第82話

 俺の言葉に初白は腹を立て、青筋を額に浮かべながら笑顔でそう言った。

 その後、初白は真面目な顔で俺に言う。


「先輩、あの約束忘れてませんよね?」


「ん? あぁ……忘れてねぇよ」


「本当ですか?」


「あぁ、ちゃんと教えてやる……」


 俺はそう言いつつも果たして本当に初白にあの話をするべきなのか戸惑っていた。

 あの日の話を他人が聞いても、その話を信じるかどうかは本人次第だ。


「それはいいんだが……お前が60点なんて本当に取れるのかよ?」


「あ、馬鹿にしてますねぇ!! 残念ながら私はやれば出来る子なんですー!」


「やらないから出来ない子だろ」


「うっさいバ~カ!」


「はいはい」


 相変わらずこのアホと一緒に居ると疲れるな……高弥はこいつに勉強を教えていて疲れないのだろうか?





 前を歩く二人を見ながら私は少し胸がモヤモヤするのを感じていた。

 島並さんの学校の後輩の女の子可愛いなぁ……。

 ただそれだけのはずなのに……なんであの二人が楽しそうに話ているのを見ると、こんなに胸がざわざわするのだろうか?


「えっと、城崎さんだっけ」


「え? あ、はい……よ、よろしくお願いします」


「うん、よろしくね。ねぇ、君ってさもしかして平斗が好きなの」


「へぇ!? な、なななななんで私が島並さんを!?」


「いや、ただの直感かな? なんか僕を見る目と平斗を見る目が全然違ったから」


「そ、そそそそんな事ないですよ……」


 そ、そうなのかな?

 でも私は意識したことないけど……。


「そっかそっか、ごめんごめんいきなり意地悪な質問だったね」


「い、いえ……」


「まぁでも、平斗を慕ってるんだろ?」


「そ、それは、はい……島並さんはその……カ、カッコイイですし……」


 は、初めてかも……男性をカッコイイなんて言ったの……。

 でも、島並さんはカッコイイし……強いし……私の理想……あ、あれ?

 私ってもしかして……。


「まったく……何が自分はモテないだよ……モテモテじゃないか」


「え?」


「あぁ、いやなんでもないよ。そういえば城崎さんは清浄学園に通ってるの?」


「は、はい」


「平斗の家の道場に通ってるんだっけ? 清浄に行くほどのお嬢様が道場に通うなんて珍しいね」


「良く言われます……でも、私は強くなりたいので」


「そっか……道場は楽しいかい?」


「はい! 島並さんの指導は分かりやすくて楽しいです!」


「ふふふ、楽しいのは道場じゃなくて、平斗と居る事だったり?」


「そ、そんなことは……」


 私は自分の顔がどんどん熱くなるのを感じた。

 この人はなんでこんなに私の心拍数を上げるのだろう。


「ごめんね、少し意地悪しすぎた」


「……い、いえ……」


「ふふふ、君は人を見る目があるよ」


「え?」


「でも、僕が思うにだけど平斗はライバルが多いよ」


「な、なんの話ですか?」


 ライバル多いんだ……。

 私はそんな事を考えながら、自分の顔を扇ぎ熱を冷ます。





「私は和風スパゲッティー」


「じゃあ僕はハンバーグステーキセット」


「わ、私はミートドリアで」


「じゃあ、俺は……海鮮丼で」


 図書館を後にした俺たちはみんなでファミレスに来ていた。

 

「先輩、ドリンクバー取りに行くなら私のもぉー」


「自分で行けアホ」


 俺の隣に座る初白はコップを差し出して俺にそう言ってきた。

 

「え~だって面倒だもん」


「お前なぁ……はぁ、たくお前は……」


 俺はそう言って、初白のコップと自分のコップを持って、立ち上がる。


「わーい、流石私の先輩です」


「黙ってろダメ後輩」


 俺はそう言いながら席を後にした。


「あ、島並さん私も行きます」


「あぁ、じゃあ一緒に行こうか」


 あとから立ち上がった城崎さんと共にドリンクバーに向かった。

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