第56話

「アンタがお山の大将か?」


「……お前……かなり鍛えてるなぁ……こいつらじゃ手が付けられないはずだ……」


 座っていた男は立ち上がり、俺の前にやってきた。

 鍛えられた足や腕、そして服の上からでも分かる肩周りの筋肉……。

 間違い無く強い……。


「まぁだが……そんなヒョロイ体じゃ俺には勝てないかもなっ!!」


 男はそう言いながら、俺の顔面めがけて拳を突きつけてきた。

 ギリギリ当たらない一で拳は止まった。

 恐らく、自分の力を見せつけようとしたのだろう。


「へへ……誤るなら今のうちだぞ? お前は結構使えそうだし、俺の小間使いにでもしてやるよ」


 ニヤニヤ笑いながらそう言う男、周りの男達もリーダーの実力を再確認したのか、表情が明るくなり始めた。

 確かに強い、なんでこんな事に鍛えた自分の力を使っているのか、俺にはまったく理解出来ないが、相当な努力が無ければここまでの力は手に入らない。

 だが……残念ながら、俺はこんな奴以上の男を知っている。

 化け物のような強さを持っているその人とこの男を比べるのは不可能だ。

 次元が違い過ぎる。

 

「……あんた……悟の先輩なんだろ? なんで先輩のアンタが後輩にこんなことしてんだ?」


「あぁ? 使える後輩は使ってこそだろ? 弟分として今まで世話してやったんだ。兄貴には逆らっちゃダメだろ?」


「……そうか」


 俺は男のその言葉を聞いた瞬間、化け物のような力を持ったあの人……竹内さんが昔言っていた言葉を思い出した。


『俺は平斗の兄貴分だ! 兄貴分が弟分を守るのに理由なんているかよ!!』


 ずっと昔の話しだが、俺はあの竹内さんの言葉を忘れた事は無い。


「……悟、仲良くなる先輩は選んだ方が良いぞ? こう言うクズが居るからな」


「……てめぇ……そろそろ痛い目に合いたいみたいだな……」


「痛いのは誰だっていやだろ? ここは穏便に行かないか?」


「うるせぇ!! 散々コケにしておいて良くそんな事が言えたな! 死ねぇぇぇ!!」


 男の拳が俺の顔面に向かってくる。

 俺はその拳を顔の目の前で受け止めた。


「なっ!?」


「……アンタは確かに強いと思うよ……でも俺の兄貴分はそれ以上の………化け物なもんでな!」


「がぁっふっ!!」


 俺はそう言いながら、男の腹に拳を叩き込む。

 男はお腹を押さえながら、その場に崩れた。

「なっ……ば、ばかな……なんだお前……はぁ……はぁ……俺が……膝を……」


「呼吸を整えた方が良いぞ、次は本気で行く」


「なっ!? ほ、本気じゃ無い?」


「あぁ……悪いな……後輩が随分世話になったんだ……お礼をしなきゃだろ?」


 俺はそのまま男の胸ぐらを掴み、無理矢理立ち上がらせる。

 

「ま、待ってくれ……お、お前の強さは分かった……あ、誤る……」


「誤る? 誤って何が解決する? 一時は良くてもまたお前らがこんな馬鹿をしでかさないとも限らない……ここは二度とこんな馬鹿な事をしたくならないように、痛めつけておかなくちゃなぁ……」


「ま、待ってくれ! わ、悪かった! 俺の負けだ! 土下座でもなんでもする! 悟達にも近づかねえ!!」


「そんなの信じると思うか? お前らみたいな馬鹿は……力で屈服させないと学ばないんだよ……」


 俺はそう言いながら、拳を構えた。


「覚悟は良いか?」


「うっ……あ……あぁ……うわぁぁぁぁぁ!!」


 俺が拳を振るおうとすると、男は恐怖のあまり失禁し、気を失った。


「……まったく……さっさと気絶しろっての……」


 俺は気絶した男を地面に投げ捨てる。





 薄れゆく意識の中、俺は目の前で起こっている出来事を見て驚いていた。

 先程まで何も感じなかった。

 だが、今島並先輩からは何かを感じる。

 それは恐怖であり、絶対にこの人に勝てないと本能的に体が分かっているようでもあった。

 

「こ、この人は一体……」


 島並先輩の放つ何かに、その場に居た全員が恐怖しただろう。

 味方であるはずの俺も足が震えるのを感じた。

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