達には……」


「お、お母さん!!」


 初白母がそう言いかけた瞬間、寝巻姿の初白がリビングに勢いよく入ってきた。

 どうやら風呂から上がったらしい。


「あら、蓮花ちゃん。今ね平斗君と話してたのよぉ~」


 初白母の俺の呼び方が何でか変わってる……完全に誤解してるな……。


「せ、先輩! ちょっとお風呂入ってきて下さい!」


「え? いや、流石に風呂まで世話になるわけには……」


「良いから行ってください! 私の入った後ですよ! なんだったらお湯飲んでも今日は許して上げますから!」


「飲むか!!」


 そう初白に言われ、俺は無理やりリビングを追い出され脱衣所に押し込まれてしまった。


「まさか風呂まで入る事になるなんて……」


 多少困惑しながらも俺は服を脱ぎ、風呂に入ろうとする。

 

「げっ……あいつ……」


 脱衣カゴに服を入れようとしたら、そこには既に服が入っていた。

 しかもピンクの薄い布地……。

 あいつ……ちゃんと持って行ってから俺を脱衣所に入れろよ……。

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