第149話

 道場で待つこと十数分、竹内さんは道着に着替えて俺の前に現れた。


「お待たせお待たせぇ〜」


「別に待ってませんよ、じゃあ始めましょう」


「お! 珍しく今日はやる気だな」


「まぁ……そろそろ俺も貴方に勝ちたいので」


「へへ、言うじゃねぇか……少し前までもう武道はやらないとか言ってたくせに」


「まぁ、状況が変わったんですよ……行きます」


「あぁ………来い」


 そう竹内さんが言い構えた瞬間だった。

 竹内さんの顔つきは変わり、一気に戦闘態勢に入った。

 その場に居た全員がこう思っただろう。

 逃げなきゃと……。


「ふん!」


「遅いぞ」


「なっ!? あがっ!!」


 一発目から俺は竹内さんの手刀を腰に受けてしまった。

 体がくの字のように曲がり、俺は体制を崩す。

 手刀なのにも関わらず、その一撃は重たく強い。

 素早い動きと重たい攻撃。

 この人にはスキは無いのか?


「兄貴!!」


「あ、あれが……竹内さん……」


 参考になるからと、俺は大島と悟にこの試合を見るように言った。

 始めて見る竹内さんの試合に大島と悟は驚いていた。

 それもそうだ、この人の動きは人間のそれではない、化け物のような動きで敵を追い詰める。


「はぁ……はぁ……」


「おぉ、今のは結構本気だったんだけどな……気絶しないなんて成長したな」


「一発目からそんな技出すなんて……今日はいつも以上に張り切ってますね」


「当たり前だろ? 弟分がこの短い間に成長してんだ……それを喜ばない兄貴分は居ないぜ!」


「ぬぉっ!」


「良く避けたな!」


「くっ!!」


 竹内さんはそう言いながら、今度は次々と拳を俺の目掛けてぶつけて来る。

 俺は両腕でガードしながら後ろに下がるが、もう後がない。

 

「くそ……おら!!」


「ぬぉっ! 良いカウンターだ!」


「効いてないくせに!!」


「残念ながらな!!」


「くっ!」


 カウンターで腹を蹴ったはずなのに、軽々とその攻撃をかわされ、今度は逆にカウンターを返され、竹内さんの拳が俺の胸に叩きつけられる。

「はぁ……はぁ……」


「すげーな、平斗お前は春先に比べて格段に強くなってる。何かあったか?」


「何か……まぁ……はぁ……はぁ……ちょっと、あんまりかっこ悪い背中を……見せたくないと思うようになっただけですよ……」


「そうか……平斗、俺は嬉しいぞ! お前はこれからもどんどん強くなる! そして追いつけ! 俺のところまで!!」


 俺はそういう竹内さんに近づき、攻撃をしながら竹内さんに話す。


「竹内さんの!! とこに行って! どうするんですかっ!!」


「決まってる! 俺も強くなる! そして!」


 俺の拳が竹内さんの脇腹に入る。

 始めてだった、始めて俺は竹内さんに一撃を入れる事ができた。


「くっ……」


「や、やっとか……」


「はぁ……成長したな、本当に……さっきの話の続きだ」


「………なんですか」


 竹内さんは脇腹を抑えながらそう言って立ち上がる。

 そして俺に向かって真っ直ぐな目でこう言った。


「決着をつけよう」


「………そうですね」


「だからそれまで……精進しろよ!!」


「お互い様にねぇ!!」


 そこから殴り合い……いや、俺が一方的にやられただけだが、一時間が経った。

 俺はいつもどおりヘトヘトのボロボロになり、道場で大の字で倒れていた。


「………追いつける気がしねぇ………」


 いくら強くなったと言われても、ここまで力の差を見せられるとそんな事を考えてしまう。

 レベルが違う。

 一体俺は後どれくらい強くなれば良いんだ。


「兄貴!!」


「島並さん!」


 あぁ、大島や悟にこんな姿を見せるのは始めてだな。

 なんでだろうな……こいつらに何を思われても良いと前までは思ってたのに……なんだか失望されるのが怖いな……。


「悪いな……俺も弱いくせに、偉そうなことばっかり言って」

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