第162話

「ま、まさか全敗とは……」


「私の勝ち……」


「なんでそんな強いんだよ……」


 このお嬢様、流石一日中ゲームをしているだけあってかなり強い。

 20戦ほどして一回も勝つことが出来なかった。

 しまいには片手で操作してやがった、このお嬢様。


「くそっ……リアルでは負けないんだが」


「……ゲーム弱い」


「あ、あんまりやらないんだよ! この手のゲームは!」


 くそぉ……まさか一勝も出来ないなんて……。

 負けてこんなに悔しいなんて……というかゲーム自体なんだか久しぶりにやって気がするな。


「てか、お嬢様は毎日ゲームやって飽きないのか?」


「……毎月新作が出る。それに外でやる事無い」


「友達とかと遊んだりしないのか?」


「………友達、居ないから」


「あ……なんか悪い……」


 しまったなぁ……地雷を踏んでしまった。

 こんな綺麗な見た目してるのに友達居ないのか……なんだか以外だな。

 てか、こんなお嬢様が通ってるような学校だ。

 俺達普通の生徒が通う学校とは色々違うのかもしれない。


「そういえば、学校はどこに言ってるんだ? ここら辺でお嬢様学校とって言うと、清浄学園だけど」


「そこ」


 マジかよ……じゃぁ城崎さんの先輩なのかこのお嬢様は?

 と言うか城崎さんってすごい学校に通ってるんだなぁ……まぁ、城崎さんの家もかなりの豪邸だったけど。

 医者の娘や大企業のご令嬢の集まる学校だとは聞いていたけど、もしかしたらそんな学校の中にも身分みたいな物があって、お嬢様は他の生徒から距離をおかれているのかもしれないな。

 

「そうなのか、実は俺の後輩もその学校に通ってるんだ」


「そう……」


「あぁ、城崎瑠香って子なんだけど、知らないか?」


「興味無い……それに私は二年生」


「あぁ、そうか……」


 なんというか、こいつは会話をする気があるのだろうか?

 なんか会話のキャッチボールが出来てないような気がする。

 お嬢様はそう言いながら、今度はキーボードをカタカタと叩きながら、何か別な事を始めた。


「今度は何をしてるんだ?」


「……街を作ってる」


「そうなのか? あぁ、シュミレーションゲームってやつか……」


「うん」


 色々なゲームをしているものだ。

 格ゲーの次はシュミレーションゲームか……。

 ゲーム以外にも楽しいことはたくさんあるし、友達としか出来ない事も、高校のウチにしか出来ない体験もある。

 彼女はずっとここでゲームと過ごして行くのだろうか?


「なぁ……さっき友達が居ないって言ってたよな?」


「うん」


「じゃぁ、俺となるか? 友達?」


 そう俺が言った瞬間、彼女はキーボードを叩くのをやめた。

 そしてゆっくり俺の方に向き直って聞いてきた。


「なぜ?」


「え? あぁ、いや……別に嫌なら良いんだけど……その……年齢も一緒だし、知らない中って訳もないし……それにお嬢様にゲームで勝ちたいしな」


「………」


 じーっと彼女は俺を見た後、それまで無表情だった顔を歪め、クスリと笑った。

 俺はそんな彼女を見て、思わず恥ずかしくなってしまった。


「な、なんだよ!」


「……別に……ありがとう……嬉しい」


「なんだよ、お嬢様も笑えたんだな」


「………そりゃあ人間だし」


「そうかい、じゃぁこれからはもっと感情を表情に出せよ。その方がお嬢様は可愛いぜ」


 俺はそう言って彼女に笑い掛ける。

 すると、その瞬間彼女は頬を赤らめ俺をジト目で見てきた。


「………別に……可愛く無い」


 あぁ、照れたのか……なんだ、表情の変わらないロボットみたいなやつかと思ったけど……話してみると普通の女の子じゃないか。

 俺はこのアルバイトが少し楽しくなりはじめていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る